9-ⅩⅩⅢ ~紅羽蓮VSエンヴィート・ファイバー~
マグマによって肥大化した腕が、紅羽蓮に迫る。
「あぶねっ!」
赤く発光する拳を躱すと、超高温のしぶきが上がった。
もろにマグマを食らった車が、ドロドロに溶けたのち、大爆発を起こす。あの車の持ち主には、ご愁傷さまと言うほかない。
「……こんにゃろ!」
一瞬で本体への距離を詰め、ギロチンのごとく蹴りを放つ。エンヴィート・ファイバーの胸の上半分は寸断されたが、一瞬溶岩に変貌したかと思うと、すぐにくっついてしまう。
代わりに、蹴りを放った蓮のズボンのすそが、ボロボロに燃えて崩れ落ちてしまった。
「……クソが!」
蓮は舌打ちし、再び距離を取る。そうするしかないのだ。
どういうわけか知らないが、エンヴィート・ファイバーは全身マグマの生命体であるのだから。
(……予想できるかこんなの!)
心の中で叫びながらも、蓮はファイティングポーズを絶やさない。
確かに、自分の攻撃はほとんど効いてはいない。
だが、完全に無効化されている、と言うわけでもなさそうなのだ。
(……ちょっとずつだが、アイツの身体が細くなってる……)
攻撃をマグマ化して躱すたびに、少しずつだが奴は体積を減らしている――――――ような気がする。というか、そう思わないとやってられなかった。
幸い、蓮には奴のマグマはさほど効かない。そりゃ確かに熱いは熱いけど、不意打ちさえ食らわなければ問題はない。熱いとわかって覚悟が決まっているなら、蓮は熱湯風呂にも入れるタイプなのだ。
(……熱いのは、問題ねえ!)
そう。覚悟が決まった蓮に対して、マグマの超高温など無意味である。
なので。
「熱い」に対して意識が向く中、急に「冷たい」をされると、逆にものすごく敏感なわけで。
「――――――ひょわんっ!?」
不意に首筋に突き刺すような冷気が当たり、蓮は飛びあがった。あまりのことに、身体が強張る。
その瞬間を見逃さなかったエンヴィート・ファイバーは、マグマ化しながら蓮へと飛びかかった。
「うおわあああああああああああああ!?」
真っ赤なしぶきが上がり、紅羽蓮はその中に取り込まれる。
念のため言っておくが、普通の人間ならこれだけで全身が燃え盛って即死である。
「うわ、何だこれ、オイ、あちっ! 離れろ!」
マグマの中でもがけるのは、蓮くらいのものだというのは、お判りいただきたい。絶対真似をしないように。
「ちくしょう、どけよ!」
振り払おうとする蓮だったが、彼に再び、突き刺すような冷気が襲う。
いくらマグマを纏っていようが、蓮は裸だ。しかも、ズボンすら燃えてしまい、現在は彼は愛用の赤いボクサーパンツ一丁である。そんな彼には、あまりにも辛い冷風だった。
そして、その冷たい風は、彼にまとわりつくマグマを冷やし固めてしまった。
「!? ……これは……!」
蓮は、冷え固まった溶岩によって、動きを封じられてしまった。
「……これで捕まえたつもりかよ」
そう言い、腕に力を込めると、溶岩にみるみるひびが入る。こんなもの、力づくで脱出してしまえばいいだけだ。
だが、それを遮るように、エンヴィート・ファイバーが蓮の顔を両手でつかんだ。そして、その顔を、自分の顔と思われる部分に、ぐっと寄せる。
「……なんだよ」
まるで自分を値踏みするような、エンヴィート・ファイバーに、蓮は睨み返す。
怪人のギザギザの牙が、笑ったような気がした。そして、顔の部分がドロドロとマグマとなって、顔から剥がれ落ちる。
「……お、お前は――――――!」
蓮はその顔を見た途端、青ざめた。
そして。
「うわああああああああ――――――――――――――――!!」
焼け焦げた町に、蓮の心からの悲鳴が響き渡った。
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