13-ⅩⅩⅨ ~紅羽蓮のターン~
「……オラぁ!」
「グオオオオオアアアア――――――ッ!!」
紅羽蓮の拳が、エイミー・クレセンタの脳天に直撃する。エイミーの身体は一撃で地面へとめり込み、そして動かなくなった。
「……ったく、何だってんだ。いきなり襲ってきやがって」
蓮は手をパンパンと払いながら、ぶっ倒れているドラゴンを見やる。
安里からの連絡を受けて、大急ぎで地上に出てきたのがついさっき。と言っても、モガミガワの研究所は地下の結構深いところにあったので、エレベーターで移動するのにも時間がかかった。何せ、研究所は東京スカイツリーの高さと同じくらいの深さに作ってあるのだ。
そうして地上に出てきた途端、襲ってきたのがこのドラゴン娘という訳である。エイミーは愛に逆鱗を引っ張られたことで我を忘れていたのだが、そんな事、地上に出てきたばかりの蓮には知る由もない。
「――――――おいコラ、起きろトカゲ女! おい!」
倒れて人間の姿に戻っているエイミーの横っ腹を足で小突くと、エイミーは「う、うう……」とよろめきながら起き上がった。それくらいには、蓮も手加減している。
「……れ、蓮……?」
「何やってんだ、こんなところでよぉ」
「お前こそ……いってぇ! 頭が……」
「あー、お前がいきなり襲ってきたからな。ぶん殴った」
「ぶん殴ったって……まあ、おかげで助かったけどさ」
「は?」
全く状況がつかめていない蓮に、エイミーは彼女がわかる範囲で説明をした。平等院家のクリスマスパーティーに吸血鬼トゥルブラが紛れ込んでいたこと、そいつが十華を攫ってしまったこと、愛と共に自分が追いかけたこと、そしてトゥルブラから受けた金縛りを解除するために、愛に逆鱗を刺激してもらって――――――。彼女が覚えてるのは、そこまでだった。
「……え、ちょっと待てよ。じゃあ、愛は!?」
「……わからない。今、この場にもいないし……」
「――――――クソっ!」
蓮は慌てて周りを見回した。もしかしたら、振り落とされた愛が倒れているかもしれない――――――。そう考えたのだ。
だが、みんな避難してしまって、街には蓮とエイミー以外誰もいなかった。もし、高いところから落ちたりなんてしていたら――――――!
そんな嫌な想像をしていると、蓮のスマホが鳴った。画面を見やると、安里からの着信が大量に来ている。
『あ、やっと繋がりましたね』
「おい、愛は!?」
『心配しなくても無事ですよ――――――はい』
『……蓮、さん?』
その声を聴いた瞬間、蓮の不安はとりあえず消えた。そして、大きくため息をつくと、コホンと咳払いする。
「……無茶してんじゃねえ、このバカ!」
『だ、だってぇ! あの場で十華ちゃんを助けられるの、私だけだったし……』
『そうよ! 大体あなたにバカ呼ばわりされる筋合いないわよ!? 不良のくせに!』
「あっ、テメ、10円! 何攫われてんだ!」
『無茶言わないでよ! こちとら一般人なのよ!?』
無事な声を聴いて安心したのか、蓮はとにかく怒り散らしていた。まあ、この怒りは、こんなことになっていたのに一切協力できなかった自分への不甲斐なさもあるのだが。そして、蓮の売り言葉に十華が買い言葉で返し、2人の喧嘩はさらにヒートアップしていく。
『大体パーティーの賓客に吸血鬼が混ざってるなんて、予測できるわけないじゃない!』
「それでもあの、なんかあれだよ、警戒しろよ! 金持ちのお嬢様なんだろオメー」
『私だって毎日警戒してるわよ! でもアレは無理!』
「……なんて不毛な喧嘩なんだ」
蓮の電話越しの喧嘩を見やりながら、エイミーはため息をつく。その呆れた様子を見て、蓮もようやくクールダウンすることができた。
「……とにかく、俺もそっち行くから。どこだよ、お前ら?」
『ええとね、ここは――――――』
そう、十華が周囲を見渡した――――――であろう時だ。
『……えっ!?』
「どうした?」
『な、なんで!? いきなり、どこから――――――!』
それから、十華がこちらに話してくることはなかった。スマホを落としたのだろう、ガシャン! という大きな音と共に、何も聞こえなくなる。
「……おい!? おい!」
蓮は叫ぶが、通話は続かない。「きゃあああああ!」という叫び声だけが聞こえてくる。そうして、何も聞こえなくなった。
「おい、紅羽! どうしたんだ!? 十華たちは!?」
「……わかんねえ」
『……あー、もしもし』
スマホから、安里の声が聞こえてきた。
「安里か!?」
「何があったんだ!?」
『えー、なんというか。言うの、嫌なんですけど……』
「は!?」
『だって言ったら、絶対蓮さん怒るんですもん』
それだけで、もう蓮たちは察することができた。
――――――愛たちに、何かあったのだ。
「言え! 怒んねえから!」
『もうすでに怒ってるじゃないですか』
「言わねえとマジでぶっ殺すぞ!」
『……わかりましたよ。……はぁ、嫌だなあ』
安里はかなーり嫌そうにため息をつくと、あたかも自然を装ったかのように告げる。
『――――――愛さんが、吸血鬼に攫われてしまいました。たった今しがた』
その言葉を聞いたエイミーは、さっと血の気が引くのを感じる。
恐る恐る隣にいる蓮の顔を見やると、完全に表情が消えていた。
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