13-ⅩⅩⅧ ~分かたれた首は~
「――――――そうですか。ご苦労様です、ミズ・アイニ」
アイニより愛たちが無事に着地した報告を受けたクロムは、無線機を口元から離した。
「無事でしたか、彼女たちは……良かった……」
「ええ、ひとまずは。しかし、我々はまだやることが残っています」
「……トゥルブラ、ですか」
クロムの言葉に、ラブはごくりと息を呑む。
クロムの
「真祖があの程度の攻撃で、完全に死ぬわけがない。恐らくアレは、目くらましでしょう」
「……身体が消えた、ということは……」
「ええ。落ちた首か、腕か……どちらかで、再生するつもりでしょうね」
首と腕は、共に地上に落ちている。これだけのことをしておいて、そしてここまで追い詰めておいて、逃がす道理などエクソシストにはない。
「……しかし、クロム特級師。あなたは少し休まれた方がいい。霊流銃の連射に、遠隔で念話まで使って。霊力どころか体力まで使い果たされているでしょう?」
「だからと言ってあなた一人で対応できるのですか? ……だったらせめて、おぶってください」
「わかりました! 体力には、自信があるので!」
クロムはラブに背負われながら、あたりを見回す。わずかな霊力を使って、トゥルブラの身体を探した。
「そう言えば、愛ちゃんが乗っていたあのドラゴン。トゥルブラに突進しましたが、そのあとどこに行ったんでしょうね?」
「さぁ。生憎ですが、そこまで対応できるほどこちらも余力があるわけじゃない。警察の、
然るべき部署に連絡を入れておきましょう」
ここで、日本の警察組織に接触しておいた甲斐がある。そもそも今回の騒動自体が結構な話題になりそうだが、それもなんとかしてもらえるように根回し済みだ。こちらは、吸血鬼退治に全力を注ぐのみ。
「……む、反応がありますね。ラブ牧師、こちらを左です」
「了解しました!」
街に人はすっかりいなくなったおかげか、おっさんがおっさんを背負って全力し疾走していても驚いたりする人もいない。お陰で大柄なラブは走りやすかった。
「……そこの店の中に落ちたようですね。動きもありません」
「はい! うおりゃああああ!」
ラブが扉を蹴破ると、そこはケーキ屋だった。クリスマス商戦の例にもれず、サンタクロ
ースやイチゴのショートケーキのイラストが多く飾られている。ショーケースに入っていたであろうケーキだったものは、残念ながらショーケースそのものが割れて無残になっている。
荒れ果てた光景に、ラブは顔をしかめた。
「……せっかくの聖夜を、こんな……」
「人的被害の情報が入っていないだけまだマシですよ。ケーキは、クリスマスでなくても食べられますからね」
そして、ショーウィンドウの中を覗く。生クリームとスポンジ塗れになっている、トゥルブラの首が、そこにはあった。
「……普通に考えれば、これが本体ですよね……」
「ええ。普通は、ですが」
何せ、相手は真祖。
そして、クロムたちのある意味想定通り――――――。
首はクロムたちの姿を確認したかのように、此方を見る。そして――――――霧散した。
「……偽物……!」
「つまり、本体は――――――!」
クロムの額を、脂汗が滴り落ちた。
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