16-ⅩⅩⅩⅩⅩ ~安里修一の拷問ノルマ~
「……え、今日はバイト、休みなの?」
「うん……」
愛の通う学校、
「で、その、川上? って奴は、とんだクズ野郎だったわけだ」
「うん、そうなんだよね」
愛とともにコーヒーを飲んでいるのは、すっかりいつものメンバー、略していつメンとなっているドラゴンに変身できる宇宙人エイミー・クレセンタと、愛の幼馴染であり、市議の娘にしてはちょっとお金持ちすぎるお嬢様、
「まあ、そんなのが絡む事件ってなると、愛ちゃんを巻き込むわけにもいかないわよねえ?」
「だろうな。もしそんなのにお前が絡まれてみろ。……紅羽の奴、今度はホントに日本を滅ぼすぞ」
「やめてよ。否定できない!」
彼女たちは揃いも揃って、去年のクリスマスに蓮が日本を滅ぼしかけた事件の中心にいた。そのせいで、ちょっとした拍子で世界が滅ぶ、という危ういバランスの上にこの世界が成り立っていることを、思い知らされてしまっていたのだった。
「……その肝心の紅羽は、まだどっか行ってんのか?」
「うん。富士山が良く見えるんだって。お土産は富士山の何か買ってくるって言ってた」
「旅行じゃないんだから……仕事でしょ?」
「つーか学生なんだから、勉強しろよ」
「い、一応、学校に行ってるはずだから……」
それに、転校している分の単位は、蓮の通う
「それにしても、お前をわざわざ休みにしているってことは……安里の奴、相当ヤバいことやってるんじゃないのか?」
「愛ちゃん、何かそれっぽいこと聞いてないの?」
「うーん。川上さんの事を調べてると思うんだけど……」
愛はジュースをストローから飲みつつ、カフェスペースの天井を仰いだ。
「……安里さん、すっごく邪悪な顔してたからなぁ。関わらない方が正解かも」
「「それはそう」」
安里修一なんて危険人物には極力関わらずに生きた方が良い人生を送れることは、女子高生でもわかる常識なのだ。
*****
「う、うう……」
「――――――こちらの質問に答えていただけませんかね?」
徒歩市にある、とあるビルの一角。そこは、とある半グレ集団のアジトとなっていた。詐欺や暴力をふるうことでしか生きられず、かといって極道や悪の組織にも入ることのできない、中途半端な悪党ども。この街で最もバカにされる悪の類。だが、そこでしか居場所のない、まさに半端な連中の集まりだ。
そしてそこにいた半グレ連中は、皆床に転がっていた。
「か……は……っ」
「ヒュー……ヒュー……」
倒れている半グレたちは、皆自分で自分の首を押さえていた。口をパクパクさせながら、まるで息ができない金魚のようになっている。……というか、本当に息ができないらしい。
「苦しいですか? そうでしょうねえ。いつまでもそうやって床を這いずり回ってたら、ずっと息できませんよ?」
そう言ってにこやかな笑みを浮かべているのは、
ボーグマンの身体から出ているのは安里が作った毒ガスである。だが、死ぬようなものじゃない。せいぜい、吸い込むと肺が少し麻痺して、思うように息ができなくなるだけのものだ。ガスそのものが直接死につながるようなものでもない。そして何より、空気より重いので蔓延と言っても床にたまる。そんなガスだ。
安里はアジトに襲来と同時、天井にガスをばら撒いた。それを吸い込んだ半グレたちはみな、呼吸できない苦しみに地面にバタバタと倒れる。
ガスが下に落ち切ったところで、安里たちは悠々とアジトへと入った。落ち切ってしまえば、立っていれば安里たちがガスを吸うこともない。半面、一度吸い込んで倒れてしまった者たちは、床にたまったガスを延々と吸い続ける。そのたびに、思うように息ができない無間地獄にはまってしまうわけだ。
安里がそんなことをした理由は、ガスにより呼吸ができなくなった半グレの一人にある。ボーグマンがその男の頭を掴むと、グイと持ち上げて机に叩きつける。
「はい、どうも。喋れますか?」
「あ……あ……!」
安里のにこやかな問いかけに、男は目をぎょろりと見開いて、彼を睨む。呼吸できない苦しさで血管が収縮しているのか、ひどく充血していた。
「ちょっと聞きたいことがあってきました。貴方にね」
「な……なん……!」
「高校時代に貴方が、女の子を手籠めにした場所を、教えてほしいんです」
男の正体は、川上と一緒に女の子の写真を撮っていた男だった。あれから調べたところ、高校卒業後も定職に就かず、ぶらぶらとしていたそうだが、最近になってこの半グレのアジトに通うようになったんだとか。
「だ……と……!? なん、で、そんな……!」
ガスの効果が切れてきたらしい。男は少しずつ、喋れるようになってきた。もちろん、それも安里は見越してのことだが。
「質問に答えていただけませんか?」
「ふざけん、な、誰が……!」
そう言う男の指に、ごりっとした感触が。見れば、朱部が指の関節に銃口を
押し当てている。
「……お、おい、何す――――――」
言うよりも早く、朱部は引き金を引いた。ズドン。という、くぐもった破裂音とともに、血しぶきが飛ぶ。男の指の関節に、風穴が空いた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああっ!」
「朱部さん、ちょっと早いですよ、撃つの」
「女を舐めているようだから、つい」
朱部は返り血を顔に浴びながらも全くひるまず、次の指の関節へと銃口を押し当てる。男がまた何かを言う前に、ズドン。銃弾は男の指を貫いた。
「う、う、う、うぎゃあああああああああああああああああああああ!」
「……すみません、なるべく早く教えてくれた方が、貴方のためですよ?」
「ら、ラブホテル! ラブホテルだ! 郊外の!」
ズドン。
「ひぐっ! ……な、名前は、『ホテル ロマンサー』!」
ズドン。
「誰かと一緒に使ってました?」
「こ、高校の仲間と一緒に! 弱みを握った女を連れ込んで、そこで写真撮ってそれをダシに……!」
ズドン。ズドン。ズドン。ズドン。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「……朱部さん、ちょっと撃ちすぎじゃないです?」
「ちょうど今ので弾切れよ」
マガジンをとりかえながら、朱部はクールに言う。そんな彼女は返り血で真っ赤であり、男の手はそれよりも真っ赤だった。男は悲鳴を最後に、痛みで気絶してしまっている。
「……聞きたいことは聞けたので、いいですけどね?」
「それに、どうせあなたが治すんだから。これは、今まで泣かせた女の分よ」
「まったくもう、容赦がないですねえ、朱部さんは」
そう言う安里だったが、そもそも毒ガスで人を呼吸困難に陥れるのも、どっこいどっこいで容赦がないのは、誰もツッコめなかった。
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