9-ⅩⅩⅩⅦ ~目覚める粗大ごみ~

 桜花院女子校の文化祭は、途中雷のような爆発音があり、一時中断はしたものの、報告を受けた理事長側より「問題なし」の認定を受けた。

 よって、文化祭はつつがなく続行することとなった。


 まあ、問題が一つあるとすれば。


「ぐおおおおおおおおおおおお! ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うううううううううううううううう……うるさい……! 眠れない……!」


 文化祭防衛の立役者である立花愛が、肝心の文化祭に参加できる状態ではないという事だろう。

 しかも困ったことに、保健室のベッドは2つしかないので蓮の隣のベッドである。そして蓮は未だに起きず、盛大ないびきをかいていた。

 耳を塞ぎたくとも塞ぐための腕が動かず、しかも蓮の方はどうやっても起きない。

困り果てた安里は、とうとう専門家を呼ぶことにした。


「すいません、ちょっと引き取りに来てもらえます? はい、粗大ごみなんですけど」


 そうしてやって来たのは、蓮の母と、家の犬であるジョンだった。


「あらまあ。蓮ちゃんったらもう」

「すみませんが、お願いできますか? 僕じゃあ、どうやっても起きなくて」

「はいはい。……ジョン!」


 母がリードを手放すと、ジョンは慣れた足取りで蓮の上に飛び乗る。

 そして、そのまま、蓮の顔にべったりとのしかかった。

 するとほんの数秒ほどで、蓮の手がぴくりと動く。そしてゆっくりと、のしかかっているジョンを掴むと、優しく持ち上げた。


「……ジョン?」

「ワン」


 怪訝そうな顔の蓮に、ジョンは「しょうがない人だ」と言う感じに吠えた。むくりと起き上がれば、いつもは着ないような白Tシャツに、安里たちがあきれ顔で自分を見やっている。


「……あ?」

「あ? じゃないですよ、あ? じゃ」


 安里は首を横に振り、溜息をついた。この目をぱちくりさせている男、さっきバズーカを顔面に撃ち込んでも起きなかったというのに。


(……まあ、同化侵食もできませんし、規格外なんでしょうね、色々と)


 安里はそう納得することにした。というか、そうしないとやっていられなかった。


「俺は……確か……」

「どこまで覚えてます?」

「えーと……たしか、あのエンヴィなんちゃらが襲い掛かってきて、それで……うっ!」


 どうやら思い出したらしい。自分がどうして気を失っていたのかを。

 そして、顔を真っ赤にして怒り始めた。


「あのカマ野郎ども、どこ行きやがった! ぶっ飛ばしてやる!」

「もう終わりましたよ。とっくのとうに」


 あきれ顔で言う安里に、蓮はぽかんとする。


「……は? いや、あんなの誰が倒せるんだよ」

「蟲忍衆の二人が頑張ってくれましたよ。ただのパンチキックしかできないあなたと違って、ちゃんと有効打があったみたいで」

「あいつらが? ……まあ、そっか」


 愛が倒した、という事は、本人の希望で秘密になり、結果ムシニンジャーの二人で倒したこととなった。

 蓮には、自分が戦っていることを知られたなくない、と言う彼女の乙女心に従い、今回はそれで話を合わせている。


「つーか、何処ここ?」

「桜花院ですよ、こっちまで来ちゃって大変だったんですから」

「……桜花院!? ちょっと待てよ! じゃあ、愛たちは……!」

「暴れられる前に止めました。まあ、愛さんは……」


 そう言って、安里が蓮の隣を指さす。そこでようやく、蓮は愛が隣で寝ていることに気が付いた。


「……なんで!?」

「大事を取って避難してたんですけど、慌ててこけて、腰を痛めたそうですよ」


 超適当な嘘であった。愛からは「いい感じに誤魔化しておいて」としか言われていない。


「……何やってんだよお前……」

(あなたにだけは言われたくねえ――――――っ!)


 すっかり信じ込み、ダメなものを見る目で自分を見つめる蓮に、愛は心の中でツッコんだ。気絶までならよしんばいいものの、そこからあなたは爆睡していたじゃないか。


「とにかく、目が覚めたのなら帰ってもらえます? あなた、ただでさえ出禁なんですから」

「……ちっ、わかったよ」


 そう言って立ち上がったところで、愛は「きゃあ!」と声をあげた。

 何事かと思えば、蓮の格好は白Tに、赤いボクサーパンツのまま。ズボンを履いていなかった。


 粗大ごみはひどく赤面し、母からジャージをもらうと、それを履いてすごすごと帰っていった。

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