9-ⅩⅩⅩⅥ ~三蛇三斬・夜大伊斬り~
「蓮さん、起きてください、蓮さん!」
安里修一は、必死に紅羽蓮を起こそうとしていた。だが、蓮が目覚める気配は一切ない。冷や汗をかきながら、安里は手に持っていたバズーカ砲を放り投げた。すでに硝煙が漂っているところを見るに、すでにぶっ放した後である。
目の前には、涎垂らしながら爆睡している、顔が煤けた蓮の間抜け面。顔面にバズーカ砲を食らったというのに、全く持ってノーダメージであった。本当に人間かこの人、と安里は疑ってしまう。
「あの、保健室壊さないでね?」
「わかってますよ!」
バズーカ砲なんて、普通に打てば保健室が吹き飛ぶのは当然。それゆえに安里により、被害を一切出さないように養生したうえでこれらの行為を行っていた。
ほかにも色々、起こす方法は試したのだ。だが、起きる気配は一向にない。
揺すったり、叩いたり、殴ったり蹴ったり。息を止めようと鼻と口を塞いだら、寝ぼけた状態で攻撃されてしまった。
寝ぼけた蓮の攻撃の破壊力は、安里の想像をはるかに超えていた。なにせ、寝ぼけた蓮の蹴りは、世界を滅ぼす邪神を一撃で蹴り殺す威力である。
そんなもん食らったら、いくら安里でも無事では済まない。事実、先ほどは安里の身体、上半分が吹き飛んだ。
むしろよく、毎朝この人を起こせるなあ。事態が事態なので焦っているからか、普段からよく蓮を起こしている紅羽家の飼い犬のジョンには尊敬の意すら抱いてしまう。
「……そう言えば、今何分経ちました?」
「……もう、10分くらいは経っているわよ」
ふと、安里がシグレに尋ね、腕時計を見やる。エンヴィート・ウィッチの移動速度的に、そろそろ来てもおかしくない。
そして、あんなのが襲来したら、学校は大パニックになると思うのだが。なんだか、妙に静かだ。いや、騒がしいは騒がしいのだが、プラスな感じの騒がしさである。
「……あれ? おかしいな」
「……へあっ!?」
突如、シグレが素っ頓狂な声をあげる。安里が振り向くと、彼女はスマホを片手に口を押さえていた。
「……なんです?」
「こ、こ、こ、これ……!」
シグレが見せてきたスマホの画面では。
徒歩市上空で魔女と戦う、ドラゴンの姿があった。
********
マシンガンのように、溶岩が飛来する。高熱を纏ったその「弾岩」は、容赦なく目の前の竜へと飛んでいった。
それを高速飛行で回避した竜は、そのまま一気に魔女との間合いを詰めた。
本来なら、ブレスや爪など、攻撃手段はいくらでもある。
だが、それはしない。
なぜなら、自分は今回「足場」なのだから。
エイミーは高揚すら覚えながら、背中に神経を集中させていた。
その背中に立つのは、和装メイド服の女子高生――――――の身体に憑依する、宇宙最強の剣豪である。
「―――――――っ!」
エンヴィート・ウィッチも、夜道の持つ刀に影響されてか、咄嗟に溶岩と氷塊で巨大な剣を作る。元々は繊維の集合体、自由自在に形を変えることなど訳ない。そのまま、エイミーもろとも切り裂こうとする。
「夜刀神、一刀――――――!」
夜道が返す刀を振り下ろすと、巨大な剣とぶつかる――――――ことはなかった。
まるで豆腐のように、巨大な剣が二つとも、真っ二つに斬れたのだ。
「……うおおおおおおおおおお!! すげえええええええ!!」
エイミーは下からその剣技に、興奮の雄たけびを上げていた。
「……っ!?」
何が起こったのかもわかっていないエンヴィート・ウィッチに対し、夜道は追撃を加えようと剣を横なぎに振るう。咄嗟に後ろに飛んだ魔女は、躱すことはできたものの、これによって再び目的地の女子校への到達は遠のく。
「……邪魔、シナイデ……!」
魔女の全身から、無数の弾岩が飛ぶ。先ほどの女たちとの戦いのときも、同様に距離を取ることがいいだろう。そう判断したのだろう。
だが、夜道たちはその弾の雨をまっすぐに突き進む。
「エエエっ!?」
まともにくらえば、コンクリートのビルが木っ端みじんになるほどの破壊力のはずなのに。いったいどうやって、と見れば、答えは簡単だった。
まず、エイミーにはそれを上回る装甲があった。忘れがちだが、彼女がドラゴンになるきっかけとなった細胞は、この世界における怪人の「祖」ともいえる存在のもの。
その肉体の強靭さは、こんな豆鉄砲で傷つくものではない。
そして、その上にいる霧崎夜道と言えば。
刀を振るうこともなく、最小限の動きで弾丸を全て見切っていた。なんだったら、斬ってすらいない。
(……化ケ物ダワ……!!)
あっという間に間合いを詰められたと思えば、喉を刀の柄で突き飛ばされた。
「ガハッ……!!」
素体となっている人間の影響か、エンヴィート・ウィッチの内部構造も人間とほぼ同じものとなっていた。呼吸が止まれば、苦しくもなるのだ。
そして、その隙を見逃す夜道ではない。
「……ウワアアアアアアっ!」
慌てて躱すものの。振るわれた剣は、魔女の右肩を切り裂いた。霊力で作られた刃は、溶岩や氷塊に身体を変換したところで、逃げることはできない。
「ギャアアアアアアアアアアっ!?」
繊維がちぎれ、血が噴き出したことで、魔女はひどく動揺した。そして、飛行していた高度が著しく下がる。
「……頃合いだな」
夜道は腰に差していた模造刀を抜き放つと、鞘を放り投げる。夜刀神刀は、口にがっちりと咥えた。
そして、脱力して真っ逆さまに、エイミーの背中から飛び降りる。
「……っ!? ヤトガミ――――――!?」
エイミーは突然のことに反応が遅れた。まさか飛び降りるなんて思ってもなかったのだ。
(え!? ……いや、その身体は愛の――――――っ!?)
使ってるのは夜道だが、元々の身体の持ち主は、普通の女子高生である愛である。
そして、その愛の意識は。
(……きゃああああああああああああ―――――――っ!!!!)
どんどん加速しながら落ちていく自分の身体に、恐怖で叫んでいた。
「心配すんな、何とかなる。任せろ」
(そ、そ、そ、そんなこと言ったってえええええええええええええええええ!!)
夜道はそういうものの、そろそろ狼狽の影響で落下するエンヴィート・ウィッチに追いつく。両手の刀を構えると、夜道は身体をひねって回転を加えた。
「夜刀神流奥義、
「……っ!?」
魔女の方も、迫ってくるこちらに気づいたらしい。
やはり、回避は頭になかった。というより、落下中で身体の自由が利かないのだ。
結果、彼は最大火力の炎と氷をぶっ放すことを選択する。
「来ルナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
それはエイミーでも、回避しなければケガをするほどのエネルギーの塊。そして、夜道にはそれを回避する足場はない。
「あ、愛――――――っ!!」
エイミーが叫ぶ中、夜道は愛の霊力を、模造刀に込めた。
「
回転の勢いのままに、氷焔と正面からぶつかる。
「――――――
衝突の途端、炎と氷が霧散した。太陽の光に反射し、空が輝く中、魔女めがけて夜道は、一切の勢いが死ぬことなく落ちる。
「……エ?」
その瞬間には、夜刀神刀で魔女の身体は縦に寸断されていた。そして断ち切られたことにより、融合していたマリリンとステファニーが、その姿を取り戻す。
「わ、私たちは……」
「何を……?」
その一言が、彼らの覚醒した意識の限界だった。直後に、強い衝撃を顔面にくらい、再び気絶したのである。
三刀の夜道が最後に放った斬撃は三つであった。一つは魔女をぶった切るもの、残りの二つは分離したオカマを打ち据えるもの。
模造刀は、力強く打ち付けられた衝撃で粉々に砕け散った。
「あー、やっぱりもたんかったか」
(そ、それより着地! 着地してえええええ!!)
夜道の意識の中で、愛が泣き叫ぶ。もう、足場はすぐそこだ。
「あーもう、わかったわかった」
夜道は霊力を手足に込めると、まずは手から霊力を発する。まるでブースターのように落下の勢いを殺すと、そのまま姿勢を変えて、今度は足から。
落下の勢いを殺しつつ、最後はすとんと建物の屋上に着地した。そして、おもむろに夜刀神刀を鞘にしまう。
「ふー、なんとかなったな」
(何とかなったじゃないでしょお!)
危うく死にかけた愛が、夜道に対してわめきたてる。「悪かった悪かった」と夜道は言うと、愛の身体から夜刀神刀へと戻っていった。
「……ふー……っ!?」
愛の意識と身体がつながった直後、凄まじいほどの激痛が愛の全身を駆け巡る。思わず、愛はその場に倒れ込んだ。
「愛!」
慌ててやって来たエイミーが、彼女を抱きかかえる。身体的な傷はないようだ。となると――――――内側か。
「た、タスケテ……身体、ウゴカナイノ……」
あれだけアクロバティックな動きをして、彼女の筋繊維が無事で済むはずがなかったのだ。
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