4-Ⅷ ~安里家の一族~
そして抱きしめられている安里も、まんざらでもない様子であった。
(……なんだよ。アイツも、案外人間らしいじゃねえか)
それからみんなで晩御飯の準備だ。愛も「ごちそうになるし」と言って手伝っている。蓮や安里にはできることが少ないので、机を片付けるなり食器を運ぶなりに留まる。
安里は食器の位置を、すべて把握していた。半年ほどしかこの家におらず、それから7年も経っているのに、よく覚えているものだ。
一方夢依はと言うと、おばあちゃんにべったりであった。すでに村田家の末裔である事情は説明済みであり、そのうえで受け入れてもらっている。
「まあ、本当のおばあちゃんはあんな感じじゃなかったですから」
「お前の義理の母親なんだっけ?」
「義理なんて欠片もなかったですけどねえ」
食器を運びながら、安里はそう語っていた。
そうして、かなりの料理が運ばれてくる。一般的なオードブルに、これでもかというほどのゴーヤチャンプル、さらに沖縄名物のソーキ(いわゆるスペアリブ)だったりと、多彩な料理に沖縄の郷土料理も並んでいた。
それらを口に運びながら、これからの予定について話し合う。
「まあ、美ら海水族館だったりは行こうと思ってますけど……メジャーですしね」
「ねえ、修一くん。良かったら、今度沖縄の島ロケに行くんだけど、皆で見学に来ない?」
「島ロケ?」
夕月が見せてくれたのは、聞いたことのない冒険番組の台本だった。具体的に言えば、世界のふしぎを発見する系の番組である。
「でも、沖縄なんですか?」
「そうなの。それで、私がミステリーハンターに選ばれたのよ」
なんでも沖縄の南にある無人島で、謎の石碑が発見されたそうで。そのタレコミを参考に、ロケを敢行するのだそうだ。裏取りも済ませており、石碑があることは間違いないという。
「ふむ。どうします?」
「いいんじゃねえの? 別に危ないロケでもないんだろ?」
「ええ。危険な生き物もいないらしいし」
「……あれ、結構タレントさんもいるんですね」
「そうなのよ。芸人さんもいるしアイドルもいるし」
アイドル。ピンク髪の面影が脳裏によぎった蓮は、その台本を借りる。
「……あ、なんだ」
そこには、予想していた名前は入っておらず、聞いたことのない名前ばかりであった。蓮はひとまずほっとした。
(そりゃ、事情聴いているんだったら沖縄なんて行かせねえよな)
「蓮さん、どうかしたの?」
「あ、いや、何でもねえ」
「じゃあ、この日はそのロケに同行しましょうか」
安里は予定日である2日後に〇をつけた。
***************
その後、蓮と愛と朱部はホテルへと移動し。
特に何か起こることもなく、1日目は終わり。
2日目は沖縄本島にわたり、様々な観光地を巡っていた。
美ら海水族館に行って巨大なジンベイザメに驚いたり。
昨年全焼して復旧中の首里城の焼け跡を見たり。
万座毛から海の眺めを見やったりした。
***************
「ぬわああん疲れたああああ」
一日沖縄を走り回り、夢依は完全にくったくたになっていた。休憩に入った喫茶店の中である。
「だらしない声出すんじゃありませんよ」
アイスを頬張りながら、安里がぼやく。とはいえ、夢依がそう言うのも無理はない。他の事務所メンバーも、なかなかに疲れている。蓮なんて目の前で涎垂らしながら眠っている始末だ。
「ちょっと弾丸過ぎましたかねえ」
「いいんじゃないですか? こういうのも、たまになら」
愛がそう言いながら、蓮の口元をナプキンで拭いていた。起きたら赤面ものだろう。面白いので、安里はその様子を写真に撮っておく。
「何撮ってるんですか?」
「旅の思い出ですよ、思い出」
「はあ……」
怪訝そうな顔をする愛をよそに、安里は昨日夕月からもらった台本の写しを見やる。台本と言ってもA4用紙3枚分程度の、ざっくりしたものだ。
出演するのは夕月とお笑い芸人が一人、後はアイドルからバラエティを得意とする、いわゆるバラドルが一人。合計3人。
ここにスタッフが5人加わる。さらに現地のガイドを1名用意しており、それに蓮たちが合流する形だ。
「其れだとメンバーほぼ倍くらいになっちゃいますけど、大丈夫なんですかね」
「ま、夕月さんが大丈夫だというなら大丈夫なんでしょう」
勢いのある女優だという話だし、多少のごり押しは効くのかもしれない。
「まあ、最低限自分たちで用意できるものは用意していきましょう」
安里はそう言うと、台本をカバンにしまった。
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