4-Ⅶ ~古宇利大橋は本当に絶景です。~
夕月の車ではちょっと入りきらないので、安里たちは大型タクシーで夕月の後をついていくことにした。何しろ夕月たちの家がある
拾った大型タクシーの運ちゃんも、安里たち一行を見て大いに驚いた。まさかロボットがいるとは思わなかったらしい。
「え、えーと、それはどうするんですか?」
「ああ、トランクに入れますね」
「ええ……」
運転手はドン引きだったが、ボーグマンは体育座りをしてトランクに入った。そこに蓮たちもスーツケースなどを入れ、さっそく出発である。
「で、何方まで?」
「古宇利島までお願いします」
「古宇利島ですか。……やっぱり観光で?」
「ま、そんなとこです」
車体を少し軋ませながら、タクシーは走り出した。
沖縄の空は快晴であり、青い空が広がっていた。
海沿いの道を走れば沖縄らしさがよりよく見えるのかもしれないが、残念ながらタクシー代を節約するためにがっつり街中を走っている。
「なんか、沖縄っぽくねえなあ」
「その内嫌でも沖縄っぽくなりますよ」
蓮のぼやきに安里が言い、各自スマホを眺め始める。
そうして、沖縄の町を走ること1時間半。
「皆さん、見えてきますよ」
運転手の言葉に外を見た面々は、「おおおおー」と声を上げた。
そこにあったのは、一本の巨大な橋であった。エメラルドグリーンの海に挟まれた、何の遮蔽もなく続く直線。その先に見える緑豊かな島。
古宇利島に行く唯一のルート、古宇利大橋である。
さっきまでスマホを眺めていた面々が一転、外の写真を撮ろうと窓際に貼りついていた。
「すっごい沖縄っぽい!」
「やっぱ沖縄に来てたんだな、俺ら」
「何言ってんですか、当たり前でしょ」
「ははは。ここを通る人は、皆そう言うリアクションになるんですよ」
運転手が豪快に笑い、タクシーは島へ向かって進んでいく。
***************
安里家は、古宇利島に入り、左手に進んだ住宅エリアの一郭にあった。古い瓦葺の屋根に、入り口には対となっている小さいシーサーが置いてある。
お世辞にも大きいとは言えない家だ。それに、ここには4人も住んでいるのだから、新しく5人と1機は、どう考えても部屋が足りない。なので、蓮たちは近くのホテルに泊まることになっていた。
夕月がインターホンを押すと、ゆっくり歩いてくる音が聞こえる。ドアが開くと、小さい、それこそ夢依くらいの身長の女性が腰を曲げて立っていた。
「ただいま」
「おかえり……来たんね、修ちゃん」
安里家の家長たるおばあちゃんである。御年63歳であり、安里が家にいた時は「修ちゃん」と呼んでいた。
「……どうも、ご無沙汰してます」
「かしこまらんでええよ、入りや。お友達も一緒にね」
「ど、どうも」
「ごちそうになります」
蓮たちは家に上がると、ひとまず荷物を置く。
「あ、充電させてもらっていいですか。これ、充電式なんですよ」
「そうなん? 変わったもの連れとるね」
ひとまずリビングにあるコンセントにボーグマンは座ると、尻の上部分、いわゆる尻尾に当たる部分からプラグを取り出した。
「ホントに、どんだけ仕掛け入れてんだよ、コイツ」
「増やそうと思えばいくらでも増やせますからね」
「あれ、姉さんは?」
「
「あ、美夜も?」
一方の美夜は夕月の妹だ。4姉妹の中では一番幼い。安里が来た時には大学生だったが、現在は就職し、家でWEB関係の仕事をしているのだとか。今いないのは、クライアントとの打ち合わせのためだ。
「修ちゃんが来るって言うから、遅れずに帰ってくるとは言っとったけどね」
「そう……」
「とりあえず、何か食べるかい? 煮物作ってるよ」
おばあちゃんがそう言って持ってきたのは、カボチャの煮つけだった。
「あ、美味しそう!」
「うちの畑で採れたカボチャだよ」
一同は煮つけを口に運ぶ。カボチャの甘みが煮込んだことでよりその甘みが引き立てられていた。
「あ、美味えこれ」
蓮たちが煮つけに夢中になっている間に、安里はそっと席を立った。それと一緒に、おばあちゃんも一緒に立ち上がる。
家の奥にある小さい部屋に向かうと、小さい仏壇が置いてあった。そこに飾られている写真に、安里は見覚えがある。
安里の母親、朝美の写真だ。
安里もおばあちゃんも、互いに何も言わない。ただ、線香をあげて、手を合わせる。
「おじさん、何して……?」
夢依がひょっこりと顔を出してきたのは、ちょうど同じタイミングだった。
「ああ、夢依」
「この子は?」
「僕の姪です。まあ、皆さんとは血のつながりはありませんよ」
「……じゃあ、あの村田って連中の子かい?」
おばあちゃんが、じろりと夢依を睨んだ。その眼光に、夢依は思わず後ずさる。
おばあちゃん含む安里家の一族にとって、村田家の人間は良い印象を抱いているわけがない。そのことは、安里から聞いている。
なにしろ、大事な娘を傷ものにした挙句、事故に見せかけて殺したのだ。夢依は当事者ではないものの、名前が村田剛三の顔を思い出させるだろう。
「……あ、あの」
「ちょっとこっちに来んさい」
おばあちゃんに手招きされて、夢依は恐る恐る近寄る。
「座んなさい」
そう言われて正座した夢依を、おばあちゃんはじっと見つめた。
「……夕月から、事情は聞いとるよ。お母さん、亡くなったそうだね」
「は、はい」
そう言う夢依の頭を、おばあちゃんがポンと優しく触った。
「辛かったのう。自分のおばあちゃんちだと思って、ゆっくりしていきんさい」
「え」
夢依が顔を上げると、おばあちゃんはしわのある顔を、くしゃりと笑って歪ませていた。そのまま頭を撫でて、夢依を近くに抱き寄せる。
「こんな小さいのにねえ。大変だったね」
撫でられているうちに、夢依の身体がわずかに震える。おばあちゃんの服を掴む手に、力がこもるのが、安里から見てもわかった。
安里はその様子を見やると、部屋から出て行こうとする。
「修ちゃん」
おばあちゃんに呼ばれ、ちらりと振り向いた。
「修ちゃんも来るかい?」
「……よしてください。姪っ子の前でみっともないですよ」
膝をポンポンと叩くおばあちゃんに安里はそう言って笑うと、部屋から出て行った。
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