11-ⅩⅩⅠ ~ライブ☆スタート!!~
けたたましい音がして、たまらず彼女は家を出た。幼稚園と併設している自宅から、円形の園庭に出る。
「……あなた!」
異形と化し、咆哮を上げる夫の姿に、自然と叫んでいた。そして、夫の目の前には、見知った顔の少年が、彼を睨むように立っていることに気づく。
それは、幼稚園の副園長である彼女も、良く知っている顔だ。
「副園長!」
「……蓮くん!? なんで、ここに……」
副園長の様子を見て、蓮は舌打ちする。どうやら、夫婦で知らなかった、というわけではないらしい。彼女は怪人としての夫の姿に、驚く様子もなかった。
つまりは、今回の犯行の事も全部知っているのだろう。
「……家に入っていなさい」
「でも、蓮くんが……? なんで?」
「早く 家ニ 入れ!」
動揺する妻に、犬飼園長は叫んだ。その声に彼女は驚きながらも、慌てて家の中に戻る。
あんなに声を荒げる夫は、ほとんど見たことがない。普段はとてもやさしく、紳士的な男性なのだ。
「……あとで、副園長にも話聞かねえとな」
「それは、無理ダヨ。……ミドリさんに、謝らなケレば」
日本刀を抜き放ち、園長は蓮を睨んだ。この姿と正体を知られた以上、生かして逃がすわけにはいかない。
そして、それは蓮とて同じこと。このまま黙って、香苗たちのライブ会場に活かせるわけにはいかない。
対峙した両者は、じりじりと距離を測る。ピリピリとした緊張感が、早朝の誰もいない幼稚園の園庭に張りつめた。
そして、木枯らしが散らした葉が、地面を掠る音がしたとき。
――――――両雄は、激しくぶつかり合った。
*******
ライブが始まる直前。DCS改め、DCS48は、楽屋にて円陣を組んでいた。
「……今日は、思いっきり楽しむぞ――――――っ!!」
「「「「「おおおおおおお――――――――っっっ!!!」」」」」
京華の掛け声とともに、総勢48名のメンバーたちは、思い切り地面を踏み鳴らした。彼女たちなりの、気合の入れ方である。
このライブのために、みんなで話し合い、ライブの曲の順番、スケジュール、さらには動画チャンネルの宣伝からグッズの企画作成など、あらゆることを自分たちでやって来た。
そのおかげか、ライブのチケットは、現在ほぼ満席、という最高の結果となっている。あとは、来てくれた観客たちに満足してもらえるパフォーマンスをするだけだ。
しかし、元々ほかのグループなども合わさった寄せ集め。統一感のあるパフォーマンスというのは、急ごしらえではなかなかに難しいものがある。
「ならいっそ、個性を出していこうよ。以前からファンでいてくれた人たちのことも、忘れていないよってアピールにもなるし」
アザミの提案のおかげで、今回のライブでは各ユニットごとの個性を押し出しつつ、決めるべきところでは全体の統一感をアピールする方針になった。最初と最後だけは全員で、後は各グループごとのパフォーマンスタイムだ。
3人寄れば文殊の知恵というが、48人も集まればそれはもう様々なアイデアが湧いてくる。それをまとめ上げるのが、香苗たちDCSの役目だった。
ライブ開始まで、残り5分を切っている。
全員が緊張と興奮状態にある中、香苗だけが目を閉じ、静かにたたずんでいる。
「かなっち、落ち着いてるね?」
「京華ちゃん……やだなあ、落ち着いてないよ。むしろ、すっごいドキドキしてる」
心臓が飛び出そうなのを、胸を押さえて必死に押さえるので精いっぱい。こんな状況で緊張せずに臨めるのは、それこそ鉄の心臓の持ち主くらいだろう。
「……でも、ここまで来たら、楽しまないとね!」
「もちろん! やってやるよ、思いっきりね!」
「うん。……そういえば、紅羽くんは? 来てるの?」
「……わかんない。連絡、来てなくて」
一応、彼には「ライブには来てね!」と約束しているのだが。よくよく考えれば、実際に来ているかどうか、確認する手段が彼女にはないのだった。
「ライブ、やりながらちょっと探してみようかな?」
――――――きっと、来てくれているよね。
そんな思いを香苗は胸に秘めて。
――――――いよいよ、ライブが幕を開けた。
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