11-Ⅷ ~中継地:札幌~
「ニューヒロイン・プロジェクトの復活!?」
「新しい事務所立ち上げ!?」
わざわざ実家に出向いてきた香苗たちによるスカウトに、かつてのニューヒロイン・プロジェクトのメンバーはそれはもう面食らっていた。そりゃ、まさか直接来るなんて思ってないだろう。
北の果ては北海道まで。それはそれはもう、蓮たちは毎日走りまわった。いや、実際走り回ったといってもほとんど車なのだが。
「……お前、よく運転できるよな。こんな長時間よ」
「えっ?」
あまりにも運転をタフにこなし過ぎる麻子に蓮はちょっと疑いの目をかけたりもしたが、
スカウトの旅自体は順調だった。
「私たちが自分たちでやりたいことをできるアイドル事務所を作るの!」
「……か、香苗ちゃんたちがそう言うなら……」
やはり、夢咲香苗の存在が大きいのだ。彼女は大手事務所によって、プロジェクトの中でも最も大きな被害を受けている。何しろ、純潔を失う一歩手前だったのだから。
そんな彼女がアイドルを続けるといえば、事務所への不満など言えない。ならば、あとは本人が「やりたいか、やりたくないか」による。
そして、そんなのは決まって「やりたい」なのだ。そうでなければ、今までアイドル活動などしていない。
「みんなが集まったら、再結集ライブをやろう!」
「……私、他のメンバーにも、声かけておくね」
「ありがとう!」
そう言って、香苗たちはメンバーと抱擁し、再結集の約束を交わしていく。後ろで、蓮は溜め息をついていた。
ニューヒロイン・プロジェクトのメンバー数がDCSを除いて12名。今回の旅は、最初に東側を攻める計画だ。太平洋側から北上し、太平洋フェリーで北海道に上陸。北海道在住のメンバーの元を訪れたのち、小樽から日本海フェリーで本州に戻り、今度は日本海側をぐる~っと回るのである。
ちょっと考えただけでもかなり無謀でやばい旅なのだが、「面白そう」という理由で採用されてしまい、現在蓮たちは北海道
(……どうやってスカウトしたんだ、あのゴリラ……)
わざわざこんなところに来たというのか? それとも、他の町に来ていたところを声をかけたとか? いずれにせよ、こんなところに実家がある奴をスカウトするなど気が知れない。
『いやー、どうですか、調子は?』
「とりあえず帰ったら、テメーは100回殺す」
紋別から、札幌に着くまでおおよそ4時間。どうあがいたところで、今日は北海道に泊まるしかない。札幌のビジネスホテルにて、蓮は定期報告で安里に殺害予告をしていた。
『まあまあ。長い旅のおかげで、いい動画できてますよ』
動画サイトのチャンネル画面を見ながら、安里は笑う。彼が立ち上げた、「DCSチャンネル」は好調だ。
もともと、香苗たちのネームバリューはそこそこである。何しろ、あの問題の特番『アイド☆ルーキーフェス』でファイナリストにまで上り詰めていたのだから。
あの番組の優勝自体はASHに持っていかれてしまったが、のちの八百長発覚事件で掘り起こされる機会が増えた。それにより、ファイナリストを含むアイドルたちが再び注目されていたのだ。まあ、その頃にはもうやめている子の方が多かったわけだが。
特に受けているのは、やはりというか、車内で天然ボケをかましているメンバーたちである。蓮の撮影した映像に、安里が独自にBGMやテロップを入れる。一つ一つの動画が30分くらいの長い動画だったが、視聴してくれる人は結構いる。
『チャンネル登録、もう1万人超えてますよ』
「マジか。開設して何日だっけ?」
『1週間ですね』
「はやっ!」
蓮は驚きの声を上げる。
『いやあ、蓮さんが身体を張ってくださってるおかげですね』
「……おかげで、めちゃくちゃ時間かかってっけどな!」
全国行脚ということで、立ち寄った地域の名産品を食べたりなどもやっているので、えらく時間がかかる。栃木で餃子食べたり、仙台で牛タンを食べたり。そのたびに細かいゲームをやったりと、動画内のバラエティ性を重要視するための寄り道が多いのだ。
(……あと、地味に蓮さんの人気もあるんですよね)
安里は口は出さなかったが、カメラマンとして動画を回しつつ、ツッコミをガンガン入れていくスタイルが人気を博していた。
育ちというか学校のせいというか、基本的にこの男、口が悪い。
「何アホなこと言ってんだよ……」というボソッとしたツッコミが、思いのほか受けたのだ。
さらに、激辛料理とかの辛い物を香苗たちが食べる前に、どれくらい辛いのかを蓮が試食したりもしている(とはいえ蓮は辛いの平気なので参考にならないのだが)。もちろん、その部分はカット案件だ。蓮の認識では。
(まあ、蓮さんは動画見たりもしないだろうから、言わないですけど)
知られたら、おそらく「動画消せ!」と乗り込んでくるだろう。そのうち消しても別にいいのだが、安里としてはもうちょっと引っ張りたかった。
(やるからには、元取らないといけないですからねえ)
この旅企画の出資をしているのは、言うまでもなく安里修一である。車の手配、移動費用その他もろもろ。それらを、すべて安里が賄っているのだ。一応名目はスタンドアップ・プロのお金であるが、つまりは借金である。
なので、今回の旅が成功すれば、安里探偵事務所にもメリットがあるのだ。儲けそのものに安里は興味がないが、お金が増やせそうなら増やすのも悪くない。
『まー、頑張ってくださいな。特別ボーナス出すので』
「……ちっ」
舌打ちして通話を切る。そして、一人用のベッドに寝転んだ。
狭いビジネスホテルの部屋内で、蓮は天井を見上げる。
北海道の旅を終えれば、残るは日本海側だ。だが、実はこの旅、半分も終わっていない。何しろ、西日本から関西経由で九州に行かないとならないのだから。
蓮は無意識にスマホを開くと、ついついと各地のご当地食品を調べ始める。
過酷な旅の中、楽しみは美味しい食べ物くらいしかない。食べること主体の旅というわけでは決してないのだが、「せっかく来たからには……」という理由で、なんだかんだと食べることは多い。
本人も気づいていないが、蓮は現時点で、出発前より3キロ太っていた。
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