16-ⅩⅩⅦ ~死んだほうがマシの末路~
三つ目の用事をこなすのに、S4の連中は邪魔だ。
なので、蓮は病院の裏に来ていた。表の通りを移動するには、さすがに目立ちすぎる。
「……さて、来るかね」
腕時計を気にしながら待っていると、空から何かが舞い降りてきた。
それは、コンテナ。
人が4~5人は入れそうな大きな箱は、音を立てず静かに着地した。運んできたのは、安里探偵事務所に置いてあるロボット、ボーグマン・ドローン・エディションである。
『蓮さん。ちょうど着きましたね』
「おう。ここにコイツらぶち込めばいいのか」
『お願いします。あとはこっちで、諸々やっておきますので』
ボーグマンから、安里の声がした。遠隔操作だ。
『……とりあえず、もういらないでしょうから、その看板捨てたらどうです?』
「それもそうだな」
蓮は看板を掴むと、4人から無理やり引き抜いた。そのたびに、「ぎゃあああああああああああっ!!」という絶叫が、病院裏に響く。
「……お、お、お、俺たちを、どうする気だ!?」
「ああ。さっきも言ったが、俺はお前らを許す気はねえ。あの女がどうあれな。だから、ケジメとってもらう」
「ケジメ?」
「慰謝料だよ。人様に冤罪かけやがったんだ。それくらい当然だろ」
「い、慰謝料だったら、俺のパパが払う! 俺は、大企業役員の息子だ! パパに言えば、いくらでも……!」
「わかってねえなあ」
4人の顔にかぶせられた袋を取っ払い、蓮は4人を睨む。
「お前らのしでかしたことだろ? お前らが自分のケツ拭くんだよ」
「ど、どうやって……?」
『実は、僕の知り合いで、とあるライブ配信をやっている方がいまして。結構稼げるそうなので、そこで配信をしてもらおうかと思ってます』
「配信?」
『ええ。――――――去勢の生配信です。
ボーグマンから聞こえてくる飄々とした声とは裏腹に、その内容は地獄だった。
『結構、マニアからの人気が高いコンテンツらしいのですが。何せ、去勢でしょ? 出演するキャストはどうしても一回きりになるから、数が足りなくなるんですって。なので、界隈では常に、出演してくれるキャストを募集しているんですよ。……結構なギャラで』
おまけに、配信中にもらえるスーパーチャットや投げ銭は、すべて出演者のものとなる。配信を流す側のメリットは、大手スポンサーからの配信報酬などで賄っているから、ビジネスとしてはきっちり成立するそうだ。
『そういうわけです。自分たちのお金で、きっちり、慰謝料払えるように頑張ってくださいね』
「い、い……」
「嫌だあああああ……!!」
イケメン4人は、涙を流し、震えあがった。血の気が引くようなおぞましい話を聞いたこと、ブリーフ1枚で1月の寒空の下にいること、色々理由はあるが、とにかく身体の震えが止まらない。
「助けて、助けて! 何で、何でこんなことに!?」
「俺たち、たかが女を犯しただけじゃないか! それが、それが……!」
蓮の足に縋りつくS4に、蓮は冷ややかな目を向ける。
「――――――何言ってんだよ。お前らだって、たかがチ●コなくなるだけじゃねえか」
4人をまとめてコンテナに放り込むと、鍵が閉まる。
何か叫んでいたようだったが、空飛ぶボーグマンに運ばれ、すぐに何も聞こえなくなった。
******
「……酷いことするな」
「そうか?」
コンテナが運ばれていく様を、蓮と同様に見届ける者がいた。生徒会副会長の、天竜ライカである。
そもそもこの行為は、れっきとした拉致だ。学園側の人間を抱き込まなければ、到底できることではない。
「言ったろ? 死んだほうがマシだって」
「確かに言ったが……病院、大変なことになってたぞ」
ブリーフ1枚でケツに看板が突き刺さった、四つん這いの男たち。悪目立ちしないわけがない。
それらすべてをなだめるのに、天竜に一役買ってもらった。そもそも、蓮がこうしなければ、彼らはこの鉄仮面に殺されるところだったのだ。「死ぬよりひどい目に遭わせる」ための、取引である。
「……それにしても、去勢か……」
「ま、あんな連中のモノでも、まっとうな使い道だろ」
やはり、あの場で殺しておいた方が良かったかもしれない、と、天竜は思う。180度違う考えで、だが。
「……それと、今回の件で、3―Dと3―Bの代表が、決闘を棄権した。だから、次は、俺たち3―Aとの戦いになる」
「ほーう」
蓮の圧倒的なパワーと、陥れるという行為がどれだけリスクを伴うかを加味しての判断だろう。同じように搦め手を使えば、最悪S4のようになる。クラス3の生徒たちを震え上がらせるには、十分すぎる材料だった。
「敵同士だ。次会うときは容赦しない」
「おう」
「それと……今回の件だが……」
「おう、それもわかってるよ。全部な」
「……なら、いい。お前に任せる」
天竜はそれだけ言うと、学園の敷地へと戻ってしまう。蓮も、うん、と身体を伸ばすと、病院の中へと戻った。
病院にはまだ、最後の用事が残っている。
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