12-ⅩⅩⅧ ~矢場商店街に眠るヒント~

 徒歩市矢場やば商店街。てくてくロードとは別の、蓮たちの主に暮らす地域とはだいぶ離れたところにある商店街である。ここもほかの商店街と同様、時代の流れによってピンチを迎えていた。

 蓮は安里と共に、真保のメモを頼りにここへやって来たのだった。


「絵に描いたようなシャッター街ですねえ」

「そうだな」


 てくてくロードは、そう考えるとまだマシか。なにせ、徒歩駅という交通アクセスのために、通行人自体は多い。そうなれば、利用する客も増えるし、チェーン店なんかも駅周辺ということでテナントとして呼びやすい。――――――そうでないところは、まさに無人だ。


「こりゃ、手を引く気持ちもわかりますね」

「そーだな……えっと、確か……」


 ぶつくさ言いながら近くを歩いていると――――――。近くで、何かが壊れる音がした。


「――――――!」

「――――――!」


 何か、言い合いをしているのも聞こえる。安里には聞こえていなかったが、蓮の耳にははっきりと聞こえていた。


「あ、蓮さん!」


 駆け出した蓮を、安里が追う。だが、運動音痴な安里が蓮に追いつけるはずもなく。あっという間に蓮は角を曲がってしまった。

 そして、角を曲がった蓮が見たのは、店から蹴り飛ばされて転がる、年配の男性だった。それに付随するように、年配の女性が彼に駆け寄る。


「……! オイ! アンタら! 大丈夫か!?」


 蓮が駆け寄り、店の中を見やると、いかにもな連中が店の机に座っていた。


「……ん? 何だ小僧。学校の時間じゃねえのか?」

「あ、コイツ……!」


 その中の一人には、見覚えがある。加藤美恵を襲っていた時の、チンピラの一人だ。


「テメエら……!」

「なんだ、やる気か?」

「ま、マズいっすよ、コイツ、前言ったバケモンだ! 何でこんなとこに……」


 蓮に対し、やくざの兄貴分らしき男は後輩に聞く耳も持たない。蓮に対し、胸倉を掴むと、にやりと笑った。


「……悪ぶるのは勝手だがな。ホンモノには手出すもんじゃねえよ?」

「このジーさんバーさんに何しやがった……!」

「ガキには関係ねえ。失せな」


 その瞬間、やくざの男の身体が、「く」の字を通り越して、直角に曲がった。


「~~~~~~~~~~っ!!」


 原因は言うまでもない。蓮のボディブローである。


「あ、アニキっ!」


 ボディを食らったヤクザは、そのまま地面に倒れた。完全に、一撃で意識を刈り取っている。


「あ、アニキィ!」

「くそ……っ! こうなりゃ仕方ねえ!」


 ヤクザたちは、一斉に蓮を取り囲んだ。その数は3人。蓮にとって、物の数ではない。

 だが、先ほどの子分含め、全員目が据わっていた。何かやる気か。

 男たちは注射器を取り出すと、自分の腕に突き刺した。


(……クスリか?)


 注射を打った男たちは、各々が「ぐああああああ!」と激痛に顔を歪める。

 そして、身体がみるみる変異していった。腕が太くなる者、牙が生える者、筋骨隆々になるもの。いずれも、人間の肉体というには無理のある変化である。


「き、きゃああああああ!」


 倒れていたご婦人が悲鳴を上げるのは無理もない。こいつらは、もう人間の姿ではなかった。この姿は、まさしく―――――。


「――――――怪人か!」


 蓮はこぶしを握ると、取り囲む怪人3人を睨む。

 物の数ではないのは、別に怪人になったところで何も変わらなかった。


******


「あー、コレ、粗悪品ですねえ。一回で寿命が10年は縮む代物ですよ、コレ」

「何だってそんなもんこいつらが持ってんだ? つーか、粗悪品って……」

「恐らくこんなもんしか買えなかったんじゃないです? このご時世、やくざはどこも経営難ですからね」


 やくざの持っていた注射の中に入っていたクスリは、安里によって即座に解析された。その結果わかったのは、このクスリは即席に、一時的に怪人化することができるクスリらしい。もっとも、身体に馴染まない変身を無理やり行うので、相当体への負担はデカいらしいが。

 蓮たちを襲ったそんなインスタント怪人たちは、全員ノビて縛り上げている。一番苦心したのは、店の夫婦を怖がらせないことだった。結局一撃で全員気絶させ、安里に用意させた鎖で手足を拘束している。


「……助かったよ。ところで、君たちは……?」

「通りすがりの正義の味方だよ。ちょっとこの商店街に用事があってさ」


 超適当に前向きな感じで言ったのだが、怯えている様子は隠せない。愛がいればまだマシだったんだろうが、さすがに彼女に学校をフケさせるわけにもいかなかった。


「聞きたいことがあるんです。彼らは、なぜこの店を襲っていたんでしょう?」

「……それは……」


 言いよどむ夫婦に、蓮と安里は店を見回した。壊れた机や椅子もそうだが、店自体が汚れており、客の入りそうな気配はない。


「……失礼ですが、このお店、営業は?」

「半年前から、していません。資金繰りが困難で……」

「資金繰り。そのお金は、もしかして……」


 夫婦は無言でうなずく。やはり、闇金か。それで、こいつらはその元締め。恐らく夫婦はそのこともわかっている。


「闇金だということは、知っていて借りたんです?」

「……私たちも最初は知らなかったんです。でも、紹介をされて……」

「紹介?」


 ちょっと嫌な予感がする。


「それ、誰でしょう? 教えていただけませんか?」

「え? いや、でも、もし教えたりしたら、ひどい目に……」

「心配いらねえ。この程度なら楽勝だから、話付けてきてやるよ」


 だから教えてくれ、と蓮が頼むと、夫の方が店の奥から名刺を持ってきた。だいぶ年季の入っている、古い名刺である。

 蓮と安里は、その名刺の名前を凝視した。


「……繋がりましたねえ」

「だな」


 蓮と安里は、名刺の名前を見て頷いた。


 そこに書かれていた名前は――――――「美味食品 第一営業課長 米浦よねうら伸介しんすけ」である。

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