12-ⅩⅩⅨ ~美味フーズの暗黒面~

「――――――轢き逃げの犯人が分かった」

『ホントですか!?』


 矢場商店街からやくざを連れて、事務所に戻る車の中で、蓮は愛に電話していた。ちょうど授業の合間の休み時間だったのだ。


『それで、犯人はいったい……』

「正確には、実行犯じゃなくて黒幕だけどな。案の定やくざだったよ。地紋会ぢもんかいっていう貧乏やくざだ」

『そんな人たちが、なんで、加藤さんを……?』

「チョロチョロされたくなかったんだよ。――――――商店街をな」


 締め上げたやくざから、情報はすでに引き出している。そして、彼らのやっていることも、すべて、明らかになっていた。


「米浦常務が、商店街の売り上げの集金でやくざとつるんでた」


 スキームとしては、米浦が支払いの滞った商店街に闇金として地紋会の下部組織を紹介し、融資を受ける。

 利子を含めた代金を、地紋会が回収。そして、それを米浦に支払う。そんな流れだ。


「そして、やくざ側もメリットなしにそんなことをしません。きっと、常務からキックバックがあったはずです」


 という見解も踏まえ、安里はとある結論に至っていた。


「――――――以前見せた決算書、覚えてます? その中に、やくざに支払ったお金が入っていると思いますか?」

『……まさか……!』

「ええ、間違いないでしょう。美味よしみフーズは、をしています」


 それが結論だ。それを知っているのは、当事者である米浦。


「彼の部下である、第一営業課の方々も、関わってると見ていいでしょう。見せてもらった名刺に、第一営業課の方の名前もありました」

『じゃあ、他にこの事を知っているとしたら……』

「多分、あの若社長だろうな」


 それなら、彼が商店街を切ろうとしている理由もわかる。こんなことが公になれば、会社のダメージは計り知れない。ただでさえ、今は最高権威の勝太郎が不在なのだ。会社は空中分解してもおかしくないスキャンダルだ。

 それを、責任感の強い若社長は、たった1人で解決しようとしているのである。


『でも、いくら何でも無茶ですよ!? いくら社長とはいえ、1人でなんて……』

「1人じゃないといけない理由でも、あるのかもしれませんね。実際、加藤さんはだけで轢き逃げの被害に遭っています。直接誰かを巻き込めば、もっとひどいことになっていたかもしれません」


 そして、孤独に戦うということは、ターゲットはおのずと絞られるという事……。


「僕らはこれから、地紋会のアジトに向かいます。場所はわかってますので。愛さんは、悪いんですがこれから、小学校に行ってもらえますか」

『小学校!? なんでですか?』

「僕の予想が正しければ、マズいことになるかもしれません。そうなったら、商店街どころの話ではなくなります。よろしくお願いしますね?」


 そう言って、安里はぶつんと電話を切ってしまった。


******


「もしもし!? もしもしっ!?」


 切れてしまった電話に話しかけても埒が明かない。愛は辺りをきょろきょろと見まわした。周りでは、愛のただ事ならない様子を見ているクラスメイト達がいる。


「……どうした? 立花」

「せ、先生。私、急用ができちゃって……!」


 次の授業は担任の山上やまがみ先生である。暑苦しい熱血教師だが、教えている教科は公民という、ちょっと不思議な先生であった。


「急用? どんな?」

「え、えーと……」


 いったいどう説明したらいいのか。頭がグルグルしてパニックになる。下手なことを言えば「下らん嘘つくな!」で一蹴されてしまうだろう。かといってサボってしまったら、内申に多大なダメージが入ってしまう。


「……ば、バイト先の……」

「バイト先って……以前来た、安里さんか?」

「そうです! 小学校に行ってくれって、頼まれてしまって……」

「小学校? なんで?」


 先生は首を傾げた。そりゃそうだ。バイト先の探偵事務所と小学校では、どうにもうまくつながらない。というか、愛もいまいちわかっていないのだった。安里の説明不足である。


(え、えーと、えーと……!)

「……ちゃんとした理由がないと、早退は認められんぞ?」

(わああああん、そりゃあそうだよね!)


 呆れる様子の山上先生だったが、不意に一緒に授業を受けていたエイミーがおもむろに話し出す。


「あーそう言えばー、愛のバイト先の探偵事務所で、小学生を護衛しているって言っていたっけかー?」

「……エイミーさん?」

「だよな? 愛。それで呼び出し食らったってことは、なんかあったんだろ?」

「……あー、うん! それそれ! そう言う事なんです! 先生! 子供の一大事! 一刻を争うんです!」


 エイミーの適当ぶりに対してかなり真剣な表情の愛に、山上先生も少し経ってから、うんと頷く。


「……お前が行かなきゃダメなんだな?」

「はい!」

「だったらこんなことしてる場合じゃないだろ! 早く行ってこい!」

「はい! ありがとうございます!」


 愛はカバンと竹刀袋を持ち、一目散に教室を駆けだしていく。それと同時にチャイムが鳴った。

 山上先生は生徒を席に着かせると、教科書を開く。


「えー、授業だが。校長への言い訳考えるから、最初の20分は自習!」

「「「「やった――――――――っ!!」」」」


 普通科2ーA教室に、歓声が上がった。

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