16-ⅩⅩⅩⅥ ~スレイヤー~
だが、彼女の異能の真骨頂は、そこではない。
「……いくら第1フェイズとはいえ、私の『
「おおおおらぁっ!」
ゼロはダッシュでミチルへと駆けると、そのまま拳を繰り出す。
「……くっ!」
繰り出された拳は、彼女の木刀へと伸びる手へと変わった。それに気づいたミチルは、即座に木刀を下げるようにしてかわす。
返す刀で攻撃しようにも、ゼロは木刀での攻撃を強く警戒している。だが、その一方で、下手に攻撃すればそのまま奪おうとする気概も感じられた。
『……こ、これは……! 何ということでしょう、
実況の言う通り、ゼロの攻撃ペースは全く落ちることなく、ミチルの木刀を中心として繰り出されている。
(……いや、これは逆に考えるべきだな。木刀での一撃を、それだけゼロも警戒しているということ。それなら……!)
先ほどの木刀を受け止めたのはまぐれに過ぎない。二度は防げない。だからこそ、自分の武器を奪おうと、ゼロは必死なのだ。
なら、自分のやるべき攻撃は、何ら変わらない。
「……ふっ!」
ゼロの拳を躱しつつ体勢を整えると、ミチルはそのまま横なぎに木刀を振った。パンチのモーションでがら空きになったゼロのわき腹に、木刀は勢いよくめり込む。
「……っ!」
激突の瞬間、ゼロの顔が歪んだのがミチルにははっきり見えた。木刀越しの感触からして、左の肋骨。そこに当たったのは間違いない。
しかし、ゼロの目線は、ミチルを向いたままだった。
(何っ!?)
「……うらああああああっ!」
十分にミチルにも攻撃が届く範囲内。互いに骨折を確信する中、ゼロが攻撃してきたのは流石に予想外であり、その居を再び突かれた。
――――――ミチルの顔面に、ゼロの拳がぶち当たる。
「ぐふっ!」
殴られたミチルは、木刀を取り落として倒れこむ。ゼロはとっさに駆けだすと、そのまま木刀を蹴り飛ばした。カランと音を立てて、木刀は舞台の下へと転がり落ちていった。
『あっ……!』
実況も思わず声を上げてしまうほどの光景だった。生徒会長が先に殴られて倒されるなんて、今まで学園の誰も見たことがなかったのだ。
「……く、この……!」
「悪いが、牛乳も毎日飲んでるし、小魚も毎日食ってるんでな……! 丈夫なんだよ!」
脇を押さえながら笑うゼロに対し、ミチルはよろよろと立ち上がった。袖で口を拭うさまを見るに、口元が少し切れたらしい。
観客の誰もが、絶句の状態で舞台上を見やっていた。
「……ゼロ、お前……」
「……さっきも言ったろ。俺は、お前のフェイズ1でどうにかなるような相手じゃねえぞ」
押さえたわき腹から手を放し、ゼロは再び拳を構える。
「――――――本気で来いよ。フェイズ3でよぉ! なあ、ミチルぅ!」
******
湯木渡ミチルのESPの真骨頂。それは、『
彼女は異能を発動し、身体能力が大きく向上する。だが、それだけではない。強まった異能は、「矛先」を与えることで、さらに破壊力を増幅させることができるのだ。
矛先は、全部で3つまで指定することができる。どんなものにでも指定することができるが、矛先の指定は前に指定したものよりも限定されるものでなければならない。また、固有名詞で特攻を付与することはできない、という細かいルールがあった。
例えば、ミチルの現在発動していたフェイズ1が、「男性」。この指定だけで、ミチルは相対するすべての男性に対し、特攻が付与されるということだ。
そしてフェイズ1での特攻の威力は――――――平常時の、おおよそ10倍。
その威力であれば、並みの男相手なら事足りる。地元の暴走族相手でも、一歩も劣るどころか、相手にもならない。ミチルが地元を蹂躙していたのは、このフェイズ1での戦いがほとんどだった。
――――――だが、目の前にいるこの幼馴染は。
「……強がるな、結構手ごたえはあったぞ」
「そんなもん、お前の勝手な手ごたえだろうが」
「……フェイズ3なんて、随分とおこがましいな。この学園に来てからも、使ったことないんだぞ」
「でも、フェイズ1じゃ俺は倒せねえ。なら、どうする?」
ゼロの言葉に、ミチルもニヤリと笑う。
「――――――思い上がるなよ。せいぜい、フェイズ2だ」
それも、ミチルにとっては最大の賛辞である。この彩湖学園で戦ってきた、数多の強敵と同格である、ということでもあるからだ。
「――――――フェイズ2……『不良』!」
ミチルから放たれるオーラが、さらに強まっていった。
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