8-Ⅷ  〜レイダーズ〜

 翌日、少し車を走らせたところで、とうとうエル・パソの町に入った。このままニューメキシコ州まで突っ切ってしまおうかとも思っていたのだが。


「うわっ!!」


 突如、ニックがハンドルを取られる。同時に、車全体が、がくんと大きく揺れた。


「な、何!?」

「タイヤがパンクしたみたいだ。石でも踏んだかな」


 よろよろと近くの道路に、ニックは停車しようとする。


「……待て、止まるな!!」


 ダニエルがとっさに叫ぶが、もう遅い。


 パン、と乾いた音ともに、車がおおきくへこむ。


「……銃!?」


 蓮は咄嗟に窓の外を見るが、車の周り、そこそこの距離を取りながら、ガラの悪い男たちに囲まれている。


「……またかよ!」


 しかもいきなり銃を撃ってくるあたり、前に絡んできた奴とは別格な質の悪さだ。


「ニック、車止めろ!!」

「ダメだ、止まるな! 突っ切れ!!」


 ダニエルはそう言うが、ニックはブレーキを踏む。急停車で前にのめりながらも、車は止まった。


 そして、あっという間に30人くらいの男たちに車が取り囲まれる。


「……なんか用か」


 蓮は窓から顔を出して尋ねる。ドレッドヘアの男が近付いてきて、蓮の顔の奥、車の中をじろじろと見始めた。


「……お前ら、降りろ」

「何で」

「いいから降りろっつってんだよ!!」


 ドレッドヘアは蓮の髪を掴む。

 蓮はじろりと睨むと、男の腕を掴んだ。


「……何すんだコノヤロー」


 そして、掴んだ腕の骨を握りつぶす。


「ぐおおおおおおおお!?」


 痛みに悶える男を、ドアを開けて吹っ飛ばす。男はぶっ倒れ、腕を押さえて地面でバタバタ足を動かしていた。


「お、おい!」

「パンクした状態で運転なんかしたら、それこそ事故るだろうが」


 蓮はそう言い、車を降りる。男たちもさすがに警戒しているのか、距離を取っていた。逃げられないと悟ったのか、ダニエルたちも後に続いて車を降りてくる。


「何だ、お前ら」


 蓮が尋ねるが、男たちは答えない。


「……このあたりを縄張りにしてる、「レイダーズ」だ」


 代わりに答えたのはダニエルだ。


「テキサスの西側で幅を利かせてる、質の悪い連中さ」

「何だってそんな奴らが、俺らなんざ構うんだよ」

「……ロディから聞いたんだよ。お前らが、ロスに行くってな」


 ロディ? と蓮は首を傾げるが、レベッカが蓮の服を引っ張る。そして首を横に振った。ああ、例の元カレか、と蓮は合点がいく。


「ボスが呼んでる。来てもらおうか」


 ボス、という言葉にダニエルの剃りこまれた眉部分がぴくりと動く。


「何だよ、知り合いか?」

「……ついていくのは俺だけか?」

「全員だよ」


 一人の男の声に合わせて、数人が銃を構える。さすが銃社会。ニックなんぞは完全にビビっていた。


「……だったら、もう一人中にいるんだ。そいつもいいか?」

「ああ。もちろん」


 蓮はHを車から引っ張り出す。Hを背負うと、ゴロツキどもに着いて歩き出す。


「……お前、日本人か? なんでこいつらと一緒にいやがる」

「成り行きだよ」


 一人のゴロツキに答えながら、蓮はちらちらと連中を見やる。

 正直言って、どいつもこいつもザコばかり。当分動けないように叩きのめしてやることは簡単だが、そんなことばっかりしてもいられない。

 何より車もパンクしちゃったから直さないと。あれ、カロリーナからの借り物なのだから。


 それに、連中はチームだ。アリゾナ州に行けば追って来ないのかもしれないが、追って来たら面倒である。ボスと会えるというし、そこで話を付けられるのなら付けておきたい。


「ギーク野郎にケガ人に日本人ねえ。ホント、なんでダニエルたちなんかと一緒にいるんだか」

「有名なのか?」

「そりゃそうだぜ。だってコイツ……」


 そう言いかけたところで、話していたゴロツキが殴られた。別のゴロツキだ。


「べらべら話してんじゃねえよ。……日本人の兄ちゃん、お前も喋りすぎだ」


 男が口に拳銃を突っ込む。蓮はイラっと来て、その拳銃を噛み砕いた。


「はあ!?」

「……まずッ」


 残骸を吐き捨てると、蓮はすたすたと集団の最後尾を歩いていく。


 銃身が砕かれた拳銃を、男は茫然と眺めるしかなかった。

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