3-ⅩⅣ ~夢依の手がかりを探して~

 敗北したギザナリアの意識が戻ったのは、闘技場裏の控室である。


「……う、ここは……」

「お、起きた」


 目の前にいた蓮の姿に、彼女は思わず後ずさる。が、全身の激痛が上手く身体を動かしてくれない。


「……れ、れ……!」

「……そんなビビんなくてもいいだろうがよ」


 蓮は彼女を見て、ため息をついた。


(……き、気づいていないのか……?)


 蓮なら、彼女の正体を知ろうものなら激昂しそうだが、そんな様子はまるで見られない。


 それに、辺りを見れば蓮以外の面々もいる。大人の男に、女子高生が3人。先ほど闘技場にもいた連中だ。蓮の知り合いだろうか。


 いずれにしても、この戦いに負けるとは思っていなかったが。


(……友人の前とは、随分豪胆なものだ)


 そして、蓮を改めてまじまじと見つめる。


「……ルールは、ルールだからな」

「いや、そう言うのいいから」


 ただでさえ露出の多い服をはぎ取ろうとするギザナリアを、蓮は手で制した。今までも、蓮がチャンピオンとして勝利したとき、そういう行為に至ったことは一度もない。蓮は勝つと、その相手をほったらかしてさっさと戻ってしまうのだ。


 そして、残ったチャレンジャーは、観客たちが好きにできる―――――と言うのが、蓮が戦うときの通例なのだが。

 今回は客も逃げてほとんどおらず、彼女を犯す人は誰もいなかった。というか、こんなバケモノじみた女を抱く勇気、誰にも無かった。


「ああ、そう言うの、マジでいいから。むしろいらねえよ」

「な、何!?」


 ありがたい話なのだろうが、女としての自信をけなされたようで、それはそれで腹が立つ。


「妾は抱けんと言うか!?」

「そういう事言うなよ……未成年もいるんだぞ」


 愛たちが、顔を赤らめて目を背けている。これ以上この手の話題を続けるのはよろしくないだろう。


「俺らはよ、アンタに聞きたいことがあんだ」

「聞きたいこと、だと?」


 ともかく、内藤麻子だという事に蓮は気づいていないようなので、このままギザナリアとしてやり過ごそう。彼女はひとまずそう決めた。


 愛が、スマホの画面を見せる。そこに映っているのは、村田夢依の画像だ。


「この子が行方不明で、今、皆で探しているんです。心当たりはありませんか?」

「……この子が……?」


 ギザナリアは目を細めて夢依の画像を眺める。

 少し考え込んだ様子を見て、蓮たちは初めて手ごたえを感じた。


「……知ってんのか?」

「……ああ。ついこの間」


 それこそ、蓮をこの闘技場で見つけて、一丁前に叱り飛ばした後だ。夜の町で、内藤麻子はこの少女にぶつかっている。


「……会ったんスか!?」

 「まあ、あまりに汚らしい恰好だったし、飯も食ってなかったみたいだったからな。うちに連れ帰って、飯と風呂を世話してやった」

「じゃあ、夢依ちゃんはあなたのところにいるんですか!?」


 十華が身を乗り出して尋ねる。これでギザナリアが首を縦に振れば、問題はすべて解決だ。


 だが、事態はそう簡単には進まない。


「いや、一昨日だったか。早々に出て行ってしまったぞ」


 蓮たちの高まった期待が、一気に冷めた。

 だが、僥倖である。ギザナリアの証言は、かなり大きい手がかりだ。


「どこに行くとか、行ってなかったのか!?」

「ああ、其れなら言っていたぞ。なんなら路銀も出してやったし」

「マジか」

「どこですか!?」


「ムラタ・ドリームワールド」


 蓮たちは顔を見合わせた。

 そこは、とっくに廃園になった遊園地のはずだ。運営していた当事者から聞いたのだから、間違いないだろう。


 しかも、あの遊園地は県境の山の中と、かなり異国めいた立地にあったはずである。


「……なんで、そんなところに?」

「さあ、そこまでは知らんよ。ただ、お母さんとの思い出の場所だと言っとったが」

「お母さんとの……」


 そういう事か、と蓮たちは納得した。


「……わかった。助かったわ」


 そう言い、蓮たちはバタバタと闘技場を出て行ってしまう。


「お、おう……?」


 なんだか釈然としないが、自分への用事が終わったらしいことは分かる。ベッドの上に一人残されたギザナリアは、ポカンとして蓮たちの背中を見つめていた。


「……そう言えば、アイツら、そこの場所分かるのか?」


 ギザナリアは、不意に蓮たちの先行きが心配になった。彼女は、蓮たちの知り合いにその遊園地の元社長がいることを知らない。


 どういうわけか、あの遊園地の正確な場所は、インターネットで検索しても出てこなかったのだ。


「……誰か知ってる人でもいるのかな?」


***************


 夢依から「ムラタ・ドリームワールドに行きたい」と言われたギザナリアは、調べてみても全然出てこないのですっかり困ってしまった。


 そこで、そう言うことに詳しそうな男に連絡を取ったのだ。


『もしもし』

「ああ、妾だ。ちょっと聞きたいことがあるんだが、よいか?」

『―――――ええ、構いませんよ』


 電話の向こうの男は、やはりというか、すらすらと場所の詳細を教えてくれた。


『―――しかし、どうして急にそんなことを?』

「なに、そこに行きたい、と言う奴がいてな。調べても出て来んのだから参ったわ」

『……そうですか』

「なんにせよ助かった。またなんかあったら頼むぞ?」


 ギザナリアはそう言い、電話を切る。切る前に、電話の向こうの名前を呼んだ。


「―――――アザト・クローツェ」

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