4-Ⅴ ~発進せよ、ボーグマン・ギガント!!~

「寄りにもよってあいつが遅れんのかよ!」


 空港のロビーにて、蓮はブチ切れていた。

 安里から、「ごめんなさい、遅れますテヘペロ」というクッソムカつくラインが届いたのである。わざわざ「テヘペロ」をカタカナで書いているのも、ムカつく要因であった。


「え、確か替えの便もないんだよね?」

「そうだよ、どうすんだよ!」


 聞いた話だと、空港で夕月が待っているらしく、合流する予定になっている。だから替えがないと、彼女を丸一日待たせることになってしまうのだ。


 だからこそ蓮など大慌てで空港へ駆け込んだというのに、とんだ急ぎ損である。


「でも、本当にどうするんだろ。安里さんだったら、何とかできるとは思うけど……」


 愛がそう言った途端に、ラインの着信音が鳴る。

 何かと思ってみれば、「滑走路で待っててほしい」という文章が一つ。


「? ……滑走路?」

「飛行機に乗るわけでもないのに、どうやって行くってんだよ」

「……もしかして、飛行機の展望スペースの事かな」


 蓮たちのいる空港には、飛行機の離着陸を間近で見れる展望スペースが屋外にもうけられていた。安里が言っているのはそこのことかもしれない。


「でも、そこに行ってどうするんだろ?」

「……今からでも夕月さんに謝った方がいいと思うけどな、俺は」


 そんなことを言いあいながら、二人は展望スペースに向かう。


 展望スペースに着くと、そこには不自然なほどに誰もいなかった。


「あれ? 普通はもっと人いると思うんだけど」

「あいつが何かしたんだろ」


 蓮が後ろを見ると、空港職員が見計らったかのように「立ち入り禁止」の柵を入り口に設置している。一体安里はなにをやったというのか。


 そう考えているうちに、空を切る轟音が二人の耳に突き刺さった。


「きゃあああああああ!?」

「……上!?」


 すさまじい突風に加え、展望スペースが急に暗くなる。飛行機が明るいのを見れば、何かが上にいるのはすぐにわかった。

 蓮が上を見上げると、そこには巨大な鉄の塊が浮かんでいる。それには翼が付いており、飛行機……にしては、何やら不格好だ。


『蓮さん、愛さん、すいません。遅れました』


 塊から、安里の声が聞こえてくる。


「安里!? お前、何だよコレ!」

『いいから早く乗ってください。時間ないんですから』

「乗るってどうやって!?」

『今からやりますよ』


 言葉とともに、飛行機から一筋の光が差し込んでくる。この中に入れ、という事なのだろ

うか。

 恐る恐る中に入ると、身体がふわりと浮いた。そのまま上へと上がり、やがて飛行機の中

へと引き込まれていく。


「きゃああああああああーーーーーっ!?」


 蓮に続いて愛も同じように浮いたようだが、バランスが取れないようでひっくり返って

いた。


「おい、大丈夫か……」

「わーっ! 見ないでえ!」


 愛の叫びには、蓮は顔を背けた。逆さまだったので、見てはいけないものが、ちょっと見えてしまったのだ。


 飛行機の中に入ると、そのまま椅子へと座らされる。何とか体勢を直した愛と一緒に、

椅子ごと飛行機の中を進んでいった。


「……ど、どうなってんだこりゃあ」


 ぽかんとしながらシートベルトを締めていると、どうやら終着点にたどり着いたらしい。


「おはようございます。いやあ、寝坊しちゃってお恥ずかしい」


 そこはどうやらコックピットのようで、安里と朱部が一番前に座っていた。その後ろに、夢依と、なぜかボーグマンが座っている。


「……ボーグマン? なんでいるんだ?」

「いやあ、彼はコレの起動キーですからね。必要なんですよ」

「キー?」


「ようこそ、『ボーグマン・ギガント』のコックピットへ」


 安里はそう言い、サングラスを外して笑った。


***************


 ボーグマン・ギガント。その名の通り、巨大な飛行物体の正体は、よくよく見ればボーグマンであった。


 普段は安里探偵事務所の地下に眠っているのだが、ボーグマンを起動キーとすることで起動する。全長50mの巨大ロボットだ。


「ま、空飛ばすつもりはなかったんですけど、乗り物がなかったので。急遽飛行モードを着けました」

「そんな時間あるなら空港行けよ。絶対時間かかるだろ」

「それが、そんなこともないんですよねえ」


 安里がそう言って、ボーグマンの背中に刺さっているUSBを指さす。


「実は、元々変形システムは組んでたんですよ。それをボーグマンにインストールするのをさぼってただけで」

「とにかく、これで沖縄には行けるんですよね?」

「もちろん。普通より1時間は早く着きますよ」

「え?」


 愛が戸惑うと同時に、ボーグマンのエンジンが本格的にかかりだす。


「気を付けてくださいね。結構速いですから」

「それ、どのくらい――――――――」


 エンジンがフルスロットルになった瞬間、ボーグマンは勢いよく空へと飛び出した。


「きゃああああああああああああああああああああああああ!?」


 愛が叫ぶのも無理はない。超加速であっという間にほぼ音速に達したボーグマンは、たったいま離陸した沖縄行きの飛行機をあっという間に追い抜かしたのだ。さらに、その前に離陸していた飛行機も、一瞬で抜き去っていく。


「さあー、沖縄ですよ。こうなったらヤケです。とことん楽しんでやろうじゃないですか」


 はっはっは、と笑う安里の声がコックピットに響くころ、ボーグマンの飛行スピードが音速を超えた。

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