9-ⅩⅩⅩⅠ ~ムシニンジャーVS嫉妬の魔女たち~
突然空間がゆがんだかと思えば、そこから銀髪ドレス姿のオカマと萌音が転がり込んできて、さすがの九十九も驚きを隠せなかった。
「……萌音!? なんで!?」
「ごめん九十九ちゃん、もう一人いたみたい!」
「はあ!?」
そう言いつつ、九十九は飛んでくる岩を全て蹴り飛ばす。接近戦が不利だとわかるや、マリリンは距離を取っての溶岩攻撃に切り替えてきていた。
蟲忍流で魂に直接攻撃できる九十九だが、何も溶岩を完全に無効化できるわけではない。むしろ耐性的には、紅羽蓮以下である。そのため、あまり積極的には溶岩を受けたりはせず、躱している。
なんだったら距離を取ることで、溶岩の最大の武器である熱も、冷えてただの岩になってしまうのは九十九にとっても好都合だった。
「……あら、マリリン!」
「ステファニー! あなたなんで、こんなところに来ちゃったの?」
マリリンと合流したオカマは、どうやらステファニーというらしい。マリリンの下へ近づくと、彼らは熱いハグを交わした。
「さあ……。っていうか、ここどこ?」
「知らない」
「あのねえ……」
そう言い、二人は九十九と萌音を見やる。この二人が絡んでいることは間違いない、と言うのが彼ら共通の見解だった。
「あらやだ、まーた女の子だわ」
「言っておくけど、あの黒い子は私の得物よ。素顔、結構好みなの」
「私、さっきカッコいいイケメン君がいたんだけど……邪魔されちゃったのよねえ」
ステファニーは苦々しげに、萌音を見つめた。服の上からもわかる官能的な萌音の雰囲気に、ステファニーは目を細めて、若干剃り残しのある顎をさする。
「……嫉妬しちゃうわ、きっとあの子、モテモテよ?」
そう言った途端、ステファニーのドレスの中の瞳が光る。内側からドレスを食らうように変形するインナーのタンクトップは、マリリン同様に全身を覆うスーツの様相へと変貌する。
マリリンのものとほぼほぼ同じだが、違うのは身体から放たれているものだ。ステファニーからは、周囲が白く見えるほどの冷気が発されている。彼の周りは、微小な氷の粒であるダイヤモンドダストに覆われていた。
「この子たちね、エンヴィート・ファイバーってこの服の事呼んでるみたいなのよ。だから、今私、エンヴィート・ウィッチって名乗ってるよね」
「あら、そうなの? じゃあ、私もそう名乗ろうかしら」
「でも、それだと被るわね」
「そうねエ……じゃあ、私はβにするわ」
「あら、いいの? 私がαで」
「あなたが先に名前つけたんだから、それくらい良いでしょ」
そう言い、二人の魔女たちは、萌音と九十九を睨むように、マスクの目の部分を光らせる。
「「というわけで、エンヴィート・ウィッチ・シスターズ。どうぞよろしくね?」」
片や熱気を、片や冷気を。互いに同時に発する二人の魔女に、萌音も九十九も身構える。
萌音の左手にも、いつの間にか変身ブレスがつけられていた。
「……蟲忍変化」
紫の蜘蛛の蟲霊の力を見に纏い、萌音は糸忍、クモニンジャーへと変身する。
そうして、九十九と並ぶように、彼女は身構えた。
「「――――――こっちこそ、蟲忍流、なめんじゃない(わ)よ」」
遠目から見れば、四人の怪人がにらみ合う。
そして、互いに勢いよくぶつか――――――――……。
「る、わけないでしょ!」
マリリンとステファニーが、同時に遠距離から弾幕を飛ばす。岩に加えて、ステファニーの氷の塊もセットだ。萌音と九十九は、お互い離れるように跳んで躱す。
(あの黒い子は、特に近寄っちゃだめよ! かなり喧嘩慣れしてる!)
(あら、ホント?)
小声で話しながら、二人は体内から無限と言えるほどの質量を吐きだし続ける。
だが、そんなステファニーの後頭部に、直後衝撃が走った。
「あたっ!?」
彼の飛ばした氷塊が、どういうわけか自分の後頭部に飛んできたのである。理屈は分からないが、それで一瞬、身体が前につんのめった。
「……危なーいっ! 立っちゃダメえ!」
次にはマリリンがステファニーを押し倒した。
その瞬間、ステファニーの後方にあった、岩山が真っ二つに切れる。
「……いいいっ!?」
さらには、弾幕が途切れたことにより。
障害物のないイナゴニンジャーが、超高速で近づいてきていた。
「「……きゃああああああああああ!!」」
あまりにも一瞬で近づいてきたもんだから、ガードの選択肢しか、二人にはない。
引き絞られた、強靭な脚から放たれる蹴りに、二人はまとめて吹き飛ばされた。
「「あああああああああ!!」」
岩山の残骸が派手に吹き飛び、土煙が巻きあがる。
「がはっ!」
蹴りの破壊力に内臓をやられたのだろう、マリリンが口から血を吐く。
(……な、なんかさっきより強くなってない、あの子!?)
「マリリン、逃げて!」
よろめきながら立ち上がるマリリンの背後に、土煙に隠れて、九十九が背後に近づいてきていたのだ。
「このお――――――っ!」
ステファニーが冷気を放ち、九十九はすぐさま土煙の中に消える。このままこの煙の中にいるのは、間違いなく危険だ。
「はあああああああああああ!」
ステファニーが冷気を全方位に放ち、周囲の土煙を晴らす。晴れて開けた視界が戻ってきた時、目の前には萌音が近付いてきていた。
「っ!?」
首を傾げるような萌音の仕草に、拳を叩き込むが、彼女はその瞬間には背後にいる。
「……蟲忍流、忍法『
萌音の指から、気づけば糸が出ている。それは巡り巡って、ステファニーの身体にすべて付着していた。
交差していた手を前に、思い切り振りかざす。
それにより引っ張られた糸が、ステファニーの身体を歪な形へと極めていった。
「……がはっ!」
人型では到底できない形へと曲げられたステファニーは、たまらず口から血を漏らす。
「ふふふ。――――――ごめんなさいね?」
倒れるステファニーを、萌音は仮面の下からにこにこ笑いながら見やっていた。
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