14-ⅩⅦ ~雷撃・斬撃・さらには打撃~

「「ウオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」


 カーネルとタナトスの猛撃が、蓮を左右から襲う。強烈な雷撃と斬撃で、彼の身体には幾ばくかの傷ができる。血を噴き出し、体表は焼け焦げていった。


 ――――――だが、それだけだ。先ほどから見せかけのダメージは入っているが……。


(……まったく、効いている気配がないな!)


 そりゃそうだ。いくら弱くなったとはいえ、元の肉体がなくなったわけじゃない。RPGのゲーム風に言えば、「体力以外の全能力が下がっている」ようなものだ。つまり、紅羽蓮の膨大な生命力HP自体はバッチリ残っている。

 おまけに、怪獣の肉体に先ほどから攻撃は当てているものの、さっきから傷は浅いものばかり。あの巨体の深くまで効いているとは、まるで思えない。


 さらにさらに言えば。


「―――――――っ! カーネル、尻尾だ!」

「……グオオオオオっ!」


 カーネルの頭上から、灼熱の尾が真下に叩きつけてくる。灼熱自体は全身が雷電であるカーネルにさほど影響はないが、筋肉の塊である尻尾の質量を叩きつけられた衝撃は、意識が飛びそうになる。


「がはっ……!」


 地面に手を突いたカーネルの頭上が暗くなる。蓮が、巨大な足を上げていた。このまま踏みつぶす気か!


「――――――やらせはせんっ!」


 タナトスが全身の刃を右腕に集中させ、巨大な鎌を作り出す。それを、タナトスは蓮めがけて振り下ろした。


「――――――『極・刑・斬』!!」


蓮の喉を切り裂かんとするその斬撃を――――――彼は、躱した。それも、信じられないほどのスピードで、横に跳ぶ。


(……あの巨体のスピードじゃないだろう!)


 そして、怪獣のターゲットはタナトスへと変わる。振り下ろされた腕が、彼を地面へと叩き落した。


「ぐはぁああああっ!」


 周囲の地盤を砕きながらタナトスは地面へと深くめり込み、口から血反吐を吐く。そうしている間に、蓮の巨体が降ってきた。地響きと共に、怪人2体は地面から空へと巻き上げられる。


((……う、動けない……! マズいぞ!))


 2人を同時に、尻尾が攻撃した。超質量の衝撃に、はるか後方へと、カーネルとタナトスは吹き飛ばされる。山を一つ吹き飛ばし、後ろの山にまで叩きつけられた。


 よろよろと立ち上がる2人の眼前には、猛スピードで迫る蓮の姿がある。


(……ちくしょうめ!)


 あの図体で下手すれば自分たちよりも速く動けるスピードや、軌道が全く読めない尻尾での攻撃。それにより、徒歩市最高峰の怪人2人は追い詰められていた。


 だが、カーネルたちはそれよりも、別のことに苛立ちを覚えていた。


((……コイツ、熱波さっきの全然吐いてこねえじゃねーか!!))


 蓮が先ほど、自衛隊相手に見せた熱波。恐らくは無意識によるくしゃみだったのだろう。だから、本人は出し方をわかっていないのかもしれない。


 しかしながら、ただでさえ(弱体化で)手加減されているのに、更に出し惜しみまでされているというのは、怪人のトップに立つ者としては屈辱であり、不服であった。


((――――――そして何より、そんな状態で追い詰められている自分に腹が立つ!))


 蓮は両腕を振り上げた。山に叩きつけられた拳により、山は粉々に砕け散った。岩が空に舞い、雨の様に降り注ぐ。

 そんな岩の雨の中に、カーネル、タナトスの2人はまぎれていた。


「……クソがアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 カーネル渾身の雷撃が、蓮の身体を灼く。しかし、カーネルをギロリと睨む蓮には、まったく堪えていない。


(……ちぃっ!)


 伸ばされた腕は、カーネルを掴む。どういう訳か、雷電である彼の身体が、彼の握力による拘束から逃げ出すことが出来なかった。


 握力はミシミシとカーネルの全身を圧迫し、全身の骨格がつぶれる音がした。


「ぐああああああああああああああああああっ!」


 所詮雷電である自分の肉体を構築するための疑似骨格だが、それでも体内の物体を握り潰されれば激痛は感じる。


「……なっ……めるなぁああ!」


 カーネルは全身から、強く放電した。まばゆい電光が、周囲を包む。だが、蓮は全く答える様子はなく、腕に込められた力は依然変わらない。

 この放電には、別の意味があった。カーネルの身体は、雷でできている。骨格も筋肉も、すべて雷による疑似的なものだ。攻撃に使われる雷電も、彼の身体を構成している雷電から放出されている。

 本来ならば、肉体構造が変化するほどの放電はしない。雷電も、空気中の電子からすぐに補充できる。――――――胸のコアさえ無事ならば。


 この放電は、体積を減らすためのものだった。一瞬、わずかながらに拘束が緩んだカーネルは、するりと蓮の手を抜ける。

 ダメ押しで放った投擲斧トマホークは、蓮の頭の角によって弾かれた。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」

「……徒歩市最強の怪人が、この様か」


 先ほどまでの筋骨隆々とした姿とは違う、やせ細ったカーネルの姿に、タナトスは乾いた笑みを浮かべる。


 そこに余裕は、最早ない。


 電撃の閃光で一瞬目が眩んだ蓮だったが、すぐにカーネルたちに視線を移すと、腕を振り上げる。

 今のカーネルたちに、その攻撃を避ける余裕はない。


 振り上げた腕は、まっすぐカーネルたちを叩き落そうとして――――――。


「どおおおおおりゃあああああああああああああああああああああっ!!」


 高速でぶっ飛んできた者が、蓮の腕をぶっ飛ばした。高質量の衝撃に、蓮は一瞬のけぞって体勢を崩す。


「もう一発ぅ!」


 飛んできた者――――――ニーナ・ゾル・ギザナリアは大剣デストロウムを構える。体勢が揺らいだ蓮の胸めがけて、剛大剣を思い切りぶちかました。


「――――――グオオオオオオオオオオオオオオオっ!」


 ギザナリアの全身に血管が浮かび、筋肉が隆起する。怪力をいかんなく発揮したギザナリアの一撃は、蓮の巨体を地面から浮かせるのに十分だった。


 宙を浮いた蓮の巨体は、後方へと後ずさる。ギザナリアは、カーネル、タナトスのいる位置に着地した。


「……よう、手こずってるな」

「……ちょうど、お前に会いたかったところだ。ギザナリア」

「それはまた、随分と情熱的だな?」

「アイツの巨体に対抗できるパワーが足りなくてな。お前の馬鹿力を待っていた」


 カーネルの雷撃とタナトスの斬撃。いずれも、蓮を倒す――――――という次元ではない。さらに言えば、押し戻すことすらも、彼らにはできなかった。できるのは精々、その場で時間を稼いだ程度である。


 ギザナリアはちらりと、自分の来た方向を見やった。市街地がだいぶ近い。あともう少し来るのが遅ければ、間違いなく町まで到達していただろう。


「……フン。ま、良く持ちこたえたというところだな。抱いてやってもいいぞ?」

「勘弁してくれ、……というか、お前が抱くのか」

わらわ含めて『ゾル・アマゾネス』は皆、攻めが基本姿勢だからな」


 デストロウムをぶん、と軽く振り、ギザナリアはギロリと笑う。


「タナトス、手を貸せ。まだまだやれるだろ?」

「当たり前だ……!」


 タナトスも呼応するように、再びブレードを両腕に展開する。2人の認識は、共通だ。


((――――――カーネルの充電時間を稼ぐまでもない。わらわ(俺)が倒す……!!))


 どんな時でも闘争本能が消えないのが、怪人たる性であった。

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