1-ⅩⅩⅤ ~学校裏サイトのウワサ~

「本当にあるってよ。裏サイト」

「ふむ。入り方は?」

「それなんだけどよ、会員の紹介がないとダメみたいなんだよな」

「ま、篠田さんが会員ではないことは、「同化」してたからわかってはいましたが……」

「……なら、なんでわざわざ俺に確認させたんだよ」

「遺恨もなくせますし、ちょうどいいじゃないですか」


 安里修一が「安藤修二という名の綴編高校理事長」として出張ってまで桜花院に来た理由は、抗議のためではない。


 学校に存在する「裏サイト」を探るためであった。

 そのために、「裏サイト」の存在を知るであろう、桜花院生である篠田を引っ張り出したのである。


「ともかく、会員登録できる桜花院生と、紹介してくれる人がいりますね」

「なんか別の入り方ないのか?お前ならハッキングとかできるだろ」

「それでもいいんですが、無理やり侵入して気取られると逃げられそうですし」


 蓮と安里の二人が話しているのは、桜花院内のカフェテリアである。せっかく女子校に来たのだからと、昼食をここでとることにした。


 それに、ここなら。


「あ、本当にいた!」

「紅羽さん、安里さん!」


 愛と十華が駆け寄ってくる。二人を招き、四人での作戦会議が始まった。


「それで、裏サイトが犯人に関わってくるんですか?」

「おそらく、間違いないでしょう。そしてここからが重要なんですが……愛さんに憑りついていた「呪い」ですけど、これは感染するタイプだと思われます」

「か、感染?」

「ええ。なので、特定の実行犯がいないんですよ。さらに言えば、愛さんが狙われたのは、本当に偶然なんです」


 安里の説によると。


 裏サイトを見た桜花院の生徒は、「呪い」に感染する。


 そして、「呪い」により裏サイトにて攻撃されている名前に対し、さらに攻撃的になる。もっと、激しい暴力を与えようという衝動に駆られる。


 そして、金や行動力のあるお嬢様は、実行に移す。自分ではなく、他人を使っての犯行で。


 そういう、暴力の「呪い」の温床となっているのが、その裏サイトなのである。


「まあ、普通ならあり得ない話ですけどね。悪魔とか出てくるっていうオカルトが絡んでくるなら、こんな突拍子もない話も、ですから」

「まあ、現にこいつも呪われてたわけだしな。……でもお前、偶然とはいえ、裏サイトに悪口書かれてたのか……」

「特に愛さんの場合は、映画関連で被害を受けた女生徒も数多くいるみたいですしね」


 そう話している際に、愛がふと手を上げた。


「……あの……」

「? 何か?」

「実は私、今日、変なものを見て……」


「変なもの?」

「なんというか、黒いもやみたいな……」

「……どこで?」

「女子トイレです。誰か入ってたみたいですけど、怖くなって出ちゃいました」


 一同は沈黙する。


「……それってまさか……」

「愛さん、これ何本に見えますか?」


 安里が、ピースサインを愛に見える。普通なら2本だ。

 だが、愛は。


「……3本?」


 蓮と十華の背筋に、寒気が走った。


「……おい、おいおいおい待てよ、怖えよ!」

「そ、そうよ! 安里さんも何か言ってよ、どう見ても2本じゃない!」

「いやあ、実は「呪い」と同化しまして。その「呪い」で、1本増やしてみました」


 安里は笑ってそう言う。つまり。


「愛さん。あなた、「呪い」が見えてますね?」


 愛の頷きに、場の空気が凍り付いた。


「……マジで?」

「うん……」

「……おそらく、例のエクソシストさんの影響でしょう」


 つまりは、キスされたことにより、愛も「呪い」が見えるようになったという事か。


「となると、愛さんがトイレで見たのは、「呪い」でしょうね」

「やっぱり、そうですか!?」

「おそらく、その方はトイレの個室で裏サイトを見ていたんでしょう」


 つまりは、スマートフォンでも呪いは発現する。トイレの個室で見るものと言えば、大概はスマホだろうからだ。


「……あっ!」


 愛が急に叫んだ。


「ど、どうした!?」

「あ、あの子……!」


 愛が、たった今カフェに入ってきた女生徒を指さす。


「……え、アイツは……」


「あれ? 紅羽さん、まだいたんですか?」


 篠田美緒である。篠田は蓮を見て、怪訝な顔をした。


「……お、おう。いちゃ悪いかよ」

「いや、別にここは立ち入り許可が必要とかじゃないですけど……。安藤理事長は?」

「理事長なら、もうお帰りになりましたよ」


 即座に、安里が口をはさむ。篠田は安里をじっと見た。


「……あなたは?」

「どうも、僕は蓮さんの友人で、安里修一と言います。理事長ともこじんてきにしりあいでして、さっきまで一緒に食事してたんですけど、ちょうどさっき帰られたんですよ」

「そ、そうですか。……立花さんに、平等院先輩も一緒なんですね?」

「え、ええ。まあ、彼とは知り合いで」

「そうなんですね……」


 篠田は、蓮の方をちらりと見る。彼女は顔を赤らめると、少し離れたところに座った。


「……おい、アイツがどうかしたのか?」


 蓮が愛の方を見ると、青ざめている。


「……あ、あの子……呪われてる……!」


「何!?」

「しっ、声が大きい!」


 十華が、咄嗟に蓮の口を塞ぐ。

 4人は気づかれないように、篠田の様子を窺った。


「……それで、愛さん。呪いというのは?」

「何だよお前、見えないのか?」

「残念ながら。……「同化」した呪いが弱まっていたからでしょうかね」

「なんだよ、使えねえなあ」

「それより、彼女が呪われているっていうのは……?」


 愛は、篠田の周りを指さした。


「彼女の周りに、黒い靄が……」

「靄?」


 そうは言っても、蓮たちには全然見えない。目に映るのはこちらを怪訝な顔で見ている篠田だけである。


「……本当にあんのか? その、靄ってやつ」


 蓮は眉をひそめてみるが、やっぱりそんなものは視界に映らない。


「でも、不味いんじゃない? もし本当にそんなのあるなら、今度は彼女が狙われることに……!」


 十華の言葉に、3人は言葉を失くす。しかし少しの間をおいて、安里が口を開いた。


「……被害が出る前に、片を付けましょう」

「……どうするんだよ?」

「裏サイトを探します。愛さんが見えるのなら、おそらくこの学校内で接触できるでしょう。平等院さんには、彼女が学校から出ないように足止めをお願いしたいのですが」


「……ええ。分かったわ」

「僕と蓮さん、愛さんは、学校中を走り回ることになります」

「わかった」

「その、黒い靄を探せばいいんですね?」

「お願いします。僕も探しますが、おそらく愛さんの方が強力でしょう。頼りにしていますよ。それで、蓮さん」

「おう」

「僕の指示通りに動いてくださいね。余計なことはしないように」

「……わかったよ」


 靄が見えない蓮は、ただただ足を動かすしか役に立ちそうもない。

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