1-ⅩⅩⅦ ~裏サイト閲覧者を探せ!!~
時間を少し遡って。
紅羽蓮はまず、特進科の校舎を駆ける。
玄関のおじさんに入校許可証を見せると、玄関に飛び込んだ。
「わかるか!?」
「うーん……あっち!」
愛が左を指さすと同時に、蓮は走り出す。多数の女生徒が驚いているが、蓮はぶつからないように躱しながら進んでいった。
現在、蓮は愛を背負った状態で走っていた。こっちの方が人ごみの中を走りやすい。
『蓮さん、エクソシストさんには連絡入れましたよ』
蓮の着ているコートのポケットから、安里の声がした。
「わかった!」
「あ、ダメ! 気配消えちゃった」
「何!?」
愛の声で、蓮は急ブレーキをかける。
「きゃあああああああ!」
ある女子の目の前で止まり、そのまま踵を返して走り出す。驚いた女子は尻餅をついてしまった。
「……1階には、誰も開いている人はいないみたい!」
「じゃあ、次2階だな!」
愛の指示とともに、蓮は階段を上る。上るというよりは、跳び超えるといった方がいいだろう。17段ある階段を、1段も使わずに踊り場へ着地する。同じようにして、およそ2秒で2階へとたどり着いた。
「どうだ!?」
「……ダメ、どこにもいない!」
「っくそ!」
『焦らないでくださいよ。これだけ広い敷地ですからね、誰か彼かいるでしょう、裏サイトを開いている人は』
人が呪いを纏うのは、主に2パターンである。
1つは、呪いを直接受けた者。これは、愛や篠田のように、呪いで人に襲われるようになるものだ。
そしてもう1つは、呪いの発生元に接触しているものだ。つまり、裏サイトを見ている当事者、という事である。
厄介なのが、どうやらこの呪いは裏サイトにある時点でかなり薄まっているらしく、ページを変えるとすぐに気配がなくなってしまうことだ。おかげで、閲覧者を愛が察知する前にページが閉じられ、結局誰が見ていたのかわからなくなってしまう。
そうして、特進科中を走り回ったものの、結局誰が裏サイトを見ているのかはわからずじまいである。
「いっそ、篠田に話持ち掛けたやつを当たった方が良くないか!?」
『そうしたいのはやまやまですが、その人、もう転校してるみたいなんですよ』
「何!?」
『今、島根ですって』
「クソが!」
「……おい、紅羽くん! 何をやってるんだ!?」
3階に上ったところで、理事長の染井が飛び出してきた。その周囲には、複数の警備員が構えている。
「学校内で、これ以上騒ぎを起こすんじゃない!」
蓮は舌打ちした。
「紅羽さん、ダメ。3階にもいない!」
「……ってことは?」
『次は普通科です。ゴー!』
じりじりと追い詰められた蓮は、「あーもう!」と腹を決めた。
「あとで弁償するから、綴編高校に請求書出してくれよ!」
蓮は、警備員のいない窓側を見る。
「な、まさか、窓を破る気か!?」
染井の言葉に、警備員が慌てて距離を詰める。だが、間に合わない。
そして、蓮が破ったのは窓どころではなかった。
窓とその周辺の壁が、蓮の蹴りによって砕け散った。
「何いいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
立ち込める煙と飛ぶ瓦礫に一同が顔を覆っている間に、蓮たちは外へと飛び降りていた。
鉄筋がむき出しになり、大穴が空いた壁を見て、全員が口を開けていた。
「……い、今すぐ警察を呼べ! あいつらを捕まえろ!」
染井の声に、周囲はあわただしく動き出した。
***************
特進科から飛び降りた蓮たちは、普通科へと駆ける。その間に誰か見ていないかを愛は探るが、誰もそれらしき人はいない。
「……おい、お前の読みが外れたんじゃねえのか!?」
『そうだったら、素直に謝りましょう』
「今更謝って済むか!」
そうして、普通科校舎は特に破壊することもなく一通り走り回った蓮達だったが、裏サイト閲覧の現行犯を見つけることはできなかった。
「ダメだわ、誰か彼か見てるのは間違いないのに……!」
「クソ……」
『……最終手段ですが、学校と「同化」するって手も……』
「そ、それは待ってください!」
愛が慌てて止める。そんなことになったら、桜花院は安里修一に乗っ取られたも同然である。
『わかってますよ。さすがにそれはまずいですもんね』
「となると、やっぱり現行犯を探すしかないわけだが……」
蓮がそう言うと、にわかに騒がしくなってきた。どうやら警察が来たらしい。
「やっべ、警察だ!」
『急ぎましょう。捕まり……はしないですが、もめると厄介です』
「それは同感です!」
このままだとさらに騒ぎは大きくなる。そうなる前に、何としても自分が見つけなくては。
愛は懸命に、周囲の気配を探った。
その時、不意に昔剣道をしていた時のことを思い出す。
道場の師範をしていた祖父の言葉だ。なかなかすぐ焦ってしまう愛に、彼はこう言った。
本当に集中したいなら。焦った時こそ深呼吸だ。呼吸は、己の身体だけでない。心も整え、研ぎ澄ます―――――。
愛は、蓮の背中で目を閉じると、深く息を吸い、そして吐いた。
すると、不思議なことに、周囲の気配がしん、と静まり返る。
少し遠くに、あの不気味な気配を、確かに感じ取った。
「紅羽さん、いました!」
「何!?」
「ここからまっすぐ行ったところの庭園! 多分ほかの人もいない!」
「つまり?」
『裏サイトを閉じてても、その人が見ていたことは間違いないですね』
「……わかった!」
蓮は足に力を込めると、勢いよく駆けだした。
そして、走る先に、黒髪の女がベンチでスマホをいじっている姿を見る。
愛の視界には、スマホから放たれる黒い靄が見える。間違いなかった。
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