第16話 【異能学園編】学園ものだよ、最強さん。

16-プロローグ ~紅蓮の編入生~

 ――――――この日、俺の通う学校の日常は、崩壊した。


 目の前には、信じられない光景。屈強で素行の悪い生徒たちと、真正面から殴り合える、学校最強の教師が、敗北した姿を目の当たりにしたのだ。


「……そんな、バカな……」


 そんな言葉を俺がぽつりとつぶやいたのも、無理のない話。何せその学校最強の教師は生徒指導の担当であり、「鬼人」と恐れられている男。


 そんな鬼人が、上半身を地面に埋めて、某ミステリー小説の湖の死体よろしく、足が上がった状態になっているのだから。ちなみに存命である。


「……けっ」


 あまりの光景に腰を抜かしている俺の横では、見るからに柄の悪い、赤いとげとげした頭の男が舌打ちしている。目つきも鋭く、町で出会ったら道を開けてしまいそうだ。


 ……まあ、柄が悪いのはなので、なんとも言えないのだが。


「お、おい……転校生」

「あん?」


 俺は恐る恐る、男に声をかけた。目の前で鬼人を殴り、地面に沈めた超パワーを目の当たりにして、正直ビビるにビビってしまっていたが。


 ――――――それ以上に、この男は使えると思ったのだ。


******


 紅羽蓮あかばれんは、この学校に来たことを、編入初日に後悔していた。


 とある理由があって、蓮はもともと通っていた綴編高校から、この学校に編入することになった。


「これでようやくまともな教育が受けられるといいですね」

「……おう」


 荷造りを手伝ってくれている多々良たたら葉金はがねが、真面目な顔で言っていた。編入先の学校は全寮制で、綴編の屋上プレハブ小屋においてあるものを一部、学校へと持って行こうと思っていたので、手伝ってもらっていた。


「でもダーリン、私の教え方の方がいいって思ったら、いつでも電話してね? 待ってるからね? 何もなくても電話してくれてもいいからね?」

「へいへい」


 数学教師のキューもぐちぐち言いながら、蓮の荷造りを手伝っている。彼女は蓮が大好きだったので、「私も転勤する!」と言って泣き出す始末だったが、ようやく落ち着いてくれた。


 正直この時までは、蓮は編入するのを少し、楽しみにしていた。

 蓮の通う綴編高校は不良校。まともな教育を受けられるわけもない。そして、蓮はそろそろ高校3年生になる。


 そして、紅羽蓮には、ひそかな野望があった。そのためには――――――。


(……大学受験、しねえといけねえからな)


 そのために蓮に必要なのは、まっとうな教育だ。キューが個人的に教えてくれたりもするが、やっぱりまともな高等教育を受けたい、というのが普通の高校生としての希望だった。


(……問題は、授業についていけるかどうかってとこだけど……まあ、その辺は何とかするしかねえな)


 まともな教育を受けていないので、蓮の学力はバカである。まあ、仮に授業について行けなかったら、キューに泣きつけばいいだろう。


 そう、思っていた。だが、そんな目測は大甘だったことを、すぐに思い知ることになる。


(……畜生め!)


 考えてみれば、当然である。蓮がこの学校に来た事情は、安里探偵事務所に舞い込んだ、とある依頼によるもの。


 そして、安里探偵事務所絡みの事件であるということは。


「――――――結局まともな勉強なんざ、できねえじゃねえかよ!」


 そんなわけで編入早々、蓮は授業をフケた。


 そしてそれをとがめた生徒指導の先生が、蓮を「指導」しようと襲い掛かってきた。


 それを難なく迎撃して、現在に至るわけである。

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