11-Ⅰ ~DCS:復活後初ライブ!!~
「きーらーきーらーひーかーるー♪」
「おーそーらーのーほーしーよー♪」
「まーばーたーきーしーてーは♪」
「みーんーなーをーみーてーる♪」
「きーらーきーらーひーかーる♪
「おーそーらーのーほーしーよ♪」
軽快なピアノの音とともに、日頃のボイストレーニングのたまものであろう、よく通った声でのワンコーラスが終わる。
その瞬間、「わああああああ!」という、紅羽蓮には少々耳障りなほどに甲高い歓声が上がった。
「はーい、みんな、どうもありがとう!」
歓声を上げる観客に、歌い終わったアイドルは、ステージの上で満面の笑みを浮かべている。彼女の初のソロライブは、大盛況となっていた。蓮の隣では、彼女の担当プロデューサーである
「……やはり、夢咲さんの笑顔はほかのアイドルよりも、とびきり素敵ですね」
「そうか?」
「ええ……こんな活き活きした笑顔は、今まででもなかなかありませんでしたから」
アイドルの名は夢咲香苗。スタンドアップ・プロダクションに所属するアイドルであり、紅羽蓮の幼馴染である。
蓮との再会より様々な事件があり一度は心まで折れてしまったが、失意の底に沈む彼女を、蓮が力づくで引っ張り上げたのだった。
かつていた大手事務所を退所し、新しく所属した芸能事務所。そこでは、香苗のやりたい仕事を優先していくという、タレント・ファーストの営業を行っている。そして、香苗の初のお仕事として、選ばれたのが今回の舞台というわけだ。
『はい、ありがとうございました! それではこれからいよいよ、アイドルのお姉さんたちとの触れ合いタイムですよー!』
マイクを持っているスタッフの女性がそう言うと、観客たちは一斉に立ち上がった。そして、まるでイナゴのように、一斉に香苗たちに群がる。
「お姉ちゃん、すげー!」
「歌、綺麗だった!」
「握手して、握手!」
まあ、そんな群衆のいずれも、香苗たちの背丈の半分もないのだが。
ここは「いぬかい幼稚園」。香苗の、そして蓮の出身の私立幼稚園だ。そして、香苗の所属するユニット「DCS」の初舞台は、この幼稚園に通う園児たちに向けられたものであった。
「いやあ、子供たちに大人気だな、香苗ちゃんは」
蓮たちのもとに、白髪の男性がやってくる。
「おう、園長」
「蓮くんも、すっかり大きくなったねえ」
「そりゃ、10年も経ってるしなぁ」
男性と蓮は顔見知りである。と言っても、最初会った時、蓮はおぼろげだったが、向こうは蓮の事をはっきりと覚えていた。
「あいつが、どーしてもここでやりたいって言うからよぉ」
「お話を受けていただいて、ありがとうございます」
「いえいえ。子供たちも喜んでいますから」
昔のぼんやりした記憶の中と変わらない、子供に対して慈愛の満ちた穏やかな笑顔の園長に、蓮は懐かしさを覚える。
「夢咲さんと紅羽さんは、どんな生徒だったんですか?」
「そうですなあ」
路場の問いかけに、園長はうーんと首をひねる。
「香苗ちゃんは、とにかく明るい子でしたよ。歌って踊るのが好きな子で……。そして、蓮くんは……。暴れん坊でしたねえ」
「いいよ、余計なこと言わなくて!」
かすかに赤面している蓮の様子に、路場は思わず「ふふっ」と笑ってしまう。
考えれば、彼だって香苗と同い年の男の子なのだ。どういうわけか、社会の闇に触れすぎているせいで、自分よりも大人びて見える時すらあるが。そんな彼の年相応の顔を見ると、ああ、彼もまだ子供なんだな、と実感できる。
「……ところで紅羽さん、園長先生とお話がしたい、とのことでしたが」
「あ? ああ、そうだな。じゃあ、香苗たちの事、あと頼むわ」
「はい」
路場は蓮に一礼すると、園児たちに囲まれているDCSの元へと歩いていった。
「……さてと。園長」
「何だね?」
「俺がここに来たのはよ。アイツらの付き添いもそうなんだけど……もう一つ、聞きたいことがあってさ」
「聞きたいこと?」
首を傾げる園長を、蓮はじろりと見つめる。それは年頃の少年の目ではない、探偵事務所メンバーとしての、鋭い瞳だった。
「……
香苗のアイドルのルーツとなったと言われるアイドル、日野静歌。
夢途中で自殺してしまったというその女性は、なんとこのいぬかい幼稚園のOGであった。さらに言えば、蓮が園児の頃に幼稚園に来ていたという偶然である。
「……蓮くん、君は……」
「奥で話そうぜ。アイツらに聞かすような話じゃねえのは、もう分かってるからよ」
親指で園長室を示す蓮に、園長は口を一文字に結んで頷く。
「……あれ? 蓮ちゃん?」
香苗が子供たちに囲まれながら、ふと気づいた時には。
蓮と園長の二人の姿は、ステージで会った体育館から消えていた。
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