14-Ⅰ ~日本がざわつくクリスマス~
12月25日。1年の終わりを控えたこの時期、世間一般ではクリスマスという一大イベントがある。世界的にも大きなイベントであるクリスマスには、街も賑わうというものだが……。
「慌てず、落ち着いて避難してください!」
「大丈夫ですから! 走らないでください!」
「押さないでください! 危ないですから!」
日本、
徒歩市を含む近隣地域は現在、緊急避難警報が出されていた。住民たちはみな、突然出された避難命令への戸惑いと、その原因を知り、一斉に徒歩市を脱出していた。
原因となったものは、クリスマスの夜明けとともに、日本国民が全員知るところとなった。徒歩市郊外の山の麓に突如として現れた、巨大な蛹。赤黒い表面から、うっすらと中に何かがいることがわかる。あり得ないほどの大きさではあったが、それが生物であることは、メディア映像を通して視認した者全員がわかった。
巨大生物――――――すなわち、怪獣。そう理解するのに、時間はかからない。
パニックになる寸前に、首相より緊急記者会見が開かれた。
「徒歩市の皆さん、落ち着いて避難をしてください。あの怪獣が動き出すには、まだ時間があります。繰り返します。まだ怪獣が動き出すことはありません。落ち着いて、避難をお願いいたします――――――」
この番組が放映されたのが午前6時。それからわずか30分で、徒歩市の道路はかつてない大渋滞に陥っていた。
徒歩市には近隣の駅が徒歩駅しかない。車を持っている者は、即座に車で避難を行う。車がない者は、皆最寄りの徒歩駅か、その隣の駅に押しかける事態となった。
避難が進む中、報道関係者の一人が手を上げる。
「あの生物がまだ動き出さない、というのは、何か根拠があるんですか?」
「――――――巨大生物の発生を確認した際、即座に対策として専門家を派遣し、状況を調査いたしました。その結果と今後予測されることに着いて、今からご説明いたします」
首相がアイコンタクトを部下にすると、部下の操作で首相の後ろに会ったスクリーンに映像が流れだした。
「あの怪獣は、現在肉体を生成している状態です。昆虫の羽化のように、蛹の中で身体を作っている。専門家の調査の結果、怪獣の肉体生成は現在30%ほどとのことで、羽化には少なくとも夜までかかる見通しです」
「夜……」
「なので住民の皆さんには、遅くとも正午までには避難をお願いいたします。避難を確認後、蛹状態の巨大生物に対し、自衛隊で攻撃を行います。対峙する作戦を現在、防衛相と協議中です」
「……自衛隊の攻撃は、巨大生物に有効なんですか? それが、巨大生物の覚醒を早める可能性はありませんか!?」
「リスクはあります。しかし、リスクのない防衛はできません。攻撃による早期覚醒も十分に可能性はありますが、何もしなくとも早期覚醒するかもしれない。なので、迅速な行動が必要になります」
首相のきっぱりとした言葉に、マスコミはざわついた。
「巨大生物は未知の存在です。専門家の意見も、あくまで意見にすぎません。予想外のことが起こる可能性が高い。国民の皆さんには、リアルタイムに状況を把握し、どういった対応を取るべきか。ご自分でもしっかり考えたうえでの行動をお願いいたします」
ここで放った、「国民」という言葉。その意味を、視聴者は容易に理解できた。
――――――これは、徒歩市に限らない、日本という国家そのものの危機なのだ。
******
会見が終わってから、日本中で大きな動きがあった。徒歩市の近隣であった東京からも、一斉に人が避難が始まったのだ。
成田空港、羽田空港は受け入れが間に合わずパンク状態。いつも通勤で満員の朝の電車は、電車どころか各駅のホームが満員となる事態に陥った。東京の人口密度の高さの弊害と言えるだろう。
人の動きを見れば、関東地方から、一斉に人が移動していた。首都から関東圏の高速道路は大渋滞となり、車が埋め尽くす。サービスエリアも従業員が避難しているのか、無人であった。
一方で地方では、急遽として仮設住宅の建設が進められていた。報道を受け、大量の避難民が流れてくる可能性を考慮してのものだ。
そのため、地方の建設業者による工事が、日本中で行われていた。東京を含む関東圏の人口が流入してくる、と考えれば、どれだけ用意しても足りないくらいだが。
「巨大生物は、かつて日本を襲った震災、水害に匹敵――――――いや、それを凌駕する脅威であると認識しています。被害を受けた人々を、我々はできうる限りで支援いたします」
各都道府県の知事がその意思を表明し、以下市町村も同意した。予測される負担は計り知れないが、かといって避難してくる人たちは何も悪くない。
日本は一丸となって、巨大生物災害に対しての準備を進めていた。怪獣対策の予算案は、即時可決となるほどだ。
野党からの反対は全くと言っていいほどなかった。未曽有の災害を前に、水を差すわけにもいかない――――――と言えば聞こえはいいのだが、実情はちょっと違う。
特別国会による緊急決議が行われたのは、国会議事堂。つまりは東京だ。
彼ら自身もさっさと決議を決めて、逃げ出したかったのである。
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