4-Ⅰ ~N●Kへやって来たぞ!!~

 蓮たち一行は、東京は国営テレビのテレビ局へとやってきていた。

 移動時間は電車で30分。随分と安上がりな社員旅行である。なので、当然日帰りであった。


 当の夢依は、鼻息をふんふんと鳴らしながら駆けだしている。


「あんまり離れると迷子になりますよー」


 その少し後ろに、安里修一が付いていた。さらに後方に、紅羽蓮と立花愛、朱部純が並んで立っている。


「……こんなん、ちょっと遠くに出かけただけじゃねえか」

「ま、まあまあ。夢依ちゃんも楽しんでるみたいだし……」


 困ったように笑う愛だが、彼女もまさか夢依の行きたい場所がテレビ局だとは思っていなかった。


「スタ●オパークが見たい」


 それが夢依の放った言葉で、その見学に事務所メンバー総出で来ることになったのだ。


 蓮はいささか不満だったが、子供の要望には勝てるはずもない。


「……へえ、結構バラエティみたいなのもやってんだな」


 蓮たちが歩いているのは、番組紹介の展示コーナーである。様々な番組のパネルが設置され、各種説明が施されていた。

 蓮のイメージ的には、ニュースと大河ドラマのイメージくらいしかなかった。だが、実際はいろんな種類の番組もやっているようだ。なんならアニメのパネルの方が多いくらいだ。


「あ、私これ小さいころ見てたやつだ」


 愛も、なんだかんだと楽しんでいるようで何よりだ。朱部はと言うと、無言でパネルの写真を撮りまくっている。


「……何してんだ?」

「写真を撮ってるのよ」

「見りゃわかるよ。……お前、そんなキャラだったっけ?」

「ブログに載せるのよ。事務所の」

「ブログ? そんなもんあったのか?」

「……自分の働き先のHPくらい把握しておきなさい」


 朱部はそう言うと、別の場所を撮りに行ってしまった。蓮はやれやれとため息をついて、辺りを見回す。


 そう言えば、安里がいない。アイツはどこに行ったのか。


(……トイレ、なわけねえな。アイツ、する必要ねえし)


 「形状記憶型群体生命」である安里修一は、本来排泄をする必要がない。なんなら、人間の形をとる必要がないし、食事もとる必要がないのだ。安里という個体を維持するだけなら、周囲の物体を同化侵食すれば事足りる。


(じゃあ、どこ行ってんだ?)


 スマホで連絡しようと、取り出した時だ。


 不意に、殺気が蓮に向けられたのを感じた。


 感じたと同時、蓮の喉元へと鋭いものが向けられる。


(―――――――――――っ!)


 蓮は鋭いものを、相手の腕を握って止めた。止めて、何が向けられたのかを知る。ボールペンだ。


「……ちっ」


 舌打ちする声は、聴きなじみのある声だった。


「……あ、お前……!」


 先程まで何やらぼんやりとしか認識できなかったが、次第にはっきりと桃色の髪と目が見えるようになる。


 四宮詩織。蓮の弟である紅羽翔のクラスメイトであり、(自称)彼女であり、夜な夜な紅羽家を襲撃してくる重度のストーカーである。


 しかも、質の悪いことに、彼女は厳しい訓練を積んでいる忍者であった。

 蓮の通う綴編高校の用務員である多々良葉金の妹分であり、色々あって彼とは袂を分かっている。


「……なんでお前がこんなところにいるんだよ」

「こっちの台詞なんですけど。なんでお義兄さんがテレビ局なんかに来ているんですか。びっくりして追って来ちゃいましたよ」


 とりあえず、すぐさま互いに離れる。周囲の人には、詩織が蓮を襲ったことは気づかれていないらしい。そのあたりはプロといったところか。


「……とりあえず、こっち来てください。明日香たちもいますから」


 詩織に手招きされて、蓮はひとまず詩織に着いて行く。


「……あれ? 蓮さん?」


 愛が気付いた時には、蓮の姿は展示コーナーからいなくなっていた。


***************


「げ、紅羽くんのお兄さん!?」


 詩織と同じく忍者である阿仁屋明日香は、蓮の顔を見るなりそう言い、食べていた弁当を箸から落とした。


「すごい偶然ですねえ、どうしたんですか?」


 のほほんとした口調で言うのは、誉田穂乃花。実を言うと、一番最初に蓮に牙を剥いたのは、彼女だったりする。


 4人がいるのは、とある楽屋である。楽屋には「朝●チ ASH様」と書かれており、中には詩織たちのほかに誰もいない。


「朝●チって、確か毎朝やってるやつだよな」

「そうですよお。私たち、今そこでゲストとして週一で出させてもらってるんです」

「……マジかよ……」


 蓮は朝が弱いし、第一紅羽家の平日朝のテレビは「モー●ングバード」派だ。見ている局が違うので、全然知らなかった。


「翔くん、見てくれてるって言ってたんだけどな……」


 詩織はいぶかしむが、翔の事だから嘘はつかないはずだ。恐らく、録画でもしているんだろが、舞い上がって調子に乗りそうなので黙っておく。


「……そうだ。紅羽さん、ちょっと聞きたいんですけど」

「あ?」


「その……葉金兄の事で」


 多々良葉金は、彼女たちの兄貴分であり、蟲忍衆の筆頭だった男だ。詩織たちのために蟲忍衆の里を滅ぼし、彼女たちと闘ったうえで決別した。蓮もその事件に巻き込まれたので、事情は知っている。なにせ、葉金の再就職先は蓮の通う学校の用務員だ。


「あいつが、どうかしたのか?」

「その……元気なのかなって。葉金兄、これからどうするとかって、言ってましたか?」


 なるほど、わざわざ連れてきたのはそういう事か。詩織だと、翔がらみでもめるから聞けないだろうし。


 別に言っても構わないのだが、殺し合いまでした手前葉金も気まずいだろう。


「……さあな、ま、元気なんじゃねえの。お前らより優秀なんだろ」

「そりゃ、そうだし……そこまで心配はしていないですけど」


 でも、やっぱり気になるんです。穂乃花はそう言い、お茶を一口飲む。


「葉金兄がどうして蟲忍衆の里を滅ぼしたのか、腑に落ちなくて……。どうして、蟲忍衆の里を襲ったのか、はっきりした理由を知らないんですよね」


 そう言えば、アイツその辺の詳細を話していなかったのか。まあ、彼女たちのために滅ぼしたなど、あの男は口が裂けても言わないだろう。頑固だから。


「……変なことと言えば、里の人はほとんど避難していて、近隣の集落にいたってことよね」


 人的被害はほとんどなし。それも蓮は分かっている。

 何しろ里の人間を避難させたうえで村を破壊したのは、他でもない蓮だからだ。


「……なんかわかったら、連絡くらいはしてやるよ。そこのストーカーにでも話してな」


 蓮は詩織を指さすと、詩織は目を逸らす。


「……あ、そうだ。せっかくだし、これあげます」


 穂乃花は蓮に近寄ると、手に一枚の紙を渡す。


「あ? 何だよコレ」

「私たち、今日はこれで仕事が終わりなんです。だから、ス●ジオパークでも見学しようかと思ったんですけど。よくよく考えたら大騒ぎになりそうだし」


 あと、詩織がいつも迷惑かけてるし、と明日香が付け足した。

 蓮はもらった紙をひらひらと揺らしながら見やる。


ス●ジオパークの一番前の見学席のチケットだ。

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