第4話 沖縄行っても、最強さん。

4-プロローグ ~お詫び、社員旅行~

「社員旅行を開催します」


 安里探偵事務所所長である安里修一は、事務所メンバーと姪の夢依を集めて宣言した。


「……なんだよ、いきなり」

「いやあ、流石に今回はご迷惑をおかけしましたしね」


 夢依を安里が引き取るにあたり、相当面倒なことになったのは記憶に新しい。そのお詫びに、という事での旅行だそうだ。


「旅行かあ……いいですねえ」

「せっかくなので、皆さんのリクエストも可能な限り採用したいと思っていますが、どっか行きたいところはありますか?」

「行きたいところ、ねえ」


 ふむ、と一同が考えをめぐらす。安里はいつも通りの笑顔で、それを見つめていた。


「……旅行かあ」


 蓮はポリポリと鼻を掻きながら、今までの「旅行」を思い出していた。


 安里とつるみ始めてから、蓮は地味にいろんなところに連れて行かれている。北は北海道から、南は鹿児島まで。そのどれもこれもが、血と欲望の入り混じった、いい思い出とは言えない物ばかりである。


「……ん、待てよ。そういや、俺沖縄行ったことねーや」

「沖縄?」

「ああ、じゃあ俺、沖縄にするわ」


 蓮が何となく放った一言で、愛も「じゃあ、私も沖縄にしようかな……」とその気になる。「多勢に加担する」を信条とする朱部も、「じゃあ私も沖縄」と手を上げた。


 安里はうんうんと頷き、結論を出した。


「わかりました。じゃあ、行先は北海道で」


「いや、なんでだよ!」


 蓮の怒号のツッコミが、事務所の壁にひびを入れた。


「だってえ、こんな時期に沖縄に行くなんて、正気じゃないですよ」

「何言ってんだよ、俺ら満場一致で沖縄じゃねえか」

「今の時期、気温何度になると思ってんです? 38℃ですってよ」

「うぐっ」


 蓮は少しひるんだ。確かに、南国の暑さというのはヤバいかもしれない。何しろ、冬でも暖かいという沖縄だ。暑い時期に敢えて行くのは、危険かもしれない。


「だったら、夏こそ避暑に走りませんか? それなら、北海道の方がいいでしょう。何しろ、夏でも25℃くらいらしいですよ」

「え、それは涼しいですね」

「あと北海道と言えば豊富な自然ですよ。ジンギスカン、海鮮料理、帯広の豚丼。他に有名なものと言えば、後は……マリモとか?」


 最後が地味すぎるだろう。だが、安里の詭弁は留まることを知らなかった。


「沖縄は大体混んでますよきっと。首里城だったり、ちゅら海水族館だったり、色々と名所がありますからね。何より海に人がいっぱいいますから、海沿いのホテルだったりするともう満杯でしょう。最近になって万座毛まんざもうっていう観光スポットができたようですから、あそこも混むでしょうね。それに、国際通りなんて人でいっぱいですよ。ステーキも力を入れていますし、モズクを天ぷらにしますし、それに……」


(……な、なんか、沖縄にやけに詳しくないですか? 安里さん)


 饒舌に沖縄の紹介兼ディスリを行う安里を尻目に、愛が蓮に耳打ちした。確かに、北海道の話の3倍くらい沖縄の事を話している。


「……お前、本当は沖縄行きたいんじゃねえの?」

「そんなことはありませんよ」


 蓮の問いかけに、安里は即答した。嘘を吐いているようには感じない……と、蓮は素人ながら思う。もっとも、この得体のしれない生命体に心理的なカマかけなど無意味なのかもしれないが。


「……だったら、夢依ちゃんに決めてもらったらどうですか?」

「夢依に?」


 唐突に話を振られた安里の姪っ子である夢依は、見ていたテレビからぱっと振り向いた。


「だって、夢依ちゃんがこの前の件で一番大変だったんだもの。行先、夢依ちゃんに決めてもらいましょうよ」


 愛はそう言い、夢依を見てウインクをした。


「……私が、決めるの?」

「……いいでしょう。夢依はどこか、行きたいところありますか?」


 夢依は、腕を組んで、うーんと考えた。


 そして、彼女は行きたいところを口にする。


 事務所のメンバー一同は、呆気にとられた。


 そんな中、「チーン」という音がこだまする。


 安里お手製のロボットであるボーグマンに先日アップデートされた機能、頭の部分でメロンパンを焼きあげる作業が完了した音だった。


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