12-Ⅻ ~問題点を整理しよう~

「むしろ依頼が増えてややこしくなってしまいましたねえ」

「……どーすんだよ、これ……」


 事務所へ戻った蓮たちは、どっと各々のスペースに倒れこんだ。英気を

養うための食事で出たはずなのに、なぜか事務所を出る前より疲れている。


「まあわかったことは、商店街と美味フーズは、僕らの想像の何倍もズブズブの関係だったという事ですね」

「長い時間をかけて、ちょっとずつ歪んじゃったんですね……」

「……で。結局、どうするの。安里くん」


 パソコンに向かっている朱部が、安里をじっと睨んだ。こういう時に判断を下すための所長であり、それをさせるのが正社員である朱部の仕事である。


「……ちょっと一旦、まとめてみましょうか。何が問題なのかも、現状はっきりわかってないですからね」


 安里は立ち上がって指を鳴らすと、事務所に置いてあるロボットのボーグマンがホワイトボードを持ってきた。ロボットなんて超テクノロジーをそんなことに使うな。

 写真をボードに貼り付け、ペンで名前や矢印などを書いていく。この光景はまるで、刑事ドラマの捜査中の場面だ。


「あ、愛さん。カギ閉めといてもらっていいですか。誰か来たら困るんで」

「は、はいっ」


 愛が事務所のカギを閉めたことを確認し、安里はまとめを続ける。


「そもそも、今回の依頼についてですが――――――、

問題点① 飲食店組合が、美味フーズとの取引を打ち切られそうになっていること。

この原因が……はい、蓮さん」

「社長が変わって、営業方針も変わったからだろ?」

「それもありますが、おそらくここに、羽生さんが言っていたツケもあるんでしょう」


 つまり、シンプルにお金を払ってないから取引を打ち切ろうという、会社としては至極まっとうな判断であるということだ。


「じゃあ、商店街は何の文句も言えねーじゃん」

「ただ、文句を言ってるんですよ。それが、

 問題点②  商店街と美味フーズの関係が根深いこと。

愛さん、どういう事でしょうか?」

「え? ええと……創業時からずっと取引してきて、更に美味フーズが困ったときには、商店街に助けてもらってるんですよね」

「そういう事です。まあ、ずっと太客であるってだけなんですが」


 そして、この関係性において、更に問題が発生している。


「問題点③ 関係が深いのは、先代社長の勝太郎氏であること。

 これがあるせいで、息子の真保社長は商店街から猛烈な反発を受けている」


 もし同じような提案があったとしても、勝太郎が誠心誠意商店街に伝えていれば少し彼らの反応も変わったろう。だが、若い社長のまっすぐすぎる主張が、逆に商店街に反発を生んだ。だから、「若社長の弱みを握れ」なんてとんでもない依頼が舞い込んできたのだ。


「で、これの解決方法ですが……どう思います?」

「いや、金だろ」


 安里の問いかけに、蓮は即答した。


「弱みを握るも何も、ちゃんと払うもん払ってからやれって話なんだよな」

「そうですね。……私も、まずはそこからじゃないとだめだと思います」


 愛も同様の意見。まあ、そりゃそうだ。あーだこーだ言っている方の信用がなさ過ぎて、文句を言っていても何一つ響いてこない。特に愛の場合は、実家が同業というのもあるのだろう。


「逆にほかの商店街とか、どうしてんだろうな。どこもこんな感じなのか?」

「だとしたら第一営業課は、もう潰した方がいいですねえ。こんなめんどくさい取引先、相手にしてらんないですもんね」


 まあ、それを完全に消せないのは、先代社長の勝太郎氏が原因なんだろう。これが、ワンマン社長のワンマンたる弊害である。

 独裁政治と同じだ。指導者がいる時は誰も文句は言わないが、いなくなると一気に不満があふれ出る。この会社でも、これだけ第一営業部がごり押しできていたことから、勝太郎氏への中央集権がうかがえる。


「でも、第一営業部ってのがあるくらいですから、利益はあるんですよね? 私、経営とかよくわかんないけど……」

「ええ、まあ。決算書が出てますね」


 安里が見せてくれたのは、会社から(不正に)取り寄せた決算書である。統合前の、3つの営業部が独立している時代のものだが、どの営業部もちゃんと利益を出していた。まあ、確かに第一営業部は少ないが。


「ちなみにこれ、今度の株主総会の資料ですね」

「株主総会?」


 美味フーズは株式会社。なので、当然株主がいる。今回の急激な組織改編も、事後報告として株主に報告するようだ。これは、どれだけ第一営業部が足を引っ張っており、真保の

改革が正当であるかの資料の一つである。


「なるほどなあ」


 蓮はこれを見ても、「それなりに稼いでいる」という印象しか得られなかったが、それは商店街側の姿勢を知っているからなのだろう。株主と蓮とで、見る視点は随分と変わってしまうものだ。


「まあ、この第一営業部の業績の足を引っ張ってるのが、我らがてくてくロードというのは、いささか恥ずかしいですね」

「おい、勝手に「我らが」とか、仲間にすんなよ」


 悪態をつく蓮をよそに、安里はニヤリと笑った。


「ちょっとばかし、小突きましょうか。あんまり舐められるのも、よろしくないのですよ、この業界は」

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