14-ⅩⅨ ~復活のトゥルーブラッド~
安里探偵事務所に戻って来た愛たちは、目を丸くしていた。
戸締りをちゃんとしていたはずの事務所に、人がいたのだ。そしてそれは、愛たちの見知った顔だった。
「――――――あなたは……!」
「やぁ、お帰りなさい。ちょっとお邪魔しているヨ?」
コーヒーを啜る、スーツを着たナイスエルダーの男。明らかに日本人ではない、何なら人間ではないと感じられるほどに白い肌。己の象徴である黒いマントを図々しくも事務所のコート掛けに掛けて、優雅に安里の席に座っている男。
真の名すら知られていない、吸血鬼の真祖。トゥルー・ブラッドと呼ばれる異形は、通称トゥルブラと呼ばれていた。
「いやぁ、大変なことになってしまったネェ。私もついさっき復活したばっかりなんだけど、巨大怪獣が現れたというじゃないカ! 町の人たちも避難してしまったし、まだ日も高いしで私もあまり積極的には動けなくてネ。こうやって陽の光を避けつつ、君たちの帰りを待っていたわけだヨ。なんで君たちの根城を知っているかって? 簡単サ。私の分身である蝙蝠から君たちが街を守るため怪獣と戦おうとしていることを聞いてネ、せっかくだからこの真祖たる私の力も貸してあげようと参上したわけだヨ! いやぁ、感謝されても困っちゃうけどネェ! ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ…………………………あの、聞いてる?」
なんだか随分、一人で喋ってるなと、トゥルブラはふと気が付いた。恐る恐る愛たちの方を見やると、彼女たちはもう動き出している。
「ギザナリアさんたちの戦況とデータをリアルタイムで共有しますね」
「とりあえず、アイツのところに最初に行くのはボーグマン・ギガントだけか」
「その方がいいでしょうね。下手に人数多くしていくと、逆に動きにくい。遠隔操縦にして、事務所で僕らはギリギリまで待機しましょう」
「いざというときのために、その、ボーグマン・ギガント? とやらに、三角形のオブジェクトか、マークを付けておいてくれ。そうすれば、全員一気に移動できる」
トゥルブラが陣取っている安里の所長デスクの手前。応接用のスペースで、みんな固まって熱心に会議を始めていた。
「……え。あの、ちょっと?」
「あの蟲忍衆はどうなる? 来るのか?」
「葉金さんの事ですから、必ず来ますよ」
「蓮さん、多分体温すっごく高いですよね。あんなくしゃみするくらいだし……」
「となると、冷却装備をボーグマン・ギガントに付けた方がよさそうですね」
「……あの怪獣が丸ごと蓮とも思えん。どこかに本体がいそうな気もするが……」
「あの! 話! 聞いてヨ!? ネェ!?」
トゥルブラがたまらず話しかけるが、4人と1機は全く意にも介さなかった。
******
トゥルブラの姿を見たとたん、愛たちの頭はかっと血が昇った。愛は夜刀神刀を構えそうになったし、エイミーは竜人へと変貌しようとする。
だが、それを手で制したのは、安里だった。
「安里さ……」
声を上げようとした愛を、安里は指を口に当てて止める。
(お静かに)
アイコンタクトで、トゥルブラの方を見やるように促す。
「――――――町の人たちも避難してしまったし、まだ日も高いしで私もあまり積極的には動けなくてネ。こうやって陽の光を避けつつ、君たちの帰りを待っていたわけだヨ。なんで君たちの根城を知っているかって? 簡単サ――――――」
こちらの方を気にもせず、トゥルブラはペラペラと喋っている。
(……どうするんですか?)
(ほっときましょう。時間もないですからね)
(いいのか!?)
(この手の人(?)には、シカトが効くと見ました)
全員で頷き、てきぱきと作戦会議の準備を始めたわけである。
実際、シカト作戦は効果覿面だった。
「ネェ――――――! 聞いてってば! ネェ!」
「ギザナリアさんが参加したことで、3人の戦力は安定していますね。町との距離も、わずかながらですが空いています」
「あの女、そんなに強いのか?」
「単純なパワーだけなら、カーネルよりも上ですからね。蓮さんも弱体化しているし、吹っ飛ばすくらいは可能でしょうし」
「吸血鬼の、真祖ダヨ!? 戦力に組み込めば、かなり有利になるんじゃないかと思うんだけど! どう!?」
「ボーグマン・ギガントを動かすのに、調整込みでもそんなに時間をかけられないですから……遅くとも、あと10分後には出撃しましょうか」
「ちょっと! ちょっとってば! ……無視を、するナァアアアア!」
トゥルブラはすさまじいプレッシャーを放つ。事務所内に吹き荒れた突風で書類などが吹き飛ぶが、それでも愛たちはトゥルブラに、一瞥もくれない。
「……グぬぬぬぬぬ……!」
トゥルブラは歯を軋ませて唸る。
(……こうも頑なに、このトゥルブラを無視するとは!)
今まであらゆる生物の上位として君臨してきた彼にとって、無視されるということは今までにない経験だ。それも、人間相手に。今まではむしろ、彼の方が襲い来るエクソシストを無視してきたというのに。
(……力では、この状況は覆らない。となれば……やはり……)
こんな時、どうしたらよいのかは、彼にもわかっている。
ふぅ、と長く息を吐く。上位種のプライドを脱ぎ捨てるには、必要な時間だった。
そして。
トゥルブラは愛たちの方へと、頭を向けて、床へと手を突いた。
「――――――すいませんっしたぁああああああああああああああああ!」
先程の突風と同じくらいの声量で、吸血鬼の真祖は土下座した。
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