13-ⅩⅦ ~規格外すぎるお爺さま~

「お爺さま。こちら、私の友人です」

「おお、良く来てくれたのう。いつも孫がお世話になっております」


 十華に連れられた愛たちは、彼女の祖父に挨拶に来ていた。このパーティーの主催者である十華の祖父は、3階建ての屋敷の最上階にいた。御年80歳という話だったが、背筋はピンとしている――――――それどころか、格好がいささかちょっと変。

 いくら暖房が効いている部屋の中とはいえ、洋館の中でアロハシャツとハーフパンツという、奇抜な格好である。


「十華の祖父の、鳳之介おおとりのすけといいます」

「ど、どうも。立花です」

「十華の友達とは、嬉しいのう。この子はあまり学校のことは話さないから」

「もう、お爺さまったら……!」

「これ、来てくれたお礼じゃ。少ないが」


 そう言い、鳳之介は愛たちに茶色の封筒を渡す。ずっしり重い封筒の中身を少し覗くと、その中にはざっと200万円が入っていた。なんでわかるか? 百万円の帯封が2つ見えたからである。


 当然、普通の一般家庭の女子高生である愛や絵里には、縁もゆかりもない代物であった。一応元皇族のエイミーだけは、「ほう、太っ腹だな」と呟いていたが。


「にひゃく……っ!?」

「何、ちょっと早いがお年玉よ」

「お爺さまっ! ステイっ!」


 十華はちょっと青ざめている2人とエイミーから、封筒を取り上げた。そして、鳳之介に3つの封筒を突き返す。


「そんなにポンポン大金を渡したらダメだって、いつも言ってるでしょ!?」

「いいじゃないか。別に、あれくらいちょっとした小遣いよ?」

「そうやって人の金銭感覚を狂わせてしまうから、お友達を呼びづらいんですっ!」


 しょんぼりとする鳳之介にため息をつきながら、十華は愛たちを見やった。あまりにも不意打ちの金の重さに、庶民2人は放心状態になっている。


「――――――ごめんなさいね。びっくりしたでしょ?」

「……私のバイト代、丸2年分……」


 安里探偵事務所の毎月の給料は、おおよそ8万円ほど。愛の仕事量からすると、もうちょっともらえても良かったと思うのだが――――――。


「お、この点心も美味しそうですね。持って帰りましょう」

「パスタ入れるわ。タッパー、こっちにもちょうだい」


 肝心の雇い主が会場内で料理をせこくせしめているなど、愛は知る由もなかった。


「ほら、しっかりしなさい! もうお金はないから!」

「……はっ!」


 十華に頬をぺしぺしと叩かれ、意識が戻った愛は、きょろきょろと周りを見回した。そこには、優雅な格好をした人たちが談笑している。


「……あれ、にひゃくまん……」

「いつまでお金の重みに引きずられてるのよ……」

「いやまあ、いきなりあんな金額をポンと渡されたら、そうもなるっスよ」


 とりあえず4人でテーブルに着き、周囲を見回す。テレビで見たことのある政治家や会社の社長ばかり。先日徒歩市の大手食品会社の社長とも会ったことがあったが、それとはレベルがはるかに違う。


 本当に、大物が集まるパーティーだ。こんなところ、しがない町のお弁当屋である自分がいていいのだろうか……。


「やぁ、お嬢さん」

「あ、どうも。ご無沙汰しておりますわ」

「……っ!?


 周りをきょろきょろしていると、十華に話しかけてきたものがいた。年配の男性なのだが、その顔は愛も良ーく知っている。テレビにしょっちゅう出ている、大御所俳優だ。


「今日は学校の制服なんだね。いつも、こういうパーティーではドレスじゃないか」

「友人もいるので。学生には、学生服が正装ですわ」

「友人。ははあ、なるほどねえ」


 大御所芸能人はまじまじと愛たちを見やり、にこやかに笑う。握手を交わすと、彼はそのまま去って行ってしまった。


「……あ、お父さんがファンだから、サインもらえばよかったッス!」

「後でもらえばいいわよ。時間はいくらでもあるから」


 がっくり肩を落とす絵里に対し、十華はさすがというか、場慣れしている。エイミーもこういう場に慣れているのか、当たり前のように料理を取っていた。


「お、美味いなコレ」

「エイミーさん、本当?」

「愛も食ってみろ、ほら、この点心とか」

「あ、本当だ! 美味しい!」


 やはりお弁当屋の娘なのか、料理になると、さっきまでぼうっとしていた顔色が変わる。エイミーもバイトしているからか、急に料理の話で盛り上がり始める。「このお肉、どうやって焼いてるんだろう?」「シェフに厨房見せてもらえないかな?」などと話すのが、十華の耳に届いて、彼女は困ったように笑うしかなかった。


「まったく……本命はまだ来てないのに、はしゃいじゃうんだから……」

「そうッスね。アサラーム監督は、いつごろ来るんスか?」

「そうねえ。パーティーが始まる前には、来ると思うんだけど……」


 まだ16時30分。仮に遅くなるとしても、1時間もすればやってくるだろう。


「しかし、ある意味場違いな気もするッスけど……」

「お爺さまがどこからか、私と愛ちゃんの映画のことを聞いたらしくてね。だったら、その監督を呼んでやろう! ってことで、呼んだらしいわ」


 しかし、呼ぶ鳳之介もそうだが、それで来るアサラーム監督も、である。一体、お爺さまはどれだけ積んだのだろうか? 


十華は、想像するのも怖かった。

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