13-ⅩⅥ ~平等院家クリスマスパーティー~

 クリスマスイブと言っても、所詮は平日。しかも今日は金曜日。

 雪は昨日と変わらず、降り続けている。それは、学校が終わっても変わらなかった。


「あーら、立花さん! 奇遇ね!? 送ってあげてもよくってよ?」

「ありがとう、平等院さん」


 校門前で待っていた体の十華の車に乗る。「友達を連れてきていいよ」と言われていたので、エイミーと絵里も一緒だ。車はリムジンカーで広いので、3人入っても余裕である。


「うう、緊張してきたッス……」

「ようするに会食だろ? 私は慣れたもんだよ」

「エイミーさんはそうかもしんないッスけど……普通の家の人はそんな事ないんスよ。ねえ、愛ちゃん?」

「そ、そうだね……」


 おどおどしながら縮こまる絵里に触発されて、愛もなんだか緊張してきた。これから彼女たちが向かうのは、徒歩市のなかでもかなり上流階級の人が集まるパーティーらしい。


「学生の正装は制服。だから学校帰りに、直接車で送るわね」


 そういう訳で十華の車に乗り、走ること2時間。

 徒歩市郊外にある、大きな館に彼女たちはやって来たのだ。


「うわあ……! アレ、町の市長ッスよね!?」

「ほう。結構な規模だな。クレセンタ帝国賓客パーティーには劣るが」


 エイミーが無駄に張り合って腕を組んでふんふんと頷く横で、絵里は興奮を隠せないでいた。


「え、ちょ! あれ、官房長官!」

「おじいさまの友人らしいわよ」


 現在の与党の官房長官――――――次期首相候補とも呼ばれる人物も、このパーティー会場に来ていた。どうあっても、ただの地方都市の市議のコネではない。


(……安里さんのお父さんの事とかも、もしかしたら知ってるかも)


 そんなことを、ふと考えたからか。


(……あれ?)

「愛、どうした?」


 愛は参加している客人の中に、見知った顔がいるように感じた。それは、エイミーでも絵里でも、ましてや十華でもない。

 愛はすたすたと歩いて行ってしまった姿を追いかけたが……その姿は消えてしまった。


(……今、みたいな人がいた気がするんだけどな?)


 気になりはしたが、「愛!」と呼ぶ声に、彼女はそのまま戻っていった。

 これから、主催者である十華の祖父に挨拶に行かなければならなかったからだ。


******


「……いやー、危ない危ない。気づかれるところでした」

「無銭飲食なんだから、バレると厄介よ」


 変装し、パーティーの賓客に成りすました安里修一と朱部純は、自分の正体に気付きかけた少女を振り切ったことにほっとしていた。


「愛さんは霊能力がありますからねえ。姿かたちを変えても、第六感か何かで気づかれるかもしれない」

「……彼女、竹刀袋を持ってきてないわね」

「ということは……お目付け役の幽霊さんは、いないという事ですね」


 2人は遠巻きに愛の姿を見やると、彼女の背中はがら空きだった。霧崎夜道がいたら、もしかすれば自分たちが来ていることに感づかれてしまう可能性もあったが――――――。いないなら、大丈夫な気がする。


「じゃあ、さっさと受付を済ませてしまいましょう。ただ飯、ただ飯」


 安里も朱部も本来、いちいち料理の味を気にしたりはしない性格だったが、愛が事務所に来てからすっかり舌が肥えてしまった。お陰で、質素なカップ麺でクリスマスを過ごすのは、何とも味気なく感じてしまっている。

 安里と朱部は受付に着くと、にこやかに受付の女性に微笑んだ。


「いらっしゃいませ。紹介状はお持ちですか?」

「すみません、忘れてしまいまして……」

「あら。お名前、教えていただけます?」

「はい」


 安里は困ったように笑いながら、受付の名簿が乗っているテーブルにこっそりと触れる。テーブルから「同化侵食」を進めて、名簿と「同化」する。そして、名簿の名前を、少しずつ書き換えていった。ちなみに、テーブルに触れてから名簿を改ざんするまで、1秒もかかっていない。


「――――――『吉田健太よしだけんた』と、『蒼峰玉代あおみねたまよ』です」

「吉田様、蒼峰様、ですね。……はい。オーケーです。こちらへどうぞ」


 受付をするりと抜けると、安里たちは館の中へと入っていった。


「……今の名前、何?」

「適当に考えました。……ホントですよ?」


 にこにこと笑いながら、安里と朱部はパーティーの会場に入る。現在時刻は16時。パーティーの開始は18時だったのだが、それでも結構人は集まっている。


「おおー。警視総監はじめ、官公庁の大物が沢山。経営者の方も多数いるようですね。そして、警備も厳重と」


 平日の忙しい時間だろうに、どうにか時間を捻出したんだろうか。彼らの元働く下っ端は、今頃必死に働いているだろうに。いいご身分で。


「……外国の人も、結構いるのね」

「そうみたいですねえ。国際色豊かでいいじゃないですか。お陰で、ほら」


 安里が朱部に促したのは、パーティー会場に設置されている食事である。世界各国のゲストがいるからか、料理の国際色も非常に豊かだった。和食、中華、フランス料理。一流シェフが、せっせと作っている。


「いただかなくては損ですよ。ほら、もう食べていいみたいですし」

「……最近、食べてばっかりね。この小説」


 安里たちは食事をさらにとっていく。時間も早いからか、並んでいる人も少ない。これはチャンスだ。


「せっかくなので、夢依や蓮さんにもお土産にしましょうか」

「それ、後でバレない?」

「愛さんに見つからないように食べれば平気ですよ」


 安里は懐からタッパーを取り出すと、人目を盗んで料理を入れ始める。

 収納場所は、もちろん自分の体内。四次元ポケットみたいなものなので、バレるわけがなかった。

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