14-Ⅶ ~(未)覚醒の大怪獣~
「……あれは……!?」
蛹の中から顕れた巨大生物の姿に、自衛隊員たちは愕然とした。
中に何かいる、というのは最初からわかっていた。が、ここまでのものがいると想像できている者は、誰一人としていなかった。
高温を発し、蛹を
赤いとげとげした角に、獣の
その姿は、まごうことなき「怪獣」であった。だが、逞しい腕と足のバランスは、「巨人」のような印象も、その姿を見る者に植え付けた。
一般的な二足歩行の怪獣のイメージとしては、腕は短く、足が太く逞しいものが多い。本来は四足歩行だったものが、二足歩行に進化するにつれて前足が退化していったような推測ができるのだが。
現在現れた怪獣は、手足の部分の発達度合いが、ほぼ人間と一緒であった。
「……あれが、正体か……!」
怪獣を双眼鏡から眺めていた1等陸佐は、驚きを隠せずにいた。作戦本部からドローンで見えてはいるのだが、肉眼で視認できる距離であるならば、直接見た方がいい。
怪獣は蛹の融け落ちた地点から、依然として動かなかった。ただただ、その巨体を晒しているだけである。
「……まだ、攻撃は可能か……?」
「いかがいたしますか?」
「……迫撃砲だ。戦車では近すぎる。中距離からの攻撃に切り替えて攻撃せよ」
自衛隊が次にとった作戦は、市街に設置した迫撃砲からの砲撃。戦車の攻撃よりも制度は少し劣るが、距離が離れている分、部隊の退避もしやすい。
元々、ある程度の段階で迫撃砲攻撃に切り替える予定だったので、準備していたのも幸いだった。
「――――――攻撃、開始!」
1等陸佐の命令の下、迅速に攻撃作戦は開始された。地面を揺らす轟音と共に、砲弾は巨大生物に次々と着弾する。
「どうだ!?」
「……ダメです、やはり効いている様子はありません!」
「……くそ。硬いのは蛹だけかと思ったが……本体もか!」
怪獣に動きはない。それは幸いだが、一切の攻撃が通じていないというのは問題だ。損傷する様子もないのであれば、こちらの攻撃はただただ消耗しているだけである。
「……撃ち方、やめ!」
「どうされます。航空自衛隊に要請して、爆撃に切り替えますか」
「いや。恐らく爆撃でもダメだろう。物理攻撃では火力が足りん。もっと何か、別の切り口で――――――」
1等陸佐がそう判断したとき、突如無線から隊員が叫んだ。
『――――――怪獣に動きあり!』
「何!?」
1等陸佐は慌てて双眼鏡を覗く。本部にいた面々も、全員が画面を見やった。
怪獣の頭が、前後に揺れた。外骨格に覆われた口から、吐息が漏れる。
自衛隊員は見た。漏れたであろう吐息の下で、木々が燃えるのを。
つまりはそれだけ、高温の息であるということだ。
「……な、何をする気だ……!?」
「……ハッ……、ハッ……!!」
1等陸佐たちは怪獣が何をしようとしているのか、わからなかった。だが、怪獣の頭の前後の揺れは、どんどん大きく、小刻みになっていく。
とうとう怪獣が頭を揺らし、のけぞり出したところで、全員が何をするのかわかった。
「……! 総員、退避――――――っ!」
市街地からもさらに遠くへ。そうでなければ、全員が焼け死ぬことになる。何しろ、あの巨体で、吐息が超高温だ。被害が尋常ではない。
――――――例えそれが、ただのくしゃみであったとしてもだ。
「ハ……ハ……ハ……っ!」
怪獣の頭ののけぞりはとうとう頂点へと達し、今まで一番、深く息を吸う。もう、時間の問題だ。
「すぐに、地下へ逃げろ――――――っ!!」
1等陸佐含む陸上自衛隊の幹部たちは、慌てて建物の地下へと逃げ込む。最後の一人が逃げ込み、シャッターを下ろせたのは、奇跡に近いだろう。
「―――ブァアアアーーーーーックショォォォーーーーーーーン!!」
けたたましい咆哮と共に、超高温の熱波が、怪獣の口から勢いよく放たれた。瞬間、怪獣の周囲に生い茂っていた植物は、一斉に燃え盛る。
その熱波は音速の勢いのまま、市街地を襲った。残っていた車などは熱で溶けながら吹き飛び、町に落ちていたゴミなどは一瞬で燃え、炭と化していた。
「うわあああ―――――――――――っ!!」
戦車で急速退避していた隊員たちも、怪獣より放たれる超高温のくしゃみの余波を、もろに食らっていた。
幸いだったのは戦車はいずれも耐火性が高く、中にいたことで助かった点だろう。外に出ていたら、間違いなく焼け死んでいたはずだ。
だが、くしゃみによる影響はそれだけではない。強力な衝撃波もまとめて飛んできたため、戦車の何台かは吹き飛ばされてしまった。
横転したり、ひっくり返ったりしている戦車もあったが、それだけであった。超高温の熱波もあっという間に過ぎていったのか、周囲の気温は精々40℃くらいにまで下がる。
「……大丈夫、そうか?」
本部の地下に避難していた1等陸佐は、恐る恐る上に出て驚愕した。
徒歩市のビル群が、少なからず融解している。その影響は、町の中心部に行けば行くほど大きかった。陸上自衛隊の作戦本部の近くにあった徒歩市のセンタータワーは、てっぺんが溶けてへにゃりと曲がっている。崩れ落ちるのも時間の問題だった。
「……バケモノめ!」
1等陸佐は怪獣のいる方角を睨みつける。怪獣の目には、まだ光すら宿っていなかった。
つまりは、あの怪獣は寝ながらくしゃみをしただけなのである。
それだけで、陸上自衛隊では手も足も出ないことを、嫌というほど痛感させられたのだ。
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