14-Ⅵ ~自衛隊による攻撃開始~
「――――――住民の避難は完了したか。予定より早かったな」
陸上自衛隊1等陸佐は、部下からの報告と腕時計を見比べて呟いた。
想定では、正午を多少過ぎることも考えていたのだが。どうやら徒歩市の住民は、必要以上にパニックにはならなかったらしい。
(……さすがは、徒歩市だな。怪人・怪獣事件が数多く報告されている街な事だけはある)
悪の組織の連合隊「カーネル
「……1等陸佐。いかがいたしますか」
「作戦の準備は?」
「すでに整っております」
「……なら、幕僚長に連絡してくれ。一刻も早く、町に戻れるようにする、とな」
「了解であります」
部下は敬礼し、作戦本部を去る。1等陸佐はふう、と息を洩らした。
(……それにしても、この作戦……)
彼にはこの作戦において、懸念している事項がある。それは、避難誘導をしていた隊員が聞いたという、噂であった。
――――――あの巨大生物は、人間である。
そんなことを言っている一定数の避難民がいたらしい。
にわかには信じられない話だ。事実、1等陸佐も、たかが噂だと結論付けたが、散見されている、ということに違和感を感じる。
しかし、首相の説明以上には自衛隊も聞いていない。専門家の意見にも、そんな可能性は一切言及されていなかった。
避難誘導中に、上層部に噂の報告はしたものの、「こちらもそんな調査結果」の一言だった。なので調査した
……杞憂にすぎないか。1等陸佐は、そう結論付ける。そうする他ない。専門家の意見と一般市民の噂。どちらが信ぴょう性があるかは、比較するまでもなかった。
「幕僚長への連絡、完了いたしました!」
「よし。首相より攻撃命令が着き次第、攻撃を開始する!」
1等陸佐は、座っていたパイプ椅子から、勢いよく立ち上がった。
******
陸上自衛隊による攻撃は、12時20分より行われた。
用意されていたのは、戦車50門。右翼、左翼に分かれて、集中砲火を浴びせる。敵である巨大生物は、発生を確認されてから一切移動することがなかったのは幸いだ。もし移動していたら、陸自だけでは対応できない。
航空自衛隊による爆撃も余儀なくされただろう。遠くない過去、沖縄に怪獣が現れた際には、米軍の爆撃機が派遣されていた。結果、大規模でないものの沖縄の町には被害が出た。徒歩市も二の舞にはできない。
「……攻撃、開始!」
1等陸佐の号令共に、砲門が一斉に火を噴いた。激しい爆発が、巨大生物を覆う。爆発の轟音に、訓練をしていない者は鼓膜をやられてしまうだろう。それは、巨大生物のいると☆郊外の山から遠く離れた、都市部のビル群も揺れて響くほどの振動と衝撃だ。
戦車による集中砲撃は、おおよそ20分。砲撃を終えた後も、しばらく砲撃の衝撃が、余韻となって空気が震えるように感じる。
「……どうだ?」
巨大生物から距離を取った戦車隊の一人が、双眼鏡から様子をうかがう。
もうもうと立ち込める煙は、巨大生物の姿を覆い隠してしまう。その様子を知ることは、遠方からでは難しかった。
煙が晴れるまでにもわずかな時間を要したが、やがて煙は晴れ、中にあったものが自衛隊員たちの目に映る。
ぎらりと赤い光沢をたたえる、巨大生物の蛹が、そこには依然として存在していた。
「……傷一つ、ついていないだと……!?」
専門家の意見で「蛹のようなものである」という報告は共有されている。生物としてのサイズ、直接現場を調査した見解上、相当の強度を持っていることは想定されていたが。
「20分も榴弾の雨を受けて、ビクともしないのか……!」
戦車から様子を伺っていた隊員は舌打ちした。今回の作戦、1体の敵に集中攻撃を浴びせるなど、そうそうある事件ではない。しかも使っているのは、最新式の戦車である。それが、こうも無傷だと、こちらの心が傷ついてしまう。
「クソ……とんだバケモノだぞ、ありゃあ!」
隊員が悪態をつくと、にわかに隊の無線が騒がしくなる。
『……巨大生物に動きあり! 点滅している!』
「……何!?」
******
最初は、ゆっくりとした点滅だった。それが何を意味しているのか、その場にいた誰もがわからなかった。
点滅は徐々に頻度を増していく。何かしらのアクションが起こるということは、間違いない。
次の変化は、すぐに訪れた。
『……気温が、上昇している……!?』
いくら戦車による砲撃を行った後とはいえ、現在は12月。徒歩市の気温は精々、よほど高くても15℃~20℃ほどだろう。
だが、現在の気温は40℃にまで達していた。これは、爆発によるものではない。というか、気温を測定しているのは爆心地から離れた戦車隊である。
「……奴を中心に、気温が上がっている……! 奴め、発熱しているのか……!?」
急激な気温の上昇。戦車隊の付近で40℃なのだから、中心地はいかほどのものか。
気温の上昇はぐんぐんと続き、やがて戦車隊の付近では気温が80℃にも昇り出す。
「ううう……暑い……!」
「戦車の中に入れ! まだマシだ! 外に出たら、のどを焼かれるぞ!」
偵察していた隊員たちは戦車の中に逃れ、更に戦車隊の前線も下がっていった。郊外から都心部付近まで下がったところで、ようやく気温は30℃ほどに収まった。
「奴は、どうなった!?」
「……あ! ひょ、表面が、溶けている……!」
紅羽蓮を覆い包む蛹は、自身から発せられた超高温により、ドロドロと溶け出していた。まるで真紅の蝋のように、溶け落ちた蛹の表面はしたたり落ちていく。
そして。
ドロドロと溶けていく蛹の中から、赤くとげとげした頭部が、とうとう姿を顕した。
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