15-ⅩⅩⅩⅩ ~地獄から帰ってきた男~
「……は?」
地獄の門へとサキュバス・アイを引きずり落とし、勝利を確信していた神たちは、完全に油断していた。
そのため、地獄の門の吸い込みも収まり、ゆっくりと入り口が閉じていく。確信しているからこそ、地獄の門に背を向けて、黒焦げになった
なので、閉じかけた地獄の門を吹き飛ばして
「――――――えっ」
しかも、運の悪いことに。
吹き飛んできた巨大生物は、はるか上空から勢いよく落下してくる。吹き飛んできたままの、お尻を下にした状態で。
そして、目測上の落下地点は、神の真上。
「う、うわ――――――」
神に付随して、メタトロンの治療を施していた天使たちも、一瞬の反応が遅れた。逃げることができたのは、本当にわずかな数だけ。
残りの天使と、半分くらい傷が言えていたメタトロン、そして、神は。
強烈な地響きを立てて地面へと尻餅をつくサキュバス・アイの尻に、もろとも押しつぶされた。
******
「……なーんだ、こりゃ」
首をグキグキとひねりながら、蓮は尻餅をついた巨大生物を空中で見やっていた。
地獄から跳びあがったときに、同時に落ちてきた巨大生物。正体が何かもわからなかったが、とりあえず邪魔だったので、もろとも地上へと運んできてしまった。
それが良かったのかどうかはわからないが、とにかく地上に出た瞬間、さっきまで眠っていた蓮には情報量が多すぎる光景が広がっている。思わず、思考停止してしまった。
真っ赤な空に、空飛ぶなんか細い女のような奴。それと闘っている、金ピカの羽の女。とてもじゃないが、さっきまで自分のいた普通の街並みとは違うということだけはわかる。
「……ホントに何があったんだよ」
ひとまず、近くのビルらしき建物の屋上に着地する。すると、ボーグマンの真っ黒になっていた目の部分が、チカチカと赤く光り始めた。
『……し、もしもし、もしもーし』
「……安里か?」
『あ、蓮さん? やっぱり貴方でしたか』
ボーグマンから聞こえてきたのは、聞きなれた安里修一の声。聞こえた瞬間に、蓮は苦々しい顔をした。
「テメー、何がどうなってんだよ。わかるように説明しろや」
『是非そうしたいので、合流したいんですけどいいです? 今から向かいますから』
「おう。早く来い」
会話が途切れ、数分もしないうちに、巨大なドラゴンが蓮の元へと飛んできた。そのドラゴンの正体を知っている蓮は、さらに苦々しい顔をする。
「……なーんでテメーもいるんだよ?」
「私だけじゃないぞ?」
エイミーの背中から、愛たちもひょっこりと顔を出す。特に愛が出てきたとき、蓮の目は丸くなった。
「お前もかよ……わぷっ!?」
「蓮さんっ!」
愛はエイミーから降りるなり、蓮に飛びつく。茫然としていたところに完全に不意打ちであったため、蓮はよけることができなかった。
「わ、バカ、おまっ! みんな見てるだろ!?」
「良かった、良かった、無事で……!!」
涙目で抱き着いてくる恋人に、蓮は顔を真っ赤にしつつも、かといって無理に引きはがしたりはしない。
「無事でって……まあ、確かに悪魔とかいう連中に絡まれたりしたけど……」
「あ、絡まれはしたんですね。やっぱり」
「まあ、変な奴らだったけど、話したら色々教えてくれたぞ。それで出られたし」
「出られたって……地獄の底まで落ちたんですよね?」
「ジャンプしたら出れた。で、アイツも落ちてきたから、一緒に出てきちまった」
蓮が指さす先にいるのは、尻餅状態からようやく回復して起き上がった、サキュバス・アイがいる。その場にいた全員、ポカンとするほかない。
「……あんなデカいのを、一緒に?」
「おう」
「両手塞がってましたよね? ボーグマンと、この3人で」
「おう」
「……どうやって?」
「どうって……首を、こう、クイって」
先ほどの動きを蓮は再現するが、どう考えたって蓮以外の人間に再現は不可能だ。
「……つくづく、規格外ですね。蓮殿は」
「そうかぁ?」
「「「「そうだよ」」」」
全員にツッコまれ、蓮はぼりぼりと頭を掻くほかない。
ちなみにこの間もずっと、愛は蓮に抱き着いたままだった。
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