13-ⅩⅩⅩⅧ ~※これで弱体化してます。~

 理性も失っている状態であるという蓮に対する除霊方法は、一瞬の虚を突き、無理やり引っぺがすというものだった。

 かなり強引なやり方だが、そもそも憑りつかれている時点で蓮の魂と肉体のバランスは不安定である。ならば、無理やり引きはがすのも、さほど現実味のない話ではない。

 そして、蓮に対して有効な足止めの手段を知っている葉金がいたことも、この作戦の追い風となっていた。


 事実、蓮と3人は肉薄し、葉金は大怨霊モテヘン念を、蓮の身体からわずかだが引きずり出すことができているのだが――――――。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「ぐっ――――――!」


 葉金はムカデニンジャーのマスクの下で、苦悶の表情を浮かべていた。想像以上に、モテヘン念の抵抗力が強い。今まで自分がこいつを鎮めてきたのは壺に封じられていたこともあり、こうして直接対峙したことはなかったが、どこか侮っている部分があったか。彼は、心の中で自分に舌打ちした。

 そして、モテヘン念よりも押さえ込まなければならないものは、依然抵抗を続けていた。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」

「ぐ、ううううっ! 暴れるな、このっ!」

「……うっ!」


 上半身を覆いかぶさるように押さえるエイミーは暴れる蓮にまだしがみつくことができていたが、下半身を押さえていたクロムは力任せの蓮に振りほどかれてしまう。


 そして、よろめいた彼のわき腹に、暴れる蓮の蹴りが入ってしまった。


「――――――がはぁっ!」


 流れ弾のような蹴りだったが、破壊の権化に等しい力を持つ蓮の蹴り。

 寝ぼけて邪神の頭をも粉砕する男の蹴りは、それだけで必殺の破壊力を誇る。


 吹き飛ばされたクロムは、口から血を吐き、声も出せずに呻き、地面に倒れ伏した。恐らく今の一撃で、内臓と肋骨をやられていることは間違いなかった。


「クロム特級師!」

「マズい……うおおおっ!?」


 下半身――――――足が解放されたことで、蓮は足に力を込める。押さえつけられていた上半身が、足の筋力と腹筋・背筋の力で、みるみると浮き上がっていった。


「……バカな!」

「この、筋肉オバケめ……!」


 もちろん、蓮の上に乗っているエイミーと葉金も、一緒に上に浮く。

 そして、浮いた腕は地に押し付けられている時よりも、はるかに自由に動く。

 右の拳を自分にしがみつくエイミーの背中に振り下ろし、左の手で幽体離脱を試みる葉金の腕を掴む。


「「ぐあああああああっ!」」


 ほぼ同時にエイミーは叩き落され、葉金の腕は握り潰される。


 そして、悲鳴と同時に、2人を蓮は吹き飛ばした。


「エイミーさん! 葉金さん!」


 吹き飛ばされた2人は、愛たちのいる方へと転がってくる。


「ぐ……!」

「うう……!」


 2人とも、意識はあるが、動くことができない状態だった。パッと愛が蓮の方を見やると。


「……え?」


 目の前の光景に、愛は思わず声が漏れてしまった。


 ――――――背中から、なんか生えている。


 それは触手のような……いや、もっと、硬さがあるように見える。どちらかというと、骨の露出と言った方がいいだろうか。肋骨のようなものが、蓮の背中から生えていた。先ほど葉金とエイミーを吹き飛ばしたのも、この背中の触手みたいな何かだ。


「……マズい、いよいよもって、蓮殿がモテヘン念と同調を始めている……ぐっ!」


 葉金は立ち上がろうとして、利き腕が折れている苦痛に顔をしかめた。


「葉金さん!?」

「……さっき、腕を握られて……。それだけで、これとは……!」


 そう言いながら、葉金は蟲霊のムカデを呼び寄せた。そして、それをぐるぐると、折れた右腕に巻き付かせる。ミシミシという嫌な音を立てながら、葉金は右の拳を握った。


「……よし、これでまだできる。もう一度……」

「む、無茶ですよ! 折れた腕を無理やり動かせるようにしただけじゃないですか!」

「しかし、蓮殿に幽体離脱の術を試みるとなると、もうこれしか……!」


 幽体離脱の術は、相手に直接触れる必要のある術だ。強力な力で蓮が抵抗することを考えると、それができるのは葉金しかいない。

 しかし、それすらも一瞬悪臭で不意を突き、かつ3人がかりで思いきり押さえつけないとできない芸当。そして、その内の2人は、すでに倒れている。


 万事休す。そんな言葉が、今の状況にはふさわしい。


「オ……オオオオオ……!」


 さらに間の悪いことに、蓮の背中の触手の本数も増えてきた。全部で6本。それらがすべてうねうねと動いているが、どれも鉱物以上の硬度という代物。葉金の纏っていた装甲の爪が砕けているのが、その証だ。


「――――――グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」


 蓮が雄たけびを上げるとともに、背中の触手が縦横無尽に動き出す。それは周囲の岩肌を貫き、ひびわり、崩壊させた。


 咆哮の衝撃波と合わさった触手の蹂躙は、蓮の周囲一帯を吹き飛ばす。


「きゃあああああああああああああああああっ!」


 ――――――それは、蓮の近くにいた愛たちも、もちろん例外ではなかった。

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