第13話 【クリスマス編】クリスマス超激戦! VS最強さん!(前編)

13-プロローグ ~荒魂鎮の儀式~

「「「――――――荒魂あらみたましずめの儀式?」」」


 カラオケボックスの個室内で、ジュースを飲む3人の少女の声がシンクロした。


「そ。毎年蟲忍衆が行っている儀式で、依頼人さんからもご指名が入ってるわけ」


 3人の少女に向かい合うように座っているのは、2人の女性。グラマラスなアメジストの髪と目の女と、黒髪でボーイッシュな女だ。飲んでいるのはお酒なので、少女たちよりも年上であることがうかがえる。


「――――――となれば、正統な蟲忍衆の後継たるお前たちの、重要な任務だよ」

「……正統……」


 その言葉に、3人の中で最も小柄な少女、安仁屋あにや明日香あすかはぐっと息を呑む。正統という言葉の重さを、小さな体で必死に受け止めていた。


「……なら、やるっきゃないわね! 燃えてきた!」

「私達最近アイドル仕事ばっかりで、蟲忍衆のお仕事全然できなかったものねえ」

「つーか、マジで忙しすぎるのよ。お陰で、翔くんと全然喋れてない……」


 3人の中でもっとも問題児である四宮しのみや詩織しおりの発言に、その場にいた全員が苦笑いした。こんなのでも、彼女たちは今をときめく人気アイドルグループ「ASHアッシュ」その人である。お陰でちょっと蟲忍衆の話をしようにも、人目を忍んでカラオケボックスに来なければいけないほどだ。


「ま、心配いらないわよ。当日は、お姉さんたちも一緒に行くから、ね?」

「特に詩織が、当日任務すっぽかさないか心配だからね」

「いくら何でもそんなことしないってば! 姉さんたち、心配性すぎ!」


 詩織がべっと舌を出す様に、姉貴分である露糸つゆいと萌音もねと、とび九十九つくもは肩をすくめてしまう。


「当日は、私が引っ張ってでも連れて行くから……心配しないで、2人とも」

「……頼んだよ、穂乃花」


 3人の残る一人、最も穏やかな誉田ほまれだ穂乃花ほのかに、九十九は言いながら、頼んだカクテルを呑む。


(……葉金兄の言う通り、これは骨が折れそうだなあ……)


 そんなことを思いながら、カシスオレンジの甘ったるさに目を細めた。


*****


 事の発端は、数日前の事。多々良たたら葉金はがねの元で居候している萌音と九十九に、葉金から任務が下された。


「詩織たちにこの任務を任せるから、お前ら着いていってやれ」


 そうして説明されたのが、この荒魂鎮の儀式である。


「……それはいいけど……これって、葉金にいが毎年やってた奴じゃないの?」

「そうなんだが、俺がやるわけにもいかん」


 萌音の疑問に、葉金はきっぱりと答えた。


 対妖怪、悪霊のスペシャリストである蟲忍衆は、この多々良葉金によって滅んでいる。そんな裏切り者である自分が、蟲忍衆としての仕事をするわけにはいかなかった。


「正統な蟲忍衆はアイツらだ。ならこういった依頼は、アイツらがやるべきだからな」

「……で、もしかしてだけどさ。この任務の説明も、私らにやれって?」

「そういうことだ」


 蟲忍衆を壊滅させる際、葉金は親同然の組織に反目した裏切り者として、詩織たち3人と戦った仲である。結果として詩織たちの用意した助っ人に敗北し、見逃される形で彼女たちの前から姿を消した――――――という風になっている。


「そんな手前、奴らにこの任務で俺の存在を勘繰られるわけにもいかん」

「そんなこと言って。詩織は知ってるじゃない。葉金兄が綴編高校がっこうの用務員として働いているってこと」

「アイツはそんな事、あまり気にせんからな。問題は、明日香と穂乃果の2人だ。あの2人に俺の所在がバレるのは、いささか面倒だからな」


 詩織に自分の居所がバレても問題ない理由。それは、幼少期からさほど彼女が、自分に依存をしていなかったからだ。事実、現在の彼女は紅羽蓮の弟であり、同級生である紅羽翔にぞっこんであり、葉金のことなどあまりに気にもかけていない。

 だが、飛鳥と穂乃果は葉金が忍術などを指導していたこともあり、甘えが抜けていないところがある。それに反目し戦った手前、もし再会すればどうなってしまうかわからない。


 なので、彼はASHの前に姿を現すのは、極力避けたいのだ。


*****


 ――――――そんなわけで、この任務を、姉貴分2人のところに舞い込んできた依頼として、現在3人の妹分に共有しているわけである。


「それで、日程は?」

師走しわすの24日。時刻は夜の0時ね」

「え、クリスマスイブじゃん!」


 詩織が怪訝な顔をするのも無理はない。世間ではクリスマスイブ、その翌日はクリスマス。ただのイエス・キリストの誕生日も、今や世界を代表するイベントの代表格である。


「そんな日取りだったら、絶対アイドルの仕事と被るでしょ!?」

「心配ない。予定はマネージャーさんに連絡とって、空けてもらってるから」

「抜け目ないねえ……で、どんな悪霊なわけ? 私たちが鎮める、荒魂ってのは」

「ああ。それなんだけどね……?」


 萌音は困ったように、腕を組みながら微笑んだ。彼女のニットの下からでも主張の

激しい胸が、下で腕を組まれたことでさらに強調される。


「――――――なんでも、毎年この時期になると暴れ出す、かなりの聞かん坊さんらしいわよ?」

「「「……はあ?」」」


 妹分3人が、同時に首を傾げる。

 正直、姉貴分2人も、葉金の説明だけではいまいちピンと来ていなかった。

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