16-ⅩⅩⅩⅩⅣ ~二ノ瀬才我とスフィアボール~

 二ノ瀬にのせ春奈はるなの弟である少年、二ノ瀬にのせ才我さいが。蓮が持っていた写真では幼さ残る幼稚園時代の写真であったが、目の前にいる少年は面影がありつつも、確かな成長を見せた姿だった。


 天竜ライカとしての彼は、大きな鎧を身にまとっていたらしい。弾け飛んだ破片を見るに、制服の中も鎧だったのだろう。蓮が蹴り飛ばしたのは、才我が纏っていた鎧部分だったようだ。道理で、蹴った感触がドラム缶みたいだと思った。


「まったく、ずいぶん探したんだぞ」

「……俺を探すために、こんなところまで来たのか?」

「そうだよ。仕事でな」


 少年らしい高い声を出しながら、才我は蓮を睨みつける。


「仕事?」

「頼まれたんだよ。……お前の姉ちゃんにな」

「……っ!!」


 姉ちゃん、という言葉を発した瞬間、才我のオーラが急激に高まる。


同時に、蓮の側頭部を、何かが掠めた。


「!」


 ぱっと振り向けば、会場の壁に丸い風穴が空いている。何かと思えば、穴から音速を超えた何かが飛び出してきた。何かが通り過ぎた後に、風切り音がしたのだ。


「あぶねっ」


 頭をかがめて躱すと、飛んできたものは才我の目の前で、ビタッと止まる。


 慣性などあざ笑うかのように急停止し浮遊していたのは、白く輝く球体だった。球体はまるで彼の指示を待つかのように、ゆっくりと彼の周囲を回り始める。


(……あれは……)


 あのでたらめな機動力は見覚えがある。天竜の鉄球だ。だが、今浮いているのは、重々しく黒かったとげ付きの鉄球ではなく、白く軽そうな光球。恐らくは、鉄球の中にあの光球が入っていたのだろう。それで、鉄球を変態的な軌道で動かしていたわけだ。


「……そいつが、お前のESPか」

「……嘘だ。……姉ちゃんが、俺を探すだって?」


 蓮の言葉などガン無視して、才我のオーラはどんどんと強まっていく。


「――――――そんなの、嘘だぁあぁあぁぁっ!!」


 高まったオーラとともに、才我の周りをまわっていた光球が、超スピードで蓮めがけて飛んでいく。


「……ちっ!」


 蓮は片手を突き出すと、飛んでくる光球を止めようとした。


 しかし。


 グンッ、と。蓮の手に当たる直前で、光球は舞台の下へと潜ってしまう。


「あん? ……うおっ!」


 蓮は咄嗟に身を仰け反らせた。後ろに身体を逸らした位置から、一直線に光球が飛び出す。躱していなければ、蓮の股間に直撃していただろう。

 そして蓮の顔の高さで急停止した光球は、そのまま蓮の顔面へと、急加速してぶち当たる。


「――――――あでっ」


 顔面に食らった衝撃は、さながらドッヂボールで顔面受けしてしまったような、そんな感じだ。この感覚も、小学校の体育の授業でドッヂボール大会をやって以来。蓮にとっては随分と久しい感覚である。


 ダメージ的な痛みというよりは、ぶつかってしまった衝撃で思わず「いてっ」と言ってしまうのに近い。


「……ってえ! 鼻血出てねえよな?」


 体勢を整えながら蓮は鼻の下あたりを触る。鼻血が出ている様子はなかった。そして尚も蓮めがけて飛んでくる光球を、彼は蹴り飛ばす。


「……くっ!!」


 蹴られた光球は彼方まで飛んでいきそうになったが、すぐさま才我の元へと戻ってくる。

 一連の攻防で、2人は一定の距離を保ったまま対峙した。


(……このガキ、やっぱりあの生徒会長より強えな)

(……俺ので、仰け反らせるのが精いっぱいなんて……!)


 互いに睨みつけるような顔つきで、考えている温度差はだいぶ異なっていた。


*****


「……アレが二ノ瀬才我クンの真のESP、『スフィアボール』デス」


 観客が逃げ出す中、VIPルームにて残っていた悪の組織の首魁たちと、学園理事長、チャールズ・ヴァンデランは優雅にワインを嗜んでいた。そしてチャールズは、才我のプレゼンテーションを始める。


「自由自在に操ることのできるESPエネルギーによって作られた球体。移動、回転、速度、弾力、そのすべてが彼の思うがまま。まさに、想像力によっていくらでも力を持つ異能力なのデス」

「ほう……」


 VIPの1人である「雷霆」は頬杖を突きながら、モニターに映る才我を見やった。


「いい人材だな。どこで見つけた?」

「それは企業秘密ですヨ。ミスター・雷霆」


 チャールズは悪戯っぽく笑うと、舞台を見下ろした。


「彼は私が見つけてきた異能者の中でもトップクラスの力を持っていマス。いくら紅羽クンが強くても、彼の能力には敵わないデショウ」


 そう言いながら、チャールズは手に持ったワインをくるくると回す。


「さて……どこまで才我クンの力を、引き出してくれるカナ?」


 邪悪な笑みを浮かべるチャールズは、どう見てもヴィランとしか言いようがなかった。

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