1-ⅩⅩⅩⅡ ~憑依悪魔・ネクロイの脅威~
大柄の男は、まるで感触を確かめるように、手を動かしている。やがて、にやりと笑みを浮かべた。
「ほーう。エクソシストなだけあるな、そこらの人間より鍛えていやがる」
「ラ、ラブ……!」
「残念だが、こいつは今、俺の意識の下敷きになって出て来れねえ……よ!」
ネクロイが、アイニの顔面に蹴りを入れる。
「ぐあっ!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラぁ! とっとと気絶しろ! もしくは死ね!」
何度も、何度も。ネクロイは彼女の身体を踏みつけた。
しばらくそれが続き、様子を見る。アイニはもはや動くこともできなかったが、その目だけは鬱陶しく輝いている。
ネクロイには、それが不満で仕方なかった。
「……気に入らねえなぁ、ザコのエクソシストのくせによぉ。早く……死ねよ!」
振り上げた足を、アイニの頭めがけて踏み下ろす。
だが、狙いは外れた。
愛が、自分めがけて突っ込んできたのだ。
「このガキ……!」
片足では踏ん張り切れず、そのまま一緒に転ぶ。
愛は素早く立ち上がり、アイニの前に立った。
「……やめ、なさい」
「嫌だ!」
「もう、逃げ、なさい。結界が壊れたら、アイツはここの外に出る、から」
「……そうなったら、もう逃げられないじゃない! だったら、精一杯抵抗するよ!」
愛の身体は震えていたが、意志は変わらなかった。
ネクロイが、ゆっくりと立ち上がる。
「そうかぁ。そんなに死にたいらしいなぁ。なあ!」
愛の頬を、思い切りひっぱたく。倒れそうになるが、必死にこらえた。そして、ネクロイを睨みつける。
「……大したガキだ。本当によぉ。普通人間ってのは、こういうときはビビって喚き散らすもんだぜ?」
だが、一発殴られただけでもダメージは大きい。次はきっと耐えられないだろう。ダメージが、すでに腕を広げることすらできないほどに効いている。
力なく垂れ下がった手が、ブレザーのポケットに当たった。何か、硬い物の感触を感じる。
朦朧としかけた意識が、ぱっと戻った。そして、力を振り絞ってそれを握る。
目の前ではネクロイが、本気で殺すつもりの拳を握っていた。まともに当たれば、きっと首の骨が折れて死ぬだろう。それは、素人ながら感じ取れた。
(……お願い……)
「じゃあ、死ねやオラぁぁぁぁぁ!」
ネクロイが拳を振りかざすと同時に、愛はポケットの中のものを押した。
それは、安里に緊急時に押せと言われたスイッチ。
咄嗟に脳裏に浮かんだのは、自分が一番信頼できる、自分を守ってくれる人の背中。
(……助けて、紅羽さん……!)
強くボタンを押し、目をきつくつぶる。
拳が飛んできたと同時に、愛の目の前が真っ暗になった。
***************
道路を走る、生身の男の姿があった。
それは、公道を走る車に引けを取らないスピードで。
鬼気迫る表情で、走る赤い髪の男だった。
桜花院を飛び出した蓮は、すっかり日が暮れた夜の町を駆けていた。
どうやら愛をさらった奴は、蓮たちの住む町の外れの教会に向かっているらしい。
そこに向かい、できうる限り急いで走っていた。
「……くそ、無事なんだろうな!」
『おそらく、大丈夫のはずです。エクソシストさんも、先行して向かっているようですし』
彼が話しているのは、電話越しの安里である。彼が仕込んだGPSがあるため、場所は分かっている。あとはどれだけ早く着くかの問題だ。
『蓮さん、あとどれくらいで着きそうです?』
「早くて、あと2分!」
『ギリギリですね! 僕らはそれから5分くらいかかります! 準備があるので!』
「はぁ!?」
走りながら、蓮はキレた。この男、大忙しだが、実際息一つ切らしていない。車並みの速度で走っているのだが。
「あるいは、愛さんがアレを使ってくれれば……」
「アレ?」
そう言いながら、走っていると。
蓮の腰のアラームが、急になりだした。
「……あ、来た!」
『蓮さん、前にそれ投げて!』
安里の指示を受け、蓮が腰に付けたアラームを前に投げる。
次の瞬間、アラームが変形し、黒い枠を作った。
そして、その中に蓮は勢いのまま飛び込む。
直後、蓮の額に硬いものがぶち当たった。
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