1-ⅩⅨ ~絞れない容疑者たち~
「だから、犯人は一番最初に出てきた人だって」
「そうか? こういうのってなんかしれっと出てきた奴が犯人でした、ってパターンのが多くないか?」
「……あなたたち、何してるの?」
蓮が出禁になって桜花院に行けなくなってしまった愛の様子を見に平等院十華が安里探偵事務所を訪れると、蓮と愛が神妙な顔で話し合っている。
「あ、十華ちゃん」
「おう、10円じゃねえか」
「だからその呼び方やめなさい。で、何の話?」
「いやあ、外に出られないし暇だから。お昼に見た刑事ドラマで、犯人が誰かって話を」
「……あなた、狙われているって自覚ある……?」
十華はため息をついた。
愛が安里探偵事務所に加入してすでに1週間。愛への被害というのは、ぱったりと止んでいた。ただ、いつまた襲撃が来るかもわからないので、こうして事務所にて外出を自粛してる。
最初はいつまた襲われるかと怯えていた愛も、1週間もするとだいぶ慣れていた。良くも悪くも、彼女は状況に適応するのが得意であったのだ。
「……で、桜花院の方で、なんか動きはあったのか?」
「何もないわよ。当事者も来ないしね」
現在、十華にも事情を話して、学校で怪しい動きがないかをそれとなく調べてもらっていたが、それも特に収穫はない。
そして安里と朱部は、愛の両親の警護で病院に行っている。こちらも特に問題はなく、もう少しすれば退院できるとのことだ。
「しっかし、完全に行き詰っちまったなあ」
「愛ちゃん、本当に身に覚えないの?」
「ないよ。……映画以外は」
十華から聞いたことだが、愛のクソ映画好きはかなり学校内では問題になっていたらしい。
映画をお勧めしては見せるのだが、その映画はことごとく女子高生には合わない物ばかりだった。スプラッター、ゴア描写。そしてチープなCGに、大根な演技。明らかに需要のないババアのグラビアシーンなど。
その破壊力たるや、安里の消耗っぷりを見ればわかる。十華と「同化」した後、記憶で垣間見た『ゾンビ・イン・センターオブジアース』があまりにもひどすぎて終始ぐったりしていたのだ。
「そりゃあ、そんなの何回も広めようとすりゃ、学校でも浮くだろうよ……」
「だ、だって、みんなで見た方が面白いから……」
「そのほとんどが、「90分寿命を無駄にした」って言ってるのよ」
散々な言われようだが、蓮も「見るか?」と言われれば「嫌だ」というだろう。そんなの見るくらいなら、レンタルショップで何か別のを借りる。
「しかし、それで普通科ほぼ全滅なんだろ? 容疑者絞れないぞ、そんなんじゃ」
「そうなのよね。……っていうか、桜花院の関係者って線は、まだ外れないの?」
「おう。安里が言うには、「過去1ヵ月の間、桜花院にいる間だけ被害がないから」ってさ。あの、ガキンチョ……名前何だっけ。アイツも、絡んできたのは俺にだしな」
「もしかして、篠田さんのこと?」
「それだ。お前、知ってんの?」
「そりゃね。特進科に通う子は大体みんな有名どころの娘さんだからね」
そういえば、十華の後藤も蓮の存在を知っていた。護衛間のネットワークというが、お嬢様同士でもそういうのがあるのかもしれない。
「あの子、反綴編の過激派だからね。あなたにこっぴどくやられて、派閥内でも立場がないみたいよ」
「そんな派閥あるのかよ。どんだけ嫌われてるんだうちの学校は……」
「そりゃ、やったことがやったことだし……」
「……そう言えば、お前は10年前の事件ってどれくらい知ってる?」
「私? うちの学校の生徒が襲われたってことくらいよ」
「そうか……」
どうやら、誰が襲われたか、までは学内でも知られていないらしい。妻咲先生が被害者だという事はシークレットらしい。
「被害者がさ、もし出てきたらどうなるんだろうな」
「そりゃ、過激派は黙ってないでしょうね。その人を旗頭にして、綴編を潰しにかかるんじゃないかしら」
そりゃ、理事長も秘密にするわけだ。お嬢様が暴走しようものなら、学校の維持すら危うい事態になりかねない。
蓮は溜息をついた。かつてぶっ飛ばしたOBどもに犯人がいたかもしれない。
「ともかく、桜花院に犯人がいるんじゃないかって線は、まだ変わらねえみたいだな」
「それで、あなたが出禁だから困ってるわけね」
「俺は別に行ってもいいんだけどよ、余計なトラブルになるなら行かねえほうがいいだろうし」
「……ま、賢明ね」
十華がそう言ったところで、不意にスマホの着信音が鳴った。
「あ、俺だ」
蓮が発信者を見ると、弟の翔だった。
「もしもし。どうした?」
『あ、兄さん? ちょっと困ってるんだけど、来てくれないかな?』
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