第631話 終焉
『うちのバイクがある。いるのは分かっている』
ゼノは警戒した。
『体調を崩しています。用件は伝えますよ』
『いや、すぐに
『横になって休んでいます。明日、出直して頂けませんか』
『……俺が行く。部屋はどこだ』
メンバー3人だけでマネージャーもいない家に、レイラニの兄とはいえ初対面に近い人物を入れるわけにはいかない。
『申し訳ありませんが……』
『ミン! 話がある! 出て来てくれ!』
レオは痺れを切らして大声で叫んだ。
「今のだ〜れ〜?」
マッコリと焼酎でとろ〜んとし始めたジョンが気の抜けた声で聞く。
「レイラニの兄だ」
セスは、レイラニの兄からトラブルに対する恋愛感情は感じられなかった。
(おかしい。本当に話があるだけなのか……)
『待って下さい。今、トラ……ミン・ジウに取り
ゼノは落ち着いて丁寧に言う。
レオはトラブルに礼が言いたいだけだった。
妹が学校に行く様になった事も、母に笑顔が増えた事も、すべては神様がトラブルを引き合わせてくれたおかげで、神に感謝はしたのでトラブルにも感謝を伝えたかった。
出来れば、国に帰ってからも2人の友人でいて欲しいと頼みたい。
普段、そんな事を口にしない無骨な男レオは、思い付いた時に伝えなくては、一生、口にしないと自分の性格を良く分かっていた。
こんな押し問答をしていると、気持ちが萎えてしまう。
ゼノを、ただの英語の喋れる少し顔の綺麗な男としか知らないレオは、ゼノを
『入らないで下さい! 取り
悪意はなく、ただ、感謝を伝えたいレオはゼノを無視した。
「いらっしゃいませ〜」
リビングで真っ赤な顔の少年に出迎えられ驚く。実は成人男性なのだがアジア人は幼く見えた。
酒を
「トラブルにご用ですか〜?」
レオは酒臭い少年の『トラブル』の単語だけを聞き取る事が出来た。
『問題⁈ いや、問題を起こしに来たんじゃない』
『では、何をしに、いらっしゃったのですか。用件を言って下さい』
ゼノはジョンを守る様に立ち塞がった。
ゼノの息からも酒の臭いがする。レオは酔っ払いに自分の気持ちを話す気にはなれなかった。
『直接、話す。ミン! 出て来てくれ!』
『いい加減にして下さい! 不法侵入ですよ!』
『なんだと……』
大柄な2人は
セスはゼノの誤解に気付いた。今までのトラブルのトラブルを知っていれば、恋愛絡みだと思うのは当然だが、今回は違う。
ゼノの誤解を
(もうすぐ、テオが帰って来る。これを見せれば……)
トラブルは自由になり、代表の作戦は終了する。
セスは心の中でゼノに詫びながらテオの帰宅を待った。
『話を聞くと言っているでしょう!』
『お前には関係ない! ミン!』
レオの声を聞き付けたトラブルが部屋から顔を出した。
『レオ? どうしたのですか?』
『ああ、ミン。話がある。少しいいか?』
レオは、2人で話をしたいと言うが、ゼノは目を
興奮した男と弱っている女を2人きりにしてはいけない。なにより、テオの為に絶対に阻止しなくてはならないと、トラブルの肩を引き、隠す様に自分の背後に追いやった。
「ゼノ?」
トラブルはレオがバイクの件で話をしに来たと思っていた。レオと自分には、それ以外の話題はない。
カードで支払ったレンタル代金が引き落とせないなど、人前で言いにくい何かしらの問題が発生したのだと思った。
ゼノの態度の意味が分からないトラブルは「あの……」と、ゼノの前に出ようとするが、ゼノはテオに顔向け出来ない事態にはしないと手を広げて仁王立ちになる。
無骨だが、普段は穏やかな性格のレオは、この
トラブルを引き寄せようと腕を伸ばしては、ゼノに阻止されるを繰り返す。
セスの予想よりもテオの到着が遅かった。
殴り合いになる前に止めなくてはと、セスはソファーの上にジョンを避難させて立ち上がる。
「ただいまー」と、ご機嫌なテオとノエルが両手いっぱいにハイブランドの袋をぶら下げて帰って来た。
「見てー、たくさん買っちゃったー。お土産もある……」
テオの目には、ジープの中から
テオとノエルは、また、トラブルのトラブルが起こっていると息を飲む。
その場にいるジョンとゼノさえも、そう思って行動しているのだから仕方のないことだが、ノエルはセスが冷静でいると気が付いた。
(セス、これはどんな状況なの?)
(ノエル、何もするな)
(何もって?)
(テオのフォローをするな)
(え? 殴り合いでもさせるつもり⁈)
ゼノはテオが興奮して騒ぎ出すと思った。いつもの様に「僕のトラブルにー」と、
テオは、ゼノの予想もノエルの想像も裏切った。
はぁーと、ため息を
「またなの? もう、うんざりなんだよ」
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