第3話 本業
1ヶ月後、メンバー達は新曲のカムバックを無事に終わらせ、テレビ収録に忙しくしていた。
その間も、パク・ユンホのカメラはメンバー達の表情を
トラブルはアシスタント兼専属看護師というだけあって必ず同行した。しかし、パク・ユンホの車には同乗せず、いつもバイクで乗り付けていた。
大きなカメラバッグを肩に掛け、反対側の肩には黒いリュックを背負い、パク・ユンホの後に付いて歩く。
いつも黒い服で、背中を丸め、誰とも目を合わせず、口もきかない。
パク・ユンホは有名人なので現場に現れれば、代表やマネージャー、スタッフ、メンバー達が挨拶に出向く。
しかし、トラブルを気に掛ける者は誰もいない。
パク・ユンホの他のアシスタント達も当然の様にトラブルを無視していた。
セスは、あのプールでの出来事を思い返す。
(あの時の強い目……自分を制止した強い力。同一人物とは思えない……)
メンバー達に話せないまま、自然と目はトラブルを追っていた。
ある日、パク・ユンホと昼食を共にする機会があった。
代表とパク・ユンホのアシスタント達も同席し、皆が席に着く中、トラブルはドアの近くに立っていた。
料理が運ばれて来るとパク・ユンホの合図で肩から黒いリュックを下ろし、パクの元に片膝で
血圧計を取り出し、手早くパク腕に巻き付け測定を開始した。
測定が終わるまで待つ間に小さなケースを取り出す。
血圧計が測定を終わらせ、トラブルはパク・ユンホに測定値を見せた。パク・ユンホは
次に先ほどの小さなケースから、いくつかの機器を取り出しパク・ユンホの指を消毒する。
ペンの様な細い機器を指に押し当てボタンを押すとパチンッと乾いた音がして指先から血が滲み出て来た。
それを違う機器で吸い取ると、ピッと測定が始まる。
再び、ピッと電子音がしてトラブルはその数値を確認する。
パク・ユンホのシャツをまくり上げ、下腹に注射をした。
メンバー達は、その流れる様な一連の動きを息を飲んで見守る。
パク・ユンホがシャツをしまいながらトラブルに尋ねた。
「酒を飲んでもいいかね?」
トラブルは、指を1本立てる。
「一杯だけとは、飲まない方がマシだ!」
パク・ユンホは大袈裟に両手を広げてみせる。
トラブルは、両手を動かして形をいくつか作り、パク・ユンホに見せた。
パク・ユンホは苦笑いをする。
「『では、飲むな』とは、ひどい言い草だな」
パク・ユンホのメインアシスタントであるキム・ミンジュが「先生、トラブルの言う事は聞いておいた方が良いですよ」と、笑う。
「うーむ……」
パク・ユンホは
トラブルは一礼して部屋を出て行った。
ドアが閉まった瞬間、メンバー達は矢継ぎ早に質問を始めた。
「今のなんの注射ですか?」
「あの動きは手話?」
「一緒に食べないのですか?」
パク・ユンホは、そんなメンバー達を愉快そうに見ながら質問に答えた。
「私は糖尿病と高血圧を
「ああ、だから……大人しい方だと思っていました」
リーダーのゼノが大きく
パク・ユンホは続けた。
「看護師としては一流だが、カメラを覚えたいと言うのでアシスタントもやって
「あ、大道具に弟子入りしたいらしいですよ」
キム・ミンジュは料理から目を上げずに、さらりと言った。
それを聞いたパク・ユンホは大笑いをする。笑いながら代表に「トラブルを出入りさせてもいいかね?」と、聞いた。
「もちろん! すぐに特別社員証をお送りします」
代表が二つ返事で引き受けたので、静かに話しを聞いていたセスはいつものポーカーフェイスを崩し慌てた。
「そんな簡単に! 大道具はプールに……」
(トラブルを突き落とした……)
「セス、どうしたの?」
ノエルが困惑するメンバーを代表して聞いた。しかし、セスは何と言って良いのか分からなかった。
そんなセスに気付いたパク・ユンホは、いつもの様に頬に手を当てて優しく言う。
「トラブルが望んだのだから大丈夫だよ。トラブルはトラブルを対処出来る」
「しかし……」
セスが言い掛けた時、末っ子のジョンが無邪気に口を挟んだ。
「ねぇ? トラブルは、どうしてトラブルって呼ばれているの?」
キム・ミンジュ始め、アシスタント達が凍り付く。
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