第20話 台湾コンサート1日目・その2


 控え室で簡単な打ち合わせを行い、会場を確認しに舞台に向かう。


「メンバー、入りまーす!」と、スタッフの声と拍手を受けながら、リーダーのゼノがいつものように挨拶を済ませた。


 舞台の広さを確認した後、セットの動きと照明、デジタル映像を見るために観客席にいる監督の元に向かう。


 監督の隣ではパク・ユンホとキム・ミンジュがリハーサル風景を眺めていた。


 もちろんカメラ機材と一緒だ。


 今回はノエルのソロ曲の前にシルエットのダンスが入る。映像ではなくライブなのでノエルは少なからず緊張していた。


 舞台中央のセット上方に白いスクリーンがある。


「後ろから強いライトで照らす」と、ノエルに説明をしながら、監督はマイクに向かい「暗転して、ノエルライト点けてみて!」と、指示を出した。


 会場内が暗くなり、パッと白いスクリーンが浮かび上がる。


「おー!」


 メンバー達が声を上げる。


「いいなぁ」

「シルエットってカッコ良く見えるよね」

「ノエルは、本当にカッコいいですよ」

「ねぇ、あれ何?」

「なんか動いてますね」


 白いスクリーンの端で、何かがヒラヒラと動いている。


 監督がマイクに向かって言う。


「誰かスクリーンの近くにいるか?」


 人影がスクリーンに浮かぶ。『はい?』と、インカムで返事したのは美術スタッフだった。


「確認してくれ」


 監督に言われ、美術スタッフが見上げる。


『あ、頭上注意の貼り紙がはがれてますね』

「取り除いてくれ。シルエットで映ってる」

『はい』


 美術スタッフが手を伸ばしているが、まったく届いていない。えーっとと、台を探している様子が影で見て取れた。


 唐突にパク・ユンホが監督に耳打ちした。


「トラブルはその辺にいないかね?」


 監督はそのままスタッフにマイクで伝える。


『えっ、はい。いると思います』


 影がぼやけて大きくなり、美術スタッフは消えた。


 しばらくして下方に2つの影が現れた。1つの影が指を差して、何やら話している。


 もう1つの影が濃くなる。


 ふいにライトが消され、スクリーンは見えなくなった。


 パクが監督のマイクを奪って叫ぶ。


「ライトを消さないで!」


 マイクを投げ返し、パク・ユンホはカメラをかまえた。


「?」と、それを見守るメンバー達。


 再びパッとライトが点くと、一同は息をのんだ。 


 スクリーンには姿勢の良い、少し上を向いた横向きの女性のシルエットが浮かんでいた。


 美しく流れるような背中の曲線。完璧なスタイルのシルエット。彫刻のようだが、残念なのは腰に工具ベルトが巻きついている。


 パク・ユンホが連続でシャッターを押した。


「素晴らしいだろ?」


 画像をメンバー達に見せながら満足気に口角を上げる。


「あれ、誰だ?あんなダンサーいたか?」と、監督は首を傾げた。


「あれ、トラブルだよ!」


 テオが指を差す。


「え⁈ 」

「そうだ、トラブルだ!」


 メンバー達だけでなく監督も周りのスタッフも目を見張った。


 シルエットのトラブルは膝を曲げ、大きく手を振り、ジャンプをして貼り紙を剥ぎ取った。


「おー」と、監督は手を叩く。


「高い!」

「すごいよ、トラブル」

「バスケの時みたいだ!」


 しかし、シルエットのトラブルは立ち去らない。まだ、上を見ている。剥がし残しがあるようだ。


 軽くジャンプして、両手でどこかにぶら下がった。


 美しいシルエットを息をのみながら見つめる一同。


 影の腕がゆっくり曲がり、体が持ち上がっていく。


「懸垂してる……」


 片手を離して上へ伸ばす。しかし、届かない。片手を上げたまま、さらに体を持ち上げる。


 パッと飛んで、着地をした。


 影は大きく薄くなり、シルエットは消えた。


「片手懸垂したよ!」

「嘘だろ」

「信じられない!」

「ジョン、今の出来ますか?」

「本当にトラブル?」

「男だったんじゃない?」

「え?ニューハーフ?」


 メンバー達が驚きながら頭を抱えて飛び出す言葉に、パク・ユンホは満足気に大笑いしながら、その表情をカメラに収める。


  



 リハーサルは終わり、始めて会う台湾のファンの為にメイク・衣装をいつも通り完璧に身に付ける。


 いざ、オープニングへ。





 コンサートも終盤に差し掛かった頃、パク・ユンホが体調不良を訴えた。


 トラブルが控え室に呼ばれる。


 低血糖症状が出ていた。


 トラブルは、パクにブドウ糖を摂取させホテルに帰る事にした。


「あとを頼む」


 パク・ユンホはキムにカメラを託し、トラブルとホテルに帰って行った。

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