第129話 ミッションコンプリート


 ジョンとゼノが下を見下ろすと歓声が上がった。


 ジョンが手を振り、黄色い歓声が悲鳴のように響く。


「さすが、うちの一番人気ですねー」


 リーダーに褒められて、末っ子はドヤ顔をしてみせる。


 テオがジュースを飲んでいるとジョンが「テオ達は何をしていたの?」と、聞く。


「踊ってた。僕達の新曲と僕達のじゃない新曲」

「他のグループのですか?」


 ゼノが眉をひそめる。


「うん、ノエルが動画撮られてるけど大丈夫かなーって心配してた」 


「大丈夫なんですか?」


 ゼノに聞かれ、マネージャーは「たぶん……」と、自信無さげだ。


 テオがへりに座り、お菓子の袋を開ける。ジョンがあーんとしてくる。テオはジョンの口にお菓子を放り投げた。


 ゼノがお菓子を一つ持ち「ジョン」と、声をかけて高く投げた。


 パクッと口でキャッチするジョン。それだけで歓声が上がる。


「僕にもやって」


 テオが口を開ける。ゼノは同じように投げた。が、お菓子はテオの口に入らず額にあたり、地面に落ちて行った。 


 川辺から見上げるファン達から笑いが起こる。


 落ちて行くお菓子を見送っていたテオが制服警官の姿を見つけた。


 警官達は上を見上げてこちらを指差し、何やら話し合っている。


「ヤバいかも」


 テオがそう言うと、マネージャーのスマホに電話が入った。


「はい。えっ! そうですか。分かりました」


 マネージャーは電話を切り、3人にファンから見えない位置に来るように手招きをする。


「代表からです。近隣から苦情が出ていると警察から連絡があり、すぐに止めるようにとの事です」

「ノエルとセスは終わったのですか? まだ10分も経っていないですが」

「ここに、戻って来る必要はないので、もう、撮り終わっているかと……」

「トラブルに連絡してみるよ」


 テオが送信する前にトラブルから着信が入った。


「2人とも撮り終わったって。で、SNSでファンに解散するように言えって」

「どうコメントすれば、上手く行きますかね?」

「ノエルだったら、どうするか考えよう。えーと、まず、僕達の写真を撮って、コメントはどうしようか……」

「バイバーイとか」


 ジョンが手を振りながら可愛く言う。


「ダメだよ、違う場所に誘導しなくちゃいけないんだよ」

「テオ、誘導なんて言葉、よく知ってましたね」


 ゼノの感心にテオは「バカにしないで下さい」と言いつつ「えーと、えーと……思いつかない!」と、根をあげる。


 マネージャーと4人で考え込む……。






 一方、レントゲンを無事撮り終えたセスとノエルは、医務室でテオのSNSの投稿を待っていた。が、一向にその気配がない。


「あの3人には無理だろ。ノエル、お前が考えろ」

「うん、案はあるんだけど。僕達、お昼は会社で食べてからラジオ収録に行くんだよね?」

「ああ、その予定だ」

「仕事増やしてもいい?」


 ノエルの一言で、セスはすぐに察した。


「Liveをするんだな。よし、テオにコメントを送ってやれ」


 2人の会話に「?」と顔を見合わすトラブルとヤン・ムンセ。





「ノエルから来た! 動画に、このコメントを載せろって」


 屋上の3人は、手を振ってバイバーイと動画を撮り、コメントを入れて送信した。


“ 楽しかったね ♪ あと1時間位でLiveやるよ。一緒にご飯食べよう♡ ”


 きゃーと言いながら川辺を離れて行くファン達。


 マネージャーがそっと下をのぞき「上手く行きましたね」と言う。


「本当にノエルは天才だよ」


 テオは幼馴染を褒める。


「時々、怖くなりますけどね」

「悪だくみの天才!」


 晴天の空に向かいジョンが叫ぶ。弾けるような3人の笑い声が響いた。





 医務室に代表が飛び込んで来た。


「こら、トラブル! 早くどうにかしろ! 苦情が来まくりだぞ!」


 トラブルは、ノエルに言って下さいと取り合わない。


「もう、解決した」


 セスはファンの投稿を見せた。


 そこには『予告Liveなんて始めて!』『早く帰って準備するべし!』『このお店にいまーす』などと書き込みがされている。


「代表、あとの苦情処理はお願いしまーす」


 ノエルが頭を下げる。


「あ、これの処理も」


 セスが、テオとノエルと3人で他のアイドルの曲でダンスをしている動画を見せる。


「何⁈ なんで他社の曲を使うんだよー」


 代表が頭を抱えていると、ゼノ達が戻って来た。


 ハイタッチする5人。


 マネージャーはLiveの準備をしてきますと、出て行った。


 代表も、これ、どうするんだよ! と言いながらマネージャーの後をついて出て行く。


 先方に連絡しておかないとまずいでしょうねーと、マネージャー。代表の、クソッ俺だけが大変になってるじゃん! と、悪態あくたい声が去って行く。


 ノエルが誰もいないドアに向かい「いつも、すいませーん。よろしくでーす」と、手を合わせた。


「ミッションコンプリート!」


 ジョンの掛け声にトラブルとヤン・ムンセも加わり、再びハイタッチとハグをする。






【あとがき】

Liveとは、アイドルの生配信が見れるアプリです。楽しいですよ〜。


皆様、体調に気をつけて下さい!

油断してはダメですよー。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る