第130話 メイク落とし
トラブルがティッシュで顔を拭き始めた。
「どうしたの?」
手話で、メイクを取りたい、
テオはゴシゴシと顔を
「ノエル、トラブルの顔が呼吸困難なんだって」
「顔がなに?」
「ああ、メイクを落としたいのですね」
ゼノがテオの言葉ではなく、トラブルの様子で理解した。
「そのままの方が美人ですよ」
ヤン・ムンセが悪びれずに言うとテオとトラブルは2人並んで
「同じ顔に同じように
ヤンはノエルの後ろに逃げた。
ノエルは笑いながら「ユミちゃんにメイク落としを頼まないとね」と、髪をかき上げる。
トラブルは、我慢出来ませんとミニキッチンで顔を洗い出す。
テオのきめ細かい肌を再現したベースメイクも、太く書き足された眉毛も、女性らしさを隠す為の頬のシャドーもジャブジャブと洗い流す。
「トラブル、そんなに
テオの言葉を無視してタオルでゴシゴシと顔を拭く。
あー、さっぱりしましたと、トラブルは笑顔を向ける。
濡れた髪から茶色の
「落ちなくなるから洗って来た方がいいぞ」
セスに言われ、トラブルはタオルで頭もゴシゴシと拭くが、髪の色はタオルを汚すだけでまったく落ちない。
「練習室のシャワーブースで頭から流して来た方が良いのでは?」
ゼノの提案にテオは、胸の前でバツ印を作りながら「あそこはガラス張りなのでダメです!」と、言い切る。
「兄弟というよりも彼氏みたいですね」
ヤン・ムンセが感じたままを口にした。
「えっ」と、固まるメンバー達を尻目にトラブルは冷静に手話をした。
バカな事を言わないで下さい。ユミちゃんの所に行ってきます。テオはメイクを落とさなくて大丈夫ですか?
「1人だけメイクしているのは不自然だから、テオも落としておいでよ」
ノエルの微笑みにテオは
トラブルはヤン・ムンセにメンバー達の心電図を頼み、テオと医務室を出て行った。
2人で並んで歩きながら、顔がカピカピしますと、トラブルは顔面を動かす。
「カピカピ? 水洗いだけだと突っ張るでしょ? キチンと洗顔してクリームをつけないとシワが増えるよー」
メイク室へ向かう道中、すれ違うスタッフ全員がトラブルとテオを2度見して驚いた顔を向ける。
「僕達、目立ちすぎだね」
そうですね、早く行きましょう。
メイク室でユミちゃんに笑顔で迎えられる。
「どうだった? 作戦成功?」
「大成功だったよ。ありがとう」
「あ、トラブル、顔を
ユミちゃんは2人を座らせ、前髪を上げて留め、メイク落としを顔に乗せる。
テオは自分で
トラブルも見よう見まねで真似をするが、ユミちゃんにダメ出しをされてコットンを取り上げられた。
「こうやって、ゆっくり下から上へ拭き上げるのよ」
テオはメイクを拭き終わり、化粧水をたっぷり肌に吸わせている。
ユミちゃんに「トラブルもこれ、つけて」と渡されるが、トラブルは、水で顔を洗いたいとジェスチャーで言う。
「もー、本当にどっちが女子なんだか。いいわ、髪も落としてあげるから練習室のシャワーに行きましょう」
「えっ」
「えって何よ。
「行かないよ! ただ、ガラス張りだから……」
「何想像してんのよ! まったくゼノといい、うちの男子はイヤらしいんだからー!」
ユミちゃんはプンプンと怒りながら愛するトラブルの手を引いてメイク室を出る。
ドアが閉まる直前、トラブルは素早くテオにチュッと投げキッスをした。
テオの鼻の下が、でろ〜んと漫画のように伸びる。
ルンルンとテオが控え室に戻ると、すでにLiveが始まっていた。
「遅いよー」
「僕のご飯は?」
ワイワイと賑やかに、いつものように進行して行く。
練習室のシャワーブースでユミちゃんがトラブルの服を脱がす。
「ほら、ズボンも脱いで。濡れちゃうわよ」
ユミちゃんは下着1枚のトラブルの頭を下げさせシャワーで流して行く。
ふと、背中に小さな傷を見つけた。
「ねぇトラブル、その背中の傷、台湾で踏まれた時の傷?」
(第1章第27〜29参照)
あー、はいと
「そんなに
トラブルは、おー、と拍手をしてgoodと親指を立てて見せる。
「私がメイクしたせいで間違われちゃったんだもんね。責任感じちゃうな……」
タオルで頭を拭く手を止め、ユミちゃんを抱きしめる。
(本当の事を言えなくてごめんなさい……)
心の中でしか
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