第131話 ユミちゃんとヤン・ムンセ


  翌日から健康診断が本格的に始まった。


 医務室の2人は朝から対応に追われていた。


 余裕を持って日程を組んであるとはいえ、2人共、始めての作業で、中々、さばききれない。


 しかも、ヤン・ムンセは採血が不得意な事が露見ろけんした。


「いえ、自分は普通です。トラブルが上手すぎるんですよ」


 ヤン・ムンセは反論するが社内で「ヤン先生は痛い」と、噂が広がり、トラブルが医務室にいない時は採血に来ない社員が続出した。


 その為トラブルは、昼休憩を返上して採血スピッツを持って社内を周る羽目になった。


1日2回、検査センターのスタッフが今日の採血と採尿を受け取りに来て、パソコンに結果データを送信した職員のリストを置いて行く。


 トラブルはヤン・ムンセに採血ではなく、結果確認を主な仕事としてもらう事にした。


ヤン・ムンセは一人一人の過去の結果と、身長、体重、血圧の変化を比較していく。


 心電図とレントゲンの読影どくえい報告は紙で来るが、ヤンは報告書に誤りがないか自分の目で読影どくえいし、それもパソコンに入力していった。


 不明な点や確認事項はトラブルに相談しながら医師としての仕事を丁寧に行う。


トラブルはヤン・ムンセに、この異常値の再検査が妥当な時期は、一か月後? 半年後? 一年後? と、意地悪な質問をして楽しんだ。


 しかし、ヤン・ムンセはその都度しっかりと調べて根拠と共に返答し、トラブルを感心させた。


「イム・ユンジュ先生にしごかれましたから」

 

 ヤン・ムンセは胸を張る。


忙しければ忙しいほど楽しそうに張り切る所はイム・ユンジュに似ていると、トラブルは感じた。




ある日、大道具の責任者、ソン・シムの健診結果が届いた。


 トラブルはソンに遠隔診療を受けさせる為、イム・ユンジュにメールをする。


 イム・ユンジュから『明日の1時に診察可能』と、返信が来た。それをソンに伝える。


「明日は、この新しいセットで初収録だから俺は抜けられない」と、ソンは言う。


 トラブルはメモを書いた。


『私がパソコンを持ってここに来ます。15分程で終わります』


 ソンは了承し仕事に戻っていった。




メンバー達は相変わらず忙しく、トラブルとテオは会えない日が続いていた。


 トラブルは寝る前にラインをするが、テオは翌朝に返信する始末だった。


その反対にユミちゃんは毎日のように医務室に顔を出していた。


 チーフヘアメイクの彼女はメンバー達と行動を共にしない。メンバー達に同行するのは、今では主にソヨンの仕事となりユミちゃんは総監督といった所だ。


 ユミちゃんが医務室に来る目的はトラブルのはずだが、トラブルは採血の為、あまり医務室にいる事が出来なかった。


 それでもユミちゃんはヤン・ムンセとの息の合った会話を楽しみに訪れていた。


その内、ヤン・ムンセの丁寧さとユミちゃんのおしゃべりで仕事が滞り、トラブルに、もっとペースを上げないと契約期間内に終わらないと注意され、ユミちゃんが手伝うようになった。


 初めは、心電図を取りに来たスタッフに「次の方どうぞー」程度の手伝いだったが、ヤン・ムンセはユミちゃんにパソコンを見せて、「異常値は赤で表示されるので、赤い数字があったら教えて下さいね」と、検査結果を見せるようになった。


元々、勉強家で新し物好きなユミちゃんは異常値を見つけてはヤン・ムンセの医学用語を噛み砕いた説明に、目をキラキラさせて聞き入った。


 そして、その話を自慢げにメイク室で話していた。


ある時、ユミちゃんはパソコン画面が真っ赤になるほど異常値だらけの事務員を見つけた。


 慌ててヤン・ムンセに報告する。


 ヤンは笑いながら「この方は人工透析じんこうとうせきを受けている方ですよ」と言う。


「とうせき?」


 ユミちゃんの疑問に透析とうせきについて説明するヤン・ムンセ。


 ユミちゃんはいつものように、その話をメイク室でスタッフに話して聞かせた。




 2人のやり取りをトラブルは何も知らない……。

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