第132話 バレないように
テオは久しぶりの社内での仕事に胸を踊らせる。
「テオ、ご機嫌だね」
ノエルが幼馴染に目を細めた。
「だって10日ぶりに会えるんだよー」
「連絡は取り合っていたのですよね?」
ゼノの言葉にテオのテンションが少し下がる。
「おやすみ・おはよう。だけ」
「相変わらず業務連絡だな」
セスが鼻で笑う。
「だって、おやすみってライン来て、もう寝るのに邪魔したくないから朝おはようって送ってトラブルは出勤時間で仕事中は連絡出来ないし集中してないとマネージャーに怒られるから考えないように頑張ってると、もう夜で、で、おやすみって……」
「分かった、分かった。よしよし」
肩で息をするテオをノエルが慰める。
部屋着っぽい衣装に着替え、素肌っぽいメイクをする。
簡単な打ち合わせの後、新しいセットでテレビ収録が始まった。
まず、ネット通販で部屋のインテリアを選び、その後、2チームに分かれて昼食のピザを作る段取りだ。
ピザ生地を練っていると、スタジオにトラブルが現れた。
手にはパソコンを持ち、誰かを探しているようだった。
収録中にもかかわらず、テオはトラブルに手を振った。
トラブルは振り返さないが、破顔するテオにセスが「気持ち悪い」とツッコミ、ノエルが「ピザが来たって思われちゃうじゃん」と笑いに変える。
ゼノはカメラに映らない位置でテオの尻を叩いた。
テオは小さく「ごめん」と、仕事の顔に戻る。
トラブルは探していたソン・シムを見つけた。
2人でスタジオを出て倉庫に入り、大道具の片隅でパソコンの前にソンを座らせる。
しばらくして画面にイム・ユンジュ医師が現れ、遠隔診療が始まった。
『お久しぶりです。その後体調はいかがですか?今回の健診結果と
「はい、ありがとうございました」
ソンはパソコンのイム・ユンジュに深々と頭を下げる。
トラブルはパソコンを閉じ、ソン・シムに、疲れを感じたら無理をせず休むように伝える。
「おう、ありがとな」
ソンは仕事に戻っていった。
「はい、一旦止めまーす」
監督の声でピザが焼き上がるまで休憩となり、メンバー達は思い思いセット内のリビングでくつろいだ。
テオはトラブルを追いかけて、倉庫に入って行く。
「トラブル」と、声をかけるとトラブルは振り向き、ちょっと待っていて下さいと、手話をした。
トラブルの向かう先に、カン・ジフンが立っていた。
カン・ジフンはテオの姿を見て頭を下げ、挨拶をした。
テオも頭を下げ返す。
トラブルはテオに背を向け、カン・ジフンと話し出した。しかし、トラブルは筆談なのもあり時間がかかる。
テオは休憩が終わってしまうと思いながらも辛抱強く待った。
トラブルもテオの気持ちに気が付いているのかチラチラとテオを気にかける。
カン・ジフンは再びテオに頭を下げ、トラブルに笑顔を向けて帰って行った。
「カン・ジフンさんとランチに行くの?」
テオの問いにトラブルは笑顔で、いいえ、忙しいので断りましたと、手話をする。
「約束してたんじゃないんだ」
はい、いつも約束はしていません。彼が近くに配送に来た時に私と時間が合えば行きます。
「そっか」
久しぶりですね。
「うん、トラブル元気だった?」
はい。忙しくしていました。
「うん、僕も。でも、新番組が始まったから、これからはもっと会えるよ」
カメラが回っている時に手を振ってはいけません。
「う、うん。ゼノにお尻を叩かれました。ペシって」
トラブルは上を向いて笑う。
テオは「ハグしたい」と、両手を広げ近づく。が、トラブルはテオの手を取り握手をした。
「なんで?」
テオが眉間にシワを寄せると、後ろから声がした。
「よ、トラブル。バイクの調子はどうだ?」
「テオさん、お疲れ様です」
「お疲れ様でーす」
数名の照明スタッフが挨拶をしながら通り過ぎた。
「お疲れ様です」と、テオも挨拶を返す。
「……危ない所だったね」
はい。社内は危険です。
「うん、そうだね。気をつけます」
トラブルは微笑んでテオの肩をポンと叩き、医務室に戻って行った。
テオもスタジオに戻る。
ちょうど、ピザが焼き上がり、オーブンから取り出す所から撮影が再開される。
「はい、OKでーす。お疲れ様でしたー」
テオを含めメンバー全員がしっかりとそれぞれのキャラを演じ切り、新番組初日の撮影を終える事ができた。
衣装を脱ぎながらテオはノエルに相談する。
「僕とトラブルの事は、会社でも秘密なんだよね?」
「当たり前だよ。外部スタッフもいるし、誰がマスコミに売るか分からないよ」
「うん……人目を避けるって思ってた以上に大変かも……」
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