第128話 ミッション開始


 セスは駐車場側を覗くが、正面玄関は見えない。


 ジョンがトラブルの隣に座ろうとした。


「ダメだよ!」


 ノエルが止める。


「並んだら体の大きさでバレちゃうよ」

「そっかそっか」


 トラブルは屋上のへりから振り向いて下を見た。


 テオー!と、歓声が上がる。


「まだ、バレてないな」


 セスはしたり顔を見せる。


 もう1枚写真を撮りましょうと、トラブルが提案する。


 トラブルはノエルからスマホをもらい、4人をファンから見える位置に並ばせた。


 脚台あしだいに乗り、川辺のファンの一部が入るように撮った。


 コメントをつけて送信する。





 一方、テオとヤン・ムンセは倉庫から外の様子をうかがっていた。


 まだファンが多く、動ける状況ではない。


 テオのスマホが鳴り、2枚目の投稿を知らせる。


“ みんな、そこにいる? 一緒にうつってー ”


「誘導が上手いですね」


 ヤン・ムンセが感心する。


「ノエルは頭がいいんです」


 残っていたファンが一斉に移動を始めた。


「今です」と、2人はレントゲン車に向かう。





 ヤン・ムンセからトラブルにメールが入った。


 トラブルはそれをマネージャーに見せる。


「テオがレントゲン車に入りました。ジョン、ゼノ、行きましょう」


 マネージャーの指示で4人はへりから離れた。


 きゃー! 行かないでー! と、ファンの声が響く。


 ノエルがへりに腰掛けた。


 ノエルー!ノエルー! と、黄色い声が呼ぶ。


 ノエルが下に向かい手を振ると、さらに大きな歓声が上がる。


 ジョンを先頭に2人は滑るようにハシゴを下る。


 スタジオから倉庫に入るとレントゲンを終えたテオが走って来た。


 3人はハイタッチをする。


「すぐに行きましょう」


 ヤン・ムンセの誘導でジョンとゼノはレントゲン車に走る。


 テオは屋上に向かった。


 屋上では、ノエルとセスが「さて、何をしてテオを待ちますか」と、頭を悩ませていた。


 ノープランですか? と、トラブル。


「うん、どうしよっかなー」とノエル。


 セスは肩をすくめるだけで何も言わない。


 突然、トラブルがノエルの両足をつかみ、えいっと持ち上げた。


「わーっ!」


 ノエルの上半身が空中に出る。


 眼下がんかのファンからの悲鳴が響いた。


「離して! いや、ダメ、離さないで!」


 トラブルは笑いながらノエルの足を下ろす。


「死ぬところだったよ!」


 トラブルは顔だけが下から見えるギリギリの位置に立ち、大笑いをする。


「なるほど、テオがやりそうな事だな」


 セスが顎に手をやった。


「僕達が絡み合っていれば、どうにかなるかなぁ」と、ノエル。


 セスはノエルの近くに座り、下を見下ろした。


 ノエルとセスが並べは歓声はさらに大きくなる。


「そういえば、セスと絡む事ってそうないよね?」


 ノエルはファンを見下ろしながら髪をかき上げる。


「ああ、お前はテオとセットだからな」

「セットって…… セスと貴重なツーショットを撮りまーす」


 ノエルはセスに寄りかかりスマホを高く上げた。


 川辺のファンも歓声を上げながら屋上にスマホを向けて写真や動画を撮っている。


 ノエルは3枚目の写真を投稿した。


 上にスマホを向けていたファン達は一斉に手を下ろしてスマホを操作する。


 瞬く間に、いいねが跳ね上がった。


 トラブルはノエルのスマホをのぞき込み、すごいですねと、手話をする。


「おい、手話が見えないようにしろよ」


 セスが注意する。


 おっとと、トラブルはへりから離れた。


「テオ、まだかなぁ」


 ノエルが呟くと同時に「お待たせー」と、テオが息を切らしながらハシゴを上がって来た。


「ここのハシゴ、張り付くように降りないと下から見られちゃうよ。気をつけて」


 トラブルは上着をテオに渡し、分かりましたと、ハシゴを降りて行った。


「テオ、待ってたよー」


 ノエルがハグをする。


 テオは座っているセスとハイタッチをして、隣から下を見下ろした。


 ファンから、テオコールが湧き起こる。


「テオ、ずっとここにいたフリをしろよ」

「そうか。今まで何してたの?」

「トラブルがノエルの足を持って突き落とそうとした」


 セスがクックッと肩で笑う。


「本当に⁈」

「本当だよー」


 ノエルもテオの隣から下を見下ろす。


「あと、20分もどうすればいいの?」

「いや、10分位のはずだ」

「このまま、喋っていても大丈夫かな?」

「いや、引き付けておかないとゼノとジョンがレントゲン車から出られなくなる」


 テオは、んーと、考える。


「じゃあ、踊ろっか」


 自分のスマホの音量を最大にして新曲の振り付けを踊り出した。下にまで音が届いているか分からないので、わざと大袈裟に動いて見せる。


 ノエルも並んで踊り出す。セスは座ったまま笑って見た。


 2曲目は他のアイドルグループの曲を流す。


「これ、動画流れちゃうけど大丈夫かなー?」


 苦笑いながらも完コピでテオと踊るノエル。


 セスも加わり、ファン達の合いの手が聞こえて来る。


 踊りきり、ハイタッチする3人。


「喉が渇いたよー」


「差し入れでーす」と、丁度良いタイミングでジョンが上がって来た。後ろからゼノが続く。


「はい、トラブルから」


 ジョンが差し出した袋にはジュースとお菓子が入っていた。


「次、セス、ノエル、行きますよー」


 マネージャーの声に2人は素早く動く。

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