第127話 血は繋がっていないのか


「何をしようとしているの?」


 ユミちゃんがメイク道具を持ち、怪訝けげんそうに現れた。


 代表が計画を話して聞かせる。


「えー、ファンをだますの? 顔は似ていても皆んなと並んだら背の高さでバレちゃうわよー」


「うん、台を持って行った方がいいね。自撮りなら任せて」


 ノエルはウインクをして見せた。


 本人の了承を得ずに、ユミちゃんはトラブルを座らせて肩にタオルを掛ける。フェイスガードをトラブルに持たせ、カラースプレーを髪に吹き付けた。


 トラブルの髪が明るい茶色に染まっていく。


「よし」と、ユミちゃんがタオルとフェイスガードを外した。


 トラブルが振り向くと「おー」と、一同驚きの声を上げる。


「ご兄弟ですか?」


 ヤン・ムンセは、テオとトラブルを見比べながらポカンと口を開けて聞いた。


 いいえと、2人で首を振る。


「では、従兄弟いとこ再従兄弟はとこ?」


「それが違うのですよ。赤の他人なんです」


 ゼノは、信じがたいですがと腕を組む。


「似ていますねー」


 驚きを隠せないヤン・ムンセに「先生、もっと驚かせてあげる」と、ユミちゃんはテオとトラブルを並べてメイクを施していく。


「トラブル、日焼けのしすぎよ。はい、目を開けて。こら、眉間にシワを寄せないの。こすったらダメよ!」


 ユミちゃんに叱られながら、トラブルは目を細め、手話で絶対に上手くいかないと、つぶやく。


「それは、お前の演技力次第だな」


 セスは鼻で笑う。


「はい、出来上がり!」


 ユミちゃんは、テオとトラブルの顔を並べてヤン・ムンセに見せた。


「うわー! 特殊メイクみたいですね!」

「でしょー。でも、台湾の時よりも2人の顔が変わって来ているわー」

(第1章第25話参照)


「え、どういう意味ですか?」

「テオの輪郭が大人っぽくなって来ているの。顎が四角くなったわ。トラブルの方は変わらないんだけど」


「確かに台湾の時は体格でしか見分けがつかないほど似ていましたよね。今は顔だけで男性か女性か区別が付きますね」


 リーダーのゼノはテオが男らしくなったからだと誇らしく思った。


「テオ、上着脱いでトラブルに渡して」


 ノエルは言いながらテオのオレンジ色の上着を脱がせ、トラブルに渡す。


 トラブルは白衣を脱いでその上着を羽織るが、サイズが大きすぎて子供のようになってしまった。


「白衣を着たまま羽織ってみろよ」


 セスに言われた通りにすると、かろうじて見栄えが良くなる。


この色、嫌です。


「贅沢言うな」


 なぜ、贅沢⁈ と、にらんでみてもセスには通じない。


 ヤン・ムンセが再び聞く。


「本当に兄弟ではないのですか? どこかで血が繋がっているとか」


 さぁ?と、トラブルとテオは顔を見合わせる。


「本当に本当? ご両親が再婚しているとか、ないですか?」


 ヤン・ムンセは重ねて聞く。


「もう、いい! 時間がなくなる。作戦開始!」


 代表の一言でレントゲン大作戦が始まった。


 メンバー4人とトラブルとマネージャーはスタジオに向かう。


 ジョンを先頭にスタジオ2階通路からハシゴを登った。


「あなた達、こんな危ない事をしてたのですか!」と、マネージャーはハシゴにつかまりながら見上げて叫ぶ。


 ジョンは、へへっと笑って誤魔化し、ハシゴの先のドアを、えいっと開けた。


 ジョンに続き、ゼノとセスがドアからバルコニーへ出る。


「うわー、こんな所あったのですねー」


 ゼノに笑いかけながら、ジョンは「こっちだよー」と、さらにハシゴを登る。


 セスはハシゴの強度を確認しながら登って行った。


 ノエルとトラブルもバルコニーへ出る。


 ノエルの案内でトラブルはさらに上へ伸びるハシゴを登って行く。


「待って下さいよー」


 マネージャーは脚台あしだいを抱えながら怖々と登った。


「ゼノ、どお? すごいでしょー」


 ジョンは両手を広げて走り回る。


 セスは四方を見下ろし「こっちが駐車場で倉庫の屋根がこれで……」と、方角を確認していた。


 ノエルは自撮り棒をスマホにつけ、アングルを探す。


「皆んな、集まってー」


 ノエルの呼び声に集まる4人。


「トラブル、脚台に乗ってギリギリまで下がって。ジョン、トラブルの前に。ゼノ、トラブルの横に。セス、前に出て」


 ノエルは自撮り棒と自分の腕を目一杯伸ばし、景色が入るように撮る。


 しかし、メンバー達と青い空が画像を占めており、どこから撮っているのか今ひとつ分からない。


「うーん、イマイチ」


 トラブルはスマホをのぞき込み、脚台をノエルの位置に置き、その上にノエルを立たせた。


 少し間を開けて後ろにゼノ、ジョン、セスを交互に位置をずらして立たせ、自分は屋上のへりに座り、顔の前でピースを作る。


 ノエルが高くなった分、川辺がハッキリと写り込み、メンバー達の身長差が分かりにくい構図になった。


「いいじゃん! これにコメントをつけてー……僕たち川辺側から下を見てるよーっと、送信!」


「さあ、どれくらいで反応しますかね?」


 ゼノが思うよりも早く、トラブルが指を鳴らした。下を指差す。


 メンバー達が下をのぞくと、5、6人の女の子がキャーと歓声を上げた。


「早っ」と、ノエル。


「これだけ離れているとトラブルがバレないですね」

「離れている分、時間稼ぎが難しいぞ」


 セスはゼノに気を抜くなと言う。


 眼下がんかに続々とファンが集まって来ていた。



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