第126話 トラブルを囮に


 トラブルは医務室でセスを捕まえ、人が集まり過ぎているが今日レントゲンを撮りに駐車場に出るのは可能か?と、マネージャーに聞いてもらう。


 マネージャーは、うーんと腕組みをした。


「確かに、メンバー達が明らかに社内にいると知られてしまったので、時間が経てば経つほどファンが集まって来て危険でしょうね」


 トラブルは、別の日に時間を作る事は可能かと聞くが、マネージャーは確実に時間を取れるのは今日だけで約束は出来ないと言う。


 ヤン・ムンセが戻って来た。


「いやー、会社の前は凄い人だかりですよ。警備員が出て来てましたよ」


「もっと、入口に車を寄せて何かで隠しながらなら、撮ることは可能では?」と、ゼノが提案するが、セスは「また、転倒事故が起きたらファンが怪我をするだろ」と、ぶっきら棒に言い返す。

(第1章第27話参照)


 マネージャーが、参ったなと頭を抱えたその時、代表から電話が来た。


 現状を報告し、医務室にメンバー達といると伝える。


 マネージャーが電話を切った途端に代表が勢いよく現れた。


「お前、今度は何をやった!」


 開口一番にトラブルに向かって言う。


 トラブルは呆れた顔で返事をしない。ジョンを手招きして応接室のソファーに座らせ、採血の準備を始めた。


「僕から? 僕が一番?」


 ジョンの不安をよそに、トラブルは手早くジョンに針を刺した。


「イッ! たくない⁈ 」


 ジョンは生まれて始めて自分の腕に刺さる針を見た。


「ジョン、痛くないの?」

「うん、痛くない」


 トラブルは採血を終わらせ、ジョンから針を抜く。しばらく押さえてから絆創膏を貼った。


次、テオ、座って下さい。


 テオの採血をしていると、会社を取り囲むファンの対策を考えていた代表が笑い出した。


「いい対策を思いついたぞ!」


「?」と、テオとトラブルは代表を見る。


「ほら、テオが2人いる。1人、おとりで外を走って来い。お前なら振り切って戻って来られるだろ? その間にメンバー達のレントゲンを済ませればいい!」


 トラブルは口パクで、バカと言い、テオの採血を終わらせた。


「バカとはなんだ! バカとは! 会社代表に向かって……」


「代表、ファンに怪我人が出たらまたマスコミ沙汰ですよ」と、ゼノが言い、代表は「うっ」と口をつぐむ。


 トラブルは、次、ノエルと手招きでノエルを座らせ、採血をする。


「本当に痛くないよ」


 ノエルが驚いて皆を見回す間に、トラブルは絆創膏を貼る。


「え、いつの間に抜いたの⁈ 」と、更に驚くノエル。


次、ゼノ。


 手招きで呼ばれたゼノの血管に針が入った瞬間、代表が「思いついた!」と、ソファーにドサッと座った。


「わぁ!」と、揺れるゼノ。


 トラブルは針が抜けないようにゼノの動きに合わせて採血をし、素早く針を抜く。


「代表、揺らさないで下さいよ!」

「完璧なプランを思いついたんだよ!」


 トラブルは代表の言葉を無視して、次、セスと呼ぶ。セスは興奮する代表が座るソファーを指差し、顔をしかめた。


 仕方がないと、トラブルは立ったままのセスの採血を行う。


 代表はマネージャーに「車を出せば、こいつらが会社を出たと思うだろ? で、こいつにテオの格好をさせて、ちらっと窓から顔を出させれば完璧なおとり作戦成功だ!」

「なるほどー!」


 トラブルはセスに絆創膏を貼りながら、バカ2人と、口パクで言った。


「ふっ」と、鼻で笑うセス。


「なんだ? セス」


 代表は聞き逃さない。


「何人、車に乗り込んだか位わかるし、テオのファン以外は動かないから無意味でーす」


 セスは答えるのもバカらしいと、ふざけて言う。


「なるほどー……」と、マネージャー。

「なんだよ!お前らも考えろよ」と、代表はキレた。


 ノエルが髪をかき上げる。


「要は、レントゲンの車周辺から人を減らせばいいんだよね?」

「お、ノエルの悪知恵が炸裂しますかー?」


 ゼノは期待する。


「テオ、ジョン。スタジオの屋上を覚えてる?」(第2章第82話参照)


「あそこで景色が写るように全員で写真を撮ってSNSにアップすればファンは川沿いに移動するんじゃないかな。で、2、3人づつ駐車場に降りて行って、屋上に残ったメンバーが手を振ったりしてファンを引き付けておけば、どうにかなるんじゃないかな」


「ノエル天才だよ」


 テオは幼馴染に抱き付く。


「天才的な悪知恵だな」

「セス、それ褒められた気がしないけど」

「まあまあ。誰からレントゲンを撮るか計画を立てましょう」


 リーダーを中心に頭を寄せ合うメンバー達に、一つ問題がありますと、トラブルは割って入る。


今回のレントゲン車の更衣室は3名までで撮影自体は1人づつです。3人が同時に入り同時に出て来るまでに約15分かかります。屋上まで往復10分として合計25分間を残った2人で引き付けておくのは厳しくありませんか?


「25分間を2人では無理ですね……」


 消沈するリーダーを見て、セスが息を吸い込んだ。


「トラブルを “テオ” にして、先にテオ以外の4人とトラブルで屋上で写真を撮り、ファンが川沿いに移動を始めたらテオがレントゲンを撮って、屋上でトラブルと交代して、後は2人づつ撮りに行けば3人で約20分稼げばいい」


「なるほどー!」

「セス! 僕以上の天才だね!」

「当たり前だ」


 ゼノとノエル以外は首を傾げる。


「全然意味が分からない」

「僕もー」


 私をテオにするとは意味不明ですと、トラブル。


「よし! それで行こう!」


 理解した代表はユミちゃんに電話をする。


 テオの髪色のヘアスプレーとテオのメイクバックを持って医務室に来るように伝えた。


(嫌な予感しかしないんですけどー……)


 トラブルはセスをにらむ。


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