第217話 まさかのBL


「お待たせー」


 テオはご機嫌な様子で控え室に戻った。


「遅いよー、あれ? アイスは?」

「あ、忘れて来た」

「うがー!」


 ジョンがテオの頭をヘッドロックする。


「ごめんってばー」


 頭をグリグリと攻撃されながら笑うテオ。


「ああー、髪が崩れますー」


 ソヨンがそれを止めようとするが、ジョンの耳に入らない。


 ゼノがジョンとテオを引き離した。


「ほら、休憩は終わりですよ。……テオ、シャツがシワシワですね」

「あ……」

「膝と肘が汚れてるぞ」


 セスが指摘する。


「医務室で何をして来たのかなぁ? 随分、爽やかに帰って来たけどー」


 ノエルが、ニヤニヤとテオを見る。


「膝をついて……」


 ジョンが床に膝をつく。


「肘をついて……」


 床に四つん這いになる。そして、気が付いた。


「いやらし〜! 羨ましいー!」


 ジョンが叫ぶ。


「な、何もしてないよ! 仕事中は、そういう事しないって決めたんだから!」

「それに、いい匂いがするー! いやらし〜!」

「これは、トラブルが汗臭いってスプレーしてくれたんだよ!」


「墓穴掘りまくりだな」


 セスは失笑しながら手を振って何かを知らせようとした。


「テオー、汗の臭いを感じるほど近づいて? 四つん這いになって? トラブルと何もしてないって? 誰も信じないよー。正直に認めなさい」

「ああ、ノエル! 意地悪言わないでよー!」


 セスが「おい……」と、会話を止めようとするが、ひと呼吸遅かった。


「がー! 僕も彼女欲しい! テオみたいに、いつでも会える彼女が欲しーい! あー! トラブルみたいに個室を持ってないとダメか〜!」


 ジョンは大声で叫びながら、両手で頭をかきむしる。


 その向こうで、ソヨンが豆鉄砲を食らった様な顔で立っていた。


 ソヨンの存在を思い出したジョンの血の気が引く音がする。


「バーカ」


 セスが3人から目をそらした。


「トラブルが彼女? テオさんの? 彼女?」

「あー、ソヨンさん、これにはわけがありましてー……」


 ゼノが取りつくろうとするが、言葉が続かない。


「ユミちゃんには言わないで!」


 突然、テオが叫んだ。


「ユミちゃん? どうして? ユミちゃん? 本当にトラブルとテオさんは……冗談ですよね? え? ユミちゃん?」


 ソヨンの大きな目は、さらに大きくなりクルクルと回る。


「そう、冗談。これは、全部ジョークです」

「でも、今、ユミちゃんに内緒って」

「うっ」


「バーカ。バーカ」


 セスは面白いと鼻で笑う。


「セス、助けて下さい」

「もう、無理だろ」


 室内で、そんな会話が繰り広げられているとは知る由も無いトラブルが、ドアをノックして入って来た。


 テオにクーラーボックスを差し出すが、テオは固まったまま受け取る事が出来ない。


(ん? 視線を感じる?)


 トラブルは、部屋の隅で立ちすくむソヨンに気が付いた。


 大きく目を見開いたまま、トラブルを凝視している。


ソヨン?


 ソヨンは返事をしない。口に手を当ててトラブルをじっと見る。


ソヨン、どうしたのですか?


 トラブルはソヨンの肩を揺らす。見つめるだけで反応のないソヨンの様子を見て、トラブルはノエルに迫った。


ソヨンに何をした⁈


「ええ⁈ 何もしてないよ! してないけど……」


けど⁈


 ソヨンはトラブルのそでを引き、大きな目で「本当に?」と、聞く。


 トラブルは、わけが分からないとメンバー達を見回した。


「あの、トラブルごめん。バレちゃった」


 え? と、テオを見る。


「本当に……テオさんと付き合っているの?」


 え? と、今度はソヨンを見る。


「ごめん、バレちゃったんだよ……」


 テオは顔の前で手を合わせた。


「本当に? 本当の本当なの?」


 ソヨンはトラブルに返事を求める。


あー……本当です。


「本当なの⁈ ウソー! それって、皆さんは知っていたって事なのですか⁈ えー! 信じられなーい!」


「ソヨンさん、この事は誰にも話さないで下さい。万が一にも外部に漏れたら……」


 ゼノが話している間にも、ソヨンの興奮は増して行く。


「キャー!どうしよう!」


 ソヨンは口を押さえたまま、ピョンピョンと跳ね始めた。


「ソヨンさん、落ち着いて話を聞いて下さい」


 ゼノの声は、まったくソヨンに届いていない。


 顔を真っ赤にしたソヨンは跳ねながら叫ぶ。


「BLよー!ボーイズラブよー! キャー! 素敵ー!」


「ええ⁈」


 5人の声が重なる。

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