第218話 腐女子登場


 ソヨンの思わぬ反応に困惑する。


 ソヨンは顔を真っ赤にして、ピョンピョンと跳ねながら興奮し続けた。


「テオとー! テオとなんて理想的ー! ユミちゃん達と話してたんです! トラブルとメンバーの三角関係とかー、六角関係とかー! いや〜ん! 現実になるなんて! 双子のリアルボーイズラブ! 信じられなーい!」


(誰がボーイズラブだっ)


 トラブルはソヨンの肩に手を置いたまま、首をカクンと落とす。


 セスは手を叩いて、大笑いしている。


「六角関係って……メイクさん達は、そんな話をしていたのですか……」


 ゼノは力が抜けて、椅子に座り込む。


「いつからですか? キッカケは? ノエルと絶交しました? セスと奪い合って、テオが勝ったって事ですか? ゼノの方が大人なのにー。ジョンは? ジョンはどう絡みました?」


 ソヨンは目をキラキラさせながら、呼び捨てになっているとは気が付かず、食い気味に聞く。


「テオと絶交なんかしてないよ!」

「奪い合ってないぞ」

「トラブルとは同い年ですが」

「僕が絡むって、どういう事?」


「あ、あの、ソヨンさん、ユミちゃんには秘密にして下さい。ユミちゃんだけでなく誰にも言わないで下さい」


 テオが泣きそうな顔で頼み込む。


「ユミちゃんに秘密ってなぜですか? 知ったら、きっと喜びますよー。応援してくれますー」


「いえ、以前『私のトラブルに手を出したら、ただじゃおかない』って、言われた事があって……あの、秘密にしてくれますか?」

(第2章第110話参照)


「あー、確かにユミちゃんのトラブル愛は私達と少し違うような……? 分かりました。秘密にします。でも! キャー! まだ、信じられなーい!」


「ねえ、僕が絡むってなに?」


 ジョンは意味が分からないと問いながら、クーラーボックスに手を伸ばす。


「アイス、溶けてるよー。食べるけどー」


 食い気が優先のジョンは少し柔らかくなったアイスを頬張った瞬間に脳みそがとろけて、質問をした事すら忘れた。


 スタッフが呼びに来る。


「ジョン、スタンバイですよ」


 ゼノが急がせた。


「待ってー」


 トラブルは目がハートになったままのソヨンに、テオのシャツを指差す。


「あ! テオさん、脱いで下さい。トラブル、アイロンを掛けて。ここに座って下さい。メイクを直します」


 ソヨンは大慌てでテオのメイクを直して行く。


 トラブルはハンディアイロンで、シャツのシワを伸ばした。


「あちっ、シャツまだ熱いよ」

「早く、早く。監督に叱られますよ」


 ソヨンは、ズボンにシャツをしまうテオの髪を直しながら、ジョンの髪も整える。


「はい、出来上がり。頑張って下さい!」


 メンバー達とトラブルはソヨンに見送られ、スタジオに出向いた。


「照明チェックー」

「はーい」

「マイクテストー」

「OKでーす」

「カメリハ入ります! 音、下さーい!」


 スタッフ達の掛け声が活発になる。


 メンバー達は自分の立ち位置でスタンバイする。


 音が鳴り始め、リハーサルなので軽く踊って行く。


 トラブルは腕を組み、ノエルの右手に注目していた。


 ふと、ノエルがトラブルの後ろに笑顔を向けた。


 トラブルが振り向くとソヨンが立っていた。


 ソヨンは口を手で隠したまま、明らかにニヤけている。


 トラブルは、はぁーと、ため息をいて、ノエルの手に集中する。


「ソヨンさんが腐女子だとは思わなかったなぁ」


 踊りながらノエルが言う。


「まったくです」


 ゼノが苦笑いをする。


「お陰で助かったな、テオ」

「セス、助かったって思う? 僕達の事、あんな、そんな、対象で見てたんだよ?」

「あんな、そんなって何ー?」


 ノエルが腰を曲げて笑う。


「ソヨンさん達はトラブルの事、男だと思っていたって事?」


 ジョンは眉間にシワを寄せながら、しかし、振り付けは間違えずに聞く。


「バカかっ。男の様に見てたってだけだろ」

「クラスに1人はいる、男の子っぽい女子ってとこですかねー」

「なるへそー」

「へそってー!」


 ノエルが、また腰を曲げて笑う。


「あー、ユミちゃんにバレなければいいけど……」

「時間の問題でしょうね」

「僕、殺されちゃうよ〜」

「その時は、一緒に死んであげるよ」

「ノエル〜、ありがと〜」


 テオとノエルは、音から外れてハグをする。


「こらー! 遊んでんじゃなーい!」


 メンバー達だけでなく、監督始めスタッフ全員が驚いて声の方向を見る。


 代表が仁王立ちで立っていた。


「すみませんー」


 ノエルが頭を下げ、ちょうど音楽は終了した。


「手は抜いてもいいが、気は抜くんじゃない!」


 代表の大声に監督は苦笑いし、メンバー達は素直に「はーい」と、返事をする。


 カメラが止められたのでトラブルはセットに入り、ノエルの右手を触る。


「痛くないよ。大丈夫」


 テオもノエルの側に寄る。肩に手を置き「我慢しないでね」と、声を掛けた。


「キャー」


 後ろから小さな悲鳴が聞こえ、代表が振り向くと口に手を当てたままのソヨンと目が合った。


「今のソヨンか? 何やってんだ、お前」

「いえ、何でもないですー」


 ソヨンは控え室に逃げて行った。


 その様子を見ていたノエルはテオに笑いながら言う。


「ソヨンさんを味方に出来たのは良かったけど、ユミちゃんバレるのはやっぱり時間の問題だね」

「僕、本当に殺される」


私がユミちゃんと話します。


「そうだね。すごく泣かれそうだけど」


それは、困ります。


「ま、テオ。ユミちゃんに1発くらい殴られてあげなよ」

「顔は、やめてってお願いしよー……」

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